8・領の改革
領主の父が言った「此は、お前に対する、私なりの領主教育だと心得よ!」
ナイトの領改革が始まる。
・・・・・そして、中二病が乱れ飛ぶ。
魔法の約束8
領の改革
ナイトは秘密基地の改良をしていた。この部屋はナイトの部屋の隣、扉と窓のない、あの部屋だった。
クラリスと会った後、その部屋に疑問を感じたナイトは、天井裏に登ってみた。天井裏をたどり外に出てみると、慣れ親しんだ我屋敷・・・だったという訳だ。
喜んだナイトは、早速部屋の改造に取り掛かった。
部屋の壁を魔法で強化した。
壁に貼られていた板自体を、結界魔法で魔道具化したのだ。
これで、音も漏れない強護な部屋になった。
次に魔法で、周囲の壁全面に照明を付与する。
光苔を壁にイメージして、その何倍もの光を発するようにする。
間接照明風の強くない光が壁に灯る。
床にある板扉には、指数本が入る穴をあけて取っ手にした。
その先の梯子は撤去し、代わりに傾斜のきつい昔風の階段を、土魔法で作り強化した。
下水道の割れ目には、認識阻害の結界をはり、ナイトと魔法契約をした者のみが、使えるように設定した。
内装は、屋敷の使われなくなった古い机と椅子を、
修理魔法と清掃魔法で綺麗にして、
収納魔法に一旦収納し再び部屋で出す。
新品同様の家具が揃った。
最後に、ナイトの部屋と改造部屋の間の壁を、扉状に切り取り、二つの部屋の間の空間に、予め切り出してあった扉状の岩を、収納を使って取り付けた。
出入に収納を使う、ナイトだけの連絡路が完成した。
扉を開ける様に、岩を収納して通る。
前世で貧乏生活が染みついているナイトには、贅沢が禁忌であった。
しかも、ナイトのイメージでは、秘密基地はやはり廃材を使って作る物であった。
中二病全開である。
改革の手始めは医療。
ナイトは安売りしていたくず魔石を、大量に購入してきた。
ゴブリンなどを討伐した後に取れる小さな魔石は、使い道がない為、討伐証明の役割を果たした後、くず魔石として大量に余っていた。
冒険者ギルドで魔石を買い取ったナイト
「こんなに大量のくず魔石、如何されるんですか?」
聞かれるが、にっこり笑って
「今は内緒です。結果をご期待下さい」
袋一杯の魔石を持って帰る。
ギルドを出てすぐ、魔石を収納へ入れる。
アジトに到着すると、3つの壺にそれぞれ水を入れ、
その一つに治癒魔法をかける。
すると壺の水が、だんだん青く変色してくる。
二つ目の壺は解毒の魔法をかける。
すると水は赤色に染まる。
最後の壺には回復魔法、水は緑色に染まった。
次に三つの色水を全く同じ量、同時に収納して混ぜる。
この過程は、収納魔法だからできるので、普通に混ぜても均等には混ざらない。
完全に同じ量を、完全に、均等に、瞬間的に混ぜ合わさなければならない。
そして、収納から再び出した水は、白い水になっていた。
くず魔石を取り出し土魔法で粉末にすると、先ほどと同じ様に、白い水と同時に収納して再び取り出す。
そうすると、最初の壺の中には、透明な液体が出来上がっていた。
3つの壺からひと壺分まで圧縮されたのだ。
治癒、解毒、回復魔法が相互に絡み合ってできた、ナイト謹製エリクサーの完成である。
ナイトは満足げに微笑んだ。
ナイトは回想する。
ある日、古い領館の奥にある書庫から見つけた本。
三つの魔法を、同じだけ魔石に合わせると、伝説の薬ができる事が記されていた。
ただし、完全に同じ量を、同時に、均等に混ぜねばならず、人の手に余る技であり「古の竜の技である」と記されていた。
ナイトは一人考察した。
なぜ竜にはできたのだろう・・・と。
そして、結論付けた。竜には収納がある。
竜族の伝説によると、収納を使って独自の文明を築いたと、言われている。
竜族は、収納によって様々なことが出来た。
薬物などの加工も得意としていた。
その古の技を・・・・・ナイトは自分のアイテムボックスを使って、復活させたのであった。
クラン会議である。ナイト、暁、姉弟の、魔法契約で結ばれた9名が全員参加していた。そして、会議室の管理は待女ルシエルに任されている。
「お集まり頂き、感謝します。今回は領の医療問題です。
現在の、一度重い病気になれば治らないもの、と言う認識を変えて行こうと思います」
「どの辺りが変わるんだ?」
「重い病気になったら、治らないものでしょ。教会は高いし、呪術師は信用できないからね」
「特効薬があったら変わる」とミーシャ。
相変わらず核心を突く。
「病気は治る、に変わります」
「どう言うこと?」
「また何か面白い事?」
「ナイト君の話は、少し怖いかも」
「よく効く薬を開発しました。エリクサーと言います」
「それって万能薬!傷、病、何でも治る」
「またやりましたね、ナイト君!」
「大儲け!」とミーシャ
「そんな万能薬、命懸けの取合になるだろ」
「そこそこ!その問題が今回の議題です」
「つまり、万能薬を如何に流通させるか?」
それまで黙っていた待女のルシエルが
「情報を如何に統制するかですね。
高値で売れる事は間違い無いですし」
「値段が付かないのじゃ、、、」
「自分の大切な人に必要なら、盗んででも手に入れる」
「正に、命懸けの命の薬!」
「エリクサーを売買するのはダメだね。金銭による流通は問題があり過ぎる」
「まず、効果を判定しよう!怪我人と病人にコッソリ使ってみよう。今回の相手はスラムで探してみる」
スラムへやって来たナイト。しばらく周りをうろつくと、酒場の立ち飲みカウンターで喧嘩している二人が居た。
「何だ!」「やるか!」と、ポカポカ殴り合いが始まった。暫く喧嘩が収まるのを待っていると、血だらけになった二人が座り込んでしまった。そこで早速「怪我薬」要りませんか?とナイト。
マッチ売りの少女の様な、薬売りの少年!(笑)
「何だお前は!」
「薬売りです。薬を買って下さい。これが売れないと、今夜のご飯が貰えないんです」
「いくらだ!」
「銅貨三枚(3百円)です」
「そんな安い薬、効くのか?」
「じゃあ銀貨三枚(3千円)」
「おちょくってるのか、お前!」
「仕方ないですねぇ、大銀貨三枚(3万円)に負けておきます」
「「・・・・・」」
「わかった、もう良い!すまんが銀貨三枚にしてくれ!」
「安かろう悪かろう、などと言って悪かった。この怪我の痛みが少しでもマシになるのなら、良いだろう」
「薬を寄越せ。買ってやろう」
金と引き換えに、二人は小瓶に入った薬を受け取り、一気に飲み干した。
すると、身体が薄らと光り、怪我が瞬時に回復した。
「「何だこれ!」」
「「・・・・・・・・・・・」」
「おい!この薬、まだ有るのか?」
「少しなら、でも効果が分かったので大銀貨三枚です」
「じゃあ俺は3本くれ」
「俺は4本だ」
二人は薬を買い取った。
周りでこの顛末を見ていた男達も加わる。
「俺にもくれ。もしかして、これ、病気にも効くのか?」
「病気にも効く様に作ったけど、効果はまだ確認して無いんですよ」
「俺の女房が半年寝込んでいるんだ!少しでも効果が有るなら飲ませてやりたい。何本か売ってくれ」
「最初はお試しなので、銅貨三枚です。効果が有るなら値上げします。それで良いですか?」
「ああ、構わない。俺の家に来て、直接飲ませてやってくれ」
「良いですよ。僕も効果を見たいですし、一緒に行きましょう」
二人は一緒に路地を歩いて行く。店にいた男達全員が、ゾロゾロ付いてくる。
「この家だ。入ってくれ。他の奴は遠慮してくれ。病気で弱ってるんだ、他人に見られたくない。こっちだ」
家の中に入ると、女が寝ていた。げっそり痩せて、死相が出ている。
「おおい!薬だぞ!薬を持って来たぞ!さあ、飲ませてやってくれ」と、銅貨を三枚渡す。
ナイトは頷くと、女を抱え起こして薬を飲ませる。すると身体が薄らと光り、死相が消えて、顔に赤みが差してくる。
「おお!なおったのか?」
「あんた、何だか身体が楽になったよ。こんなに調子が良いのは何ヶ月振りだろう!」
「おおおおおお!ボク、ありがとう、ありがとう」
男はナイトに礼を言い、女房に抱き付いた。
「良かったですね」にっこり笑うと外に出た。
出口を取り囲んでいた男達は、口々に
「「「「治ったみたいだな。凄いぞ!」」」」
すると、中の一人が
「俺の家の病人にも飲ませてやってくれ!金なら何とか工面するから」
縋り付く様にナイトに迫る。
「今日は後、一本しかありません。銅貨三枚ですね」
「ほら、金だ、薬を分けてくれ!」
薬を渡すナイト。男は薬を持って走り去った。
残った男達にナイトは囲まれた。みんな、真剣な顔で興奮しながら聞いてくる。
「君は何者だ?どうしてそんな薬を持っている?まだ用意出来るのか?」
「僕の素性は秘密です。この薬は、古い本に書いてあった作り方を工夫して、僕が作りました。また何日かしたら、ここに売りにきます」
そう言い残して、その日は帰った。
数日後、暁のロイドが訪ねて来た。
「ナイト君、先日の薬の件だが、街中ですごい噂になっているぞ。奇跡の少年が神薬を配っていると」
「先日、スラムで薬を配って効果の確認と人々の反応を見てきたんです。
効果は申し分ありませんでした」
「怪我にも病気にも効いたみたいだな。奇跡の薬と評判になっているぞ」
「問題は流通をどうするかですね」
「金持ち連中は今一、信じてないようだが、貧乏人は血眼でお前を探しているぞ。
家族に病人を抱える者と、薬を手に入れて儲けようとしている奴らに分けられるな」
「消費者と流通者ですね」
「結果的に消費者に薬が届けられればいいのですが」
「奪い合いになるな」
「今度作る商会で売り出しましょう。本当に困っている人のみに届くように」
「しかし、どうするんだ?普通に売り出せば買い占めが起きるぞ」
「商会が売った本人しか使えなくして、個別に事情を聞いて対応するしかないでしょう」
「つまり、どうするんだ?」
「売るのではなく、商会の者に直接投与してもらうんです。
簡単に事情を聞いて、商売にしていないかを判断して」
「そうか!商会は領主様直営だから、変に手を出して来るものも居ないな」
「父上に、上申してみるよ」
「それなら問題ないな。細かい揉め事や利権は、領主様の采配に任せよう」
商業ギルドの領主室。父親と向かい合うナイトが報告をする
「こんな場所で会うのは久しぶりだな、今日は領主として話を聞こう。家だと馴れ合いになってしまうからな」
「はい。領主様、今回の神薬騒動の大元は、私の作ったエリクサーです」
「エリクサーだと!そんなものどうやって・・・」
「詳しくは話せませんが、家にあった古書に製法が記されていました。
それを僕なりに改良して完成させました」
「あの古い書庫か?お前は本を読むのが好きだったから、よく読んでいたな」
「はい。そこで、薬の流通を如何したものかと・・・」
父は少し間を置いて、説得するように話し出す。
「画期的な商品は既存の既得権益を破壊するのだ。この薬の場合、影響を受けるのは教会と呪術師だろう。呪術師は放置で構わんが、教会は侮れん。必ず妨害して来るだろう」
「領と教会の力関係はどうなっているのですか?」
「まず、領は全ての領民に責任がある。対して教会はその領の中の一集団に過ぎない。しかし、傷や病気を癒すと言う役割を持つ為、金銭的に有利だ。領と教会では領が強いが、領主個人としては教会を必要とする」
「では、今回の薬で、領主様が教会に頭をさげる事は無くなるのですね」
「ナイトが生きているうちはその通りだが、社会制度として・・・次世代が使っていく社会制度として、今の関係は重要なのだ」
「なるほど!未来にまで心を砕くとは、さすが領主様です」
「統治とは、今の領も大切であるが将来の展望も持たねばならん。先のことを考えていかないと、人生をかけて創り上げたものが、灰燼に帰す」
「解りました。既存の関係がうまく残るよう、身命を賭して動きます」
「頼んだぞ!将来、この領土はナイトが動かして行くのだからな」
満足げに頷いた領主は、満面の笑みを浮かべていた。
商会にて
クラリスとタック姉弟、エルフのロディア、元商会の従業員ピアザが一堂に会している。
「今回の神薬の件、みなさん聞いていますか?」
「それはもう!領の至る所でその話は持ちきりです。
神薬に関する情報に、懸賞金をつける者まで現れています」
とピアザ、
ロディアが続けて
「あの薬は、話が本当だとすると、竜族が使っていたと言う薬でしょう。
竜族は自然治癒力がとても高く、通常の怪我は自然に治ってしまうのです。
その竜族が、普段使いの薬として作ったのがエリクサーと言う薬なのです。
故に、竜族にも効きますが、他の種族・・・人間や魔族など・・・には、絶大な効果を発揮します。
それこそ、不老不死に近い効果を」
さすが何百年も生きてきただけあって、ロディアは博識であった。また、彼女の作るエルフの霊薬は、エリクサーほどの効果はない、と言う事だった。
「さすがロディアだね。ところで、エリクサーは健康な人間が服用するとどうなるのか分かるかい」
「少量を常用するだけで、肉体的な加齢を止めることが出来ます。それは私の作る霊薬と同じです。
しかし、ある一定量を一度に飲むと、不老不死になると言われています」
「どうして、言われています・・・なの?」
「不老不死は検証できませんから」
「なるほど!言われてみればそうだね」
商会での会議は、ロディアの発言で高揚してきた。
「では、薬の情報を集めてまいります。こういう情報収集は割と得意なのでお任せ下さい」
ピアザが自信ありげに話す。
クラリスとタックは魔法契約で真実を知っているが、他の2人は知らない。
この二人にも魔法契約が必要だな、と思ったナイトは
「今回の薬は私が調合しました。これを、領主の許可を受け、当商会で販売していきたいと思います。
本日決めるのは、薬の販売方法です」
と、相変わらずの爆弾を落とす。
「「・・・・・」」
クラリスとタック姉弟は「やはり」という様子、エルフのロディアとピアザは固まっていた。
「薬の需要は多いと思いますが、普通の商品のような販売はできないと思います。
いい案があれば出してください。みんなで検討しましょう」
「普通の販売ができない理由とは、何でしょう?」
「この薬の値段は、命の値段です。だから価格がどれだけ高くても、買える人は買います」
「お金を儲けるのが目的ではないのですね」
「その通り!領にとって領民は財産です。その財産は、生まれ育って働けるようになる迄、何年もかかります。
貴重な領民を守って、長生きして貰うのも私の使命です。
この薬で、1つの命が助かったとします。その人は一生かけて、この領に労働という恩恵をもたらします。どうです、そう考えるとこの薬が、如何に領にとって有益か理解できるでしょう」
「確かにその通りですね!一人の領民の命が助かると、領にとっての損失が大きく減ります。領としては、無料で薬を配っても採算は取れるのですね」
「そこで、領自体のあり様ですが、教会による寄進者への治療を妨害してはならない。これは、この領の既存の約束なのです。薬が未来永劫存在するので無い以上、教会の治癒力は残さねばならないのです」
「つまり、教会に治癒の寄進を負担出来る者には、薬の投与を行わない、で良いでしょうか?」
「その方針で良いでしょう。早速、その方針を教会に伝えましょう」
商会の方針が決まって、会議は終了した。
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教会
いつもの様に、祭壇で祈りを捧げていたシスターイザベラの基に、ある知らせが届けられた。
スラムに神童が現れ、神薬が販売されたと。
価格は銅貨三枚、三百円相当で、殆ど無料と変わらなかった。誰が、何の為に?
この薬が常に販売されれば、教会の運営が脅かされかねない。
教会はその教義で贅沢を許さず、質素な生活を良しとするが、
中央には、教会毎に決められた会費が納められる。
それは、教会の機能を維持していくのに、必要不可欠であると理解していた。
教会が、領に支払う税と本部に支払う会費を寄進として集める。最低限のお金は必要であった。
数少ない富裕層からの喜捨は、彼らの病や怪我を祈りの治癒魔法を行使する事で、集められている。
富裕層がその神薬を使う様になれば、教会への喜捨は断たれる。
教会存続の為にも、看過出来ない話であった。
その思いに心を焼かれ、その夜は眠れない一夜を送った。
エリクサーを精製したナイトは、医療改革を進めていく。
厨二病真っ只中であるが、それ故に、私心なき方向で無双していく。