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「でもさトワ、乗るって言ってもどうやって?」


 走りながらマツリが聞いてくる。


「確かにマツリの言うとおりだよ。コルたちのような人間は船に乗るどころか、近づいただけで殺されちゃうんじゃない?」


 僕たち地上の人間が、政府の船に乗れるなんてことは、普通は絶対にありえない。奴らにとって地上の人間は虫も同然。コルルの言う通り近づいただけで容赦なく殺しに来るだろう。


「それなんだが、ひとつ策がある」


 そう言ってきたのはヴォルニー。


「あそこに小さなコンテナがあるだろ? あの中に潜り込むんだ。そしたらあとは奴らが勝手に船の中に運び込んでくれる」

「そんなに上手くいくか?」

「そうするしか乗る方法はないしな」


 なんて会話をしている間に僕たちはコンテナの側まで到着していた。


「これ……鍵が開いているな」


 静かにコンテナの扉を開けてみると、中には段ボール箱が積んであった。少しだけ奥に詰めれば、僕たち四人が入るスペースは充分にある。


「本当に大丈夫だよな?」

「まぁなんとかなるでしょ。行かない後悔より、行って後悔のほうがいい死に方出来るしね」

「コルルの言う通りだ。ここまで来たなら乗る以外の選択肢はないぞ、トワ!」


 ヴォルニーもコルルもはっきりと言いきる。


「そうか。腹くくるぞ、マツリ」


 僕の後ろで涙目のマツリに声をかける。


「あーもう、こうなりゃヤケだよ! 待ってろよ政府の奴ら、今すぐ地獄に連れてってやるからなぁ!」


 半分楽しみ、半分絶望といった感じなんだろうか、マツリが発狂に似た声をあげてコンテナに入っていく。


「じゃあな。今関東プロダクトグラウンドのやつら救って帰ってくるからよ」


 マツリに続き、ヴォルニー、コルル、僕の順でコンテナに入る。


「鍵閉まるか?」

「あぁ、大丈夫そうだ」


 僕はヴォルニーに返しながら、鍵をかける。

 その途端、コンテナが揺れた。恐らく持ち上げられたのだろう。しばらくゆらゆらと揺れてから、ガシャーンと音を立てて揺れが止まった。


「潜入完了!」


 だんだん目が慣れてきた。真っ暗で分からなかったが、段ボールの中身は衣類らしい。


「見てこれ、制服が入ってる」


 マツリが箱から服を取り出して見せてくる。薄暗いからうっすらとしか見えないけど。


「……しっ! マツリ静かに」


 コルルが人差し指を口に当てる。


「どうしたの?」


 マツリが小声で聞き返す。


「足音が近づいてくる」


 息を潜めて耳を澄ませてみる。コツコツと足音が近づいてきた。その足音はコンテナの前で止まった。

 ガチャガチャとコンテナの扉が音を立てる。


「だ、大丈夫かな……」

「中から鍵をかけてる。外からは絶対開けられないはずだから」


 僕はコンテナに入る時に内側から鍵をかけていたのだ。


「ん? これ、鍵かけたの誰だ?」

「もともとじゃないっすか?」

「違う、内側からかかってる」

「誰か入ってるってことっすか? そんなわけないでしょう、さっさと行きますよ」


 そんな話し声が聞こえ、また足音がコンテナから遠ざかっていった。



「助かったな。鍵をかけておいて正解だった」

「いや、まだ疑われてる。早いとこここを出た方がいいだろう。航行中ずっとここにいるわけにもいかないしな」


 僕の声に、ヴォルニーがそう返してくる。


「そうと決まればさっさと出るか」

「でも、出たあとはどこに行くの? それとも、変装しちゃう?」


 さっきダンボール箱から取り出した制服を、マツリは高々と掲げる。


「それは点呼時にバレる。どこか空き部屋に身を隠しておこう。トワ、扉を開けて」

「分かった」


 僕は扉の鍵に手をかけて回す。

 ガチャンと音がして、扉が開いた。眩しい光が目に飛び込んでくる。そっと扉の隙間を覗いて、周りに人がいないことを確認する。


「おっけー。大丈夫だ」


 今度は僕、コルル、ヴォルニー、マツリの順でコンテナから出る。

 おそらく僕たちがいるのは、貨物室だろう。僕たちが入っていたコンテナの他に三つほど同じものがある。


「こっちだ」


 ヴォルニーが廊下へと繋がるドアを開ける。


「静かにな。足音を立てるなよ」


 ヴォルニーを先頭に僕たちは廊下へと出る。びっくりするほど人気がない。そんなに船員はいないのだろうか。それともどこかで集会でもやっているのか。どちらにしろ、この状況はチャンスだ。


「こっちの部屋、空いてるよ」


 マツリが向こうで扉を開け閉めしながら、声を押し殺して呼んでいる。


「なんの部屋だ……?」


 僕たちもマツリの前の部屋を覗き込む。そこには、特に何もなかった。文字通り空き部屋で、誰かが使っている痕跡がなかった。


「他のところは鍵がかかってるし、ひとまずはここに隠れよう」

「うん」


 マツリの言う通り、近くでここ以外の部屋は鍵がかかっていて入ることはできない。

 全員入ったことを確認すると、マツリはドアを閉めて鍵をかけた。


「よし、これでひとまずは安心だね」

関東(プロダクトグラウンド)まではおよそ半日。それまでにバレなかったらいいだけだ」


 なぜプロダクトグラウンドまでの、船でかかる時間を知っているのだろう。とヴォルニーに対して疑問を抱いたが、今は身の安全が最優先なので、僕は何も言わなかった。


「あ、あのさ……」


 久しぶりにコルルが口を開いた。


「どうしたの?」

「コル、さっきの部屋でこの船の目的地を見ちゃったんだけど……その、行き先が……」


コルルが目を泳がせながら、言葉に詰まる。


「行き先が何? もったいぶらずに言ってよ」


 マツリが催促する。


「…………アメリカ……ニ、ニューヨーク……」

「……え?」


 コルルの発言に背筋に冷たい汗が流れる。

 ニューヨークといえば、地上で唯一スカイシティの人間がいる街。街の中心に立っている通信タワーと、スカイシティのクラシックタワーとで通信を行い、スカイシティをコントロールしている場所。一般民衆が立ち入ることは禁止されていて、スカイシティ常任理事会の者しか入ることができない。完全なる政府所有の()()だ。


「嘘、だろ……?」


 僕だけじゃない。みんなの顔が青ざめる。ヴォルニーが宙を仰いで、大きな息を吐き出す。


「……これは罠だ。俺たちはまんまとここに誘い込まれたんだよ」


 その時だった。ドアがものすごい勢いで開き、ドアにもたれかかっていたマツリが吹き飛ばされる。


「マツリ……ッ!」


 転げたマツリに僕は駆け寄る。


「動くな!!」


 声と同時に、拳銃を持った奴らが四人の男が部屋に入ってくる。その後ろから、白衣を羽織った男がゆっくりと歩いてきて、ドアの前に立ちはだかった。


「どこでそんな知識を手に入れたかは分からんが、その青髪の言うとおりだ。貴様らは私たちの思惑通りの行動をしてくれた。流石地上人の単純な脳だ」


 銀色の長髪に冷酷な漆黒の瞳を持つ男は、フッと不敵な笑みを浮かべる。


「捕らえろっ!!」


 銃を持った奴らが、僕たちを順番に並ばせ、手首に拘束具をつけていく。


「……どうするつもりだ」


 僕は銀髪の男を睨む。


「今はどうもしないさ。ニューヨークにつき次第、処分する。ニューヨークまでおよそ九日、せいぜいこの部屋で死を待つといいだろう」


 その男の言葉で、部屋にいた全員が出ていく。


「……ッ!? 待って!!」


 マツリが何かを言いたげに立ち上がったが、部屋のドアは勢いよく閉められた。よく見ると、内側にはドアノブが付いていなかった。

 完全に閉じ込められた。


「やられたな……」

「やられたなじゃないよヴォルニー! あいつら、マツリの刀を……ッ!」 

「落ち着け。拘束されたこの状態じゃ、何もできない。一旦冷静になれマツリ」

「……でもッ!! ……あいつら……何も、知らないでっ!!」


 マツリが唇を噛む。

 マツリの刀は『西方神楽(せいほうかぐら)』というマツリの家に代々伝えられてきた日本刀らしい。というのはマツリの見解で、実はマツリは実親の顔すら知らない。物心ついた時から持っていたらしく、一緒に人生を送ってきたお守りのような存在だと、前にマツリが言っていた。

 ちなみにマツリはコルルに出会うまでの記憶がない。コルルと初めて会ったのが九歳らしいので、生まれてから九年間は誰に育てられたのかは本人も知らない。ただ西宝神楽がずっとそばにいたということは覚えているらしい。


「それは分かってる。でも、今ここではどうにもできないだろ」

「分かってるよ、そんなことッ! マツリのことなんにも分かってないくせにっ!」


 マツリはそう叫ぶと、壁にもたれて座り込んで何も言わなくなった。

 しばらく沈黙が続いた後、コルルが口を開いた。


「……この手錠、よくできてるね。自力じゃ絶対に外せないようになってる」


 僕はコルルに言われた通り、自分の手首にかけられた金属製の手錠を見る。表面はツルツルで鍵穴らしきものは見つからないし、番号を入力して開けるタイプでもなさそうだ。


「それ、スカイシティの軍事警察が使ってるのと同じものだぞ」

「外し方知ってるのか? ヴォルニー?」

「いや、分からない。ただこいつを見たことがあったってだけだ」


 ヴォルニーが立ち上がり、窓の外を覗く。僕も後に続いて窓を確認するが、真っ暗で何も見えない。


「ま、この部屋は海面より低いし、今は大人しくここに入れられとくか」

「うん……」


 一日に一度、奴らは五人分の食糧と水を与えてくれた。といっても、パン三つと一リットルのペットボトルに入った水だけど。どうやらニューヨークに着くまで僕たちを生かしておくつもりなのだろう。もしくは、ニューヨークで殺さないといけない理由があるのか。

 僕たちは船の一室で腐りかけのパンをかじりながら、一日一日と協力し合って生きていた。あれ以来ヴォルニーとマツリが、一言も言葉を交わしていないことを除けば。


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