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魔法の約束  作者: なが
8/40

8・領の改革

領主の父が言った「此は、お前に対する、私なりの領主教育だと心得よ!」

ナイトの領改革が始まる。


・・・・・そして、中二病が乱れ飛ぶ。

魔法の約束8


領の改革


ナイトは秘密基地の改良をしていた。この部屋はナイトの部屋の隣、扉と窓のない、あの部屋だった。


クラリスと会った後、その部屋に疑問を感じたナイトは、天井裏に登ってみた。天井裏をたどり外に出てみると、慣れ親しんだ我屋敷・・・だったという訳だ。


喜んだナイトは、早速部屋の改造に取り掛かった。

部屋の壁を魔法で強化した。

壁に貼られていた板自体を、結界魔法で魔道具化したのだ。


これで、音も漏れない強護な部屋になった。


次に魔法で、周囲の壁全面に照明を付与する。

光苔を壁にイメージして、その何倍もの光を発するようにする。

間接照明風の強くない光が壁に灯る。


床にある板扉には、指数本が入る穴をあけて取っ手にした。

その先の梯子は撤去し、代わりに傾斜のきつい昔風の階段を、土魔法で作り強化した。


下水道の割れ目には、認識阻害の結界をはり、ナイトと魔法契約をした者のみが、使えるように設定した。


内装は、屋敷の使われなくなった古い机と椅子を、

修理魔法と清掃魔法で綺麗にして、

収納魔法に一旦収納し再び部屋で出す。


新品同様の家具が揃った。


 最後に、ナイトの部屋と改造部屋の間の壁を、扉状に切り取り、二つの部屋の間の空間に、予め切り出してあった扉状の岩を、収納を使って取り付けた。


出入に収納を使う、ナイトだけの連絡路が完成した。

扉を開ける様に、岩を収納して通る。



 前世で貧乏生活が染みついているナイトには、贅沢が禁忌であった。

 しかも、ナイトのイメージでは、秘密基地はやはり廃材を使って作る物であった。


中二病全開である。



改革の手始めは医療。

ナイトは安売りしていたくず魔石を、大量に購入してきた。


ゴブリンなどを討伐した後に取れる小さな魔石は、使い道がない為、討伐証明の役割を果たした後、くず魔石として大量に余っていた。


冒険者ギルドで魔石を買い取ったナイト

「こんなに大量のくず魔石、如何されるんですか?」

聞かれるが、にっこり笑って

「今は内緒です。結果をご期待下さい」

袋一杯の魔石を持って帰る。



ギルドを出てすぐ、魔石を収納へ入れる。

アジトに到着すると、3つの壺にそれぞれ水を入れ、

その一つに治癒魔法をかける。


すると壺の水が、だんだん青く変色してくる。


二つ目の壺は解毒の魔法をかける。

すると水は赤色に染まる。


最後の壺には回復魔法、水は緑色に染まった。


次に三つの色水を全く同じ量、同時に収納して混ぜる。


この過程は、収納魔法だからできるので、普通に混ぜても均等には混ざらない。


完全に同じ量を、完全に、均等に、瞬間的に混ぜ合わさなければならない。


そして、収納から再び出した水は、白い水になっていた。


くず魔石を取り出し土魔法で粉末にすると、先ほどと同じ様に、白い水と同時に収納して再び取り出す。


そうすると、最初の壺の中には、透明な液体が出来上がっていた。

3つの壺からひと壺分まで圧縮されたのだ。


治癒、解毒、回復魔法が相互に絡み合ってできた、ナイト謹製エリクサーの完成である。


ナイトは満足げに微笑んだ。



ナイトは回想する。

ある日、古い領館の奥にある書庫から見つけた本。

三つの魔法を、同じだけ魔石に合わせると、伝説の薬ができる事が記されていた。


ただし、完全に同じ量を、同時に、均等に混ぜねばならず、人の手に余る技であり「(いにしえ)の竜の技である」と記されていた。


ナイトは一人考察した。


なぜ竜にはできたのだろう・・・と。


そして、結論付けた。竜には収納がある。


竜族の伝説によると、収納を使って独自の文明を築いたと、言われている。


竜族は、収納によって様々なことが出来た。

薬物などの加工も得意としていた。


その(いにしえ)の技を・・・・・ナイトは自分のアイテムボックスを使って、復活させたのであった。




クラン会議である。ナイト、暁、姉弟の、魔法契約で結ばれた9名が全員参加していた。そして、会議室の管理は待女ルシエルに任されている。


「お集まり頂き、感謝します。今回は領の医療問題です。

現在の、一度重い病気になれば治らないもの、と言う認識を変えて行こうと思います」

「どの辺りが変わるんだ?」

「重い病気になったら、治らないものでしょ。教会は高いし、呪術師は信用できないからね」


「特効薬があったら変わる」とミーシャ。

相変わらず核心を突く。


「病気は治る、に変わります」

「どう言うこと?」

「また何か面白い事?」

「ナイト君の話は、少し怖いかも」


「よく効く薬を開発しました。エリクサーと言います」

「それって万能薬!傷、病、何でも治る」

「またやりましたね、ナイト君!」


「大儲け!」とミーシャ


「そんな万能薬、命懸けの取合になるだろ」

「そこそこ!その問題が今回の議題です」

「つまり、万能薬を如何に流通させるか?」


それまで黙っていた待女のルシエルが

「情報を如何に統制するかですね。

高値で売れる事は間違い無いですし」


「値段が付かないのじゃ、、、」

「自分の大切な人に必要なら、盗んででも手に入れる」

「正に、命懸けの命の薬!」


「エリクサーを売買するのはダメだね。金銭による流通は問題があり過ぎる」


「まず、効果を判定しよう!怪我人と病人にコッソリ使ってみよう。今回の相手はスラムで探してみる」




スラムへやって来たナイト。しばらく周りをうろつくと、酒場の立ち飲みカウンターで喧嘩している二人が居た。


「何だ!」「やるか!」と、ポカポカ殴り合いが始まった。暫く喧嘩が収まるのを待っていると、血だらけになった二人が座り込んでしまった。そこで早速「怪我薬」要りませんか?とナイト。


マッチ売りの少女の様な、薬売りの少年!(笑)


「何だお前は!」

「薬売りです。薬を買って下さい。これが売れないと、今夜のご飯が貰えないんです」

「いくらだ!」

「銅貨三枚(3百円)です」

「そんな安い薬、効くのか?」

「じゃあ銀貨三枚(3千円)」

「おちょくってるのか、お前!」

「仕方ないですねぇ、大銀貨三枚(3万円)に負けておきます」


「「・・・・・」」


「わかった、もう良い!すまんが銀貨三枚にしてくれ!」

「安かろう悪かろう、などと言って悪かった。この怪我の痛みが少しでもマシになるのなら、良いだろう」

「薬を寄越せ。買ってやろう」

金と引き換えに、二人は小瓶に入った薬を受け取り、一気に飲み干した。

すると、身体が薄らと光り、怪我が瞬時に回復した。


「「何だこれ!」」


「「・・・・・・・・・・・」」


「おい!この薬、まだ有るのか?」

「少しなら、でも効果が分かったので大銀貨三枚です」

「じゃあ俺は3本くれ」

「俺は4本だ」

二人は薬を買い取った。



周りでこの顛末を見ていた男達も加わる。

「俺にもくれ。もしかして、これ、病気にも効くのか?」

「病気にも効く様に作ったけど、効果はまだ確認して無いんですよ」

「俺の女房が半年寝込んでいるんだ!少しでも効果が有るなら飲ませてやりたい。何本か売ってくれ」

「最初はお試しなので、銅貨三枚です。効果が有るなら値上げします。それで良いですか?」

「ああ、構わない。俺の家に来て、直接飲ませてやってくれ」

「良いですよ。僕も効果を見たいですし、一緒に行きましょう」


二人は一緒に路地を歩いて行く。店にいた男達全員が、ゾロゾロ付いてくる。

「この家だ。入ってくれ。他の奴は遠慮してくれ。病気で弱ってるんだ、他人に見られたくない。こっちだ」

家の中に入ると、女が寝ていた。げっそり痩せて、死相が出ている。

「おおい!薬だぞ!薬を持って来たぞ!さあ、飲ませてやってくれ」と、銅貨を三枚渡す。

ナイトは頷くと、女を抱え起こして薬を飲ませる。すると身体が薄らと光り、死相が消えて、顔に赤みが差してくる。


「おお!なおったのか?」

「あんた、何だか身体が楽になったよ。こんなに調子が良いのは何ヶ月振りだろう!」

「おおおおおお!ボク、ありがとう、ありがとう」

男はナイトに礼を言い、女房に抱き付いた。


「良かったですね」にっこり笑うと外に出た。

出口を取り囲んでいた男達は、口々に

「「「「治ったみたいだな。凄いぞ!」」」」

すると、中の一人が

「俺の家の病人にも飲ませてやってくれ!金なら何とか工面するから」

縋り付く様にナイトに迫る。

「今日は後、一本しかありません。銅貨三枚ですね」

「ほら、金だ、薬を分けてくれ!」

薬を渡すナイト。男は薬を持って走り去った。


残った男達にナイトは囲まれた。みんな、真剣な顔で興奮しながら聞いてくる。

「君は何者だ?どうしてそんな薬を持っている?まだ用意出来るのか?」

「僕の素性は秘密です。この薬は、古い本に書いてあった作り方を工夫して、僕が作りました。また何日かしたら、ここに売りにきます」

そう言い残して、その日は帰った。




数日後、暁のロイドが訪ねて来た。

「ナイト君、先日の薬の件だが、街中ですごい噂になっているぞ。奇跡の少年が神薬を配っていると」

「先日、スラムで薬を配って効果の確認と人々の反応を見てきたんです。

効果は申し分ありませんでした」


「怪我にも病気にも効いたみたいだな。奇跡の薬と評判になっているぞ」

「問題は流通をどうするかですね」

「金持ち連中は今一、信じてないようだが、貧乏人は血眼でお前を探しているぞ。

家族に病人を抱える者と、薬を手に入れて儲けようとしている奴らに分けられるな」

「消費者と流通者ですね」


「結果的に消費者に薬が届けられればいいのですが」

「奪い合いになるな」

「今度作る商会で売り出しましょう。本当に困っている人のみに届くように」

「しかし、どうするんだ?普通に売り出せば買い占めが起きるぞ」

「商会が売った本人しか使えなくして、個別に事情を聞いて対応するしかないでしょう」

「つまり、どうするんだ?」

「売るのではなく、商会の者に直接投与してもらうんです。

簡単に事情を聞いて、商売にしていないかを判断して」

「そうか!商会は領主様直営だから、変に手を出して来るものも居ないな」

「父上に、上申してみるよ」

「それなら問題ないな。細かい揉め事や利権は、領主様の采配に任せよう」




商業ギルドの領主室。父親と向かい合うナイトが報告をする

「こんな場所で会うのは久しぶりだな、今日は領主として話を聞こう。家だと馴れ合いになってしまうからな」

「はい。領主様、今回の神薬騒動の大元は、私の作ったエリクサーです」

「エリクサーだと!そんなものどうやって・・・」

「詳しくは話せませんが、家にあった古書に製法が記されていました。

それを僕なりに改良して完成させました」

「あの古い書庫か?お前は本を読むのが好きだったから、よく読んでいたな」

「はい。そこで、薬の流通を如何したものかと・・・」


父は少し間を置いて、説得するように話し出す。

「画期的な商品は既存の既得権益を破壊するのだ。この薬の場合、影響を受けるのは教会と呪術師だろう。呪術師は放置で構わんが、教会は侮れん。必ず妨害して来るだろう」

「領と教会の力関係はどうなっているのですか?」

「まず、領は全ての領民に責任がある。対して教会はその領の中の一集団に過ぎない。しかし、傷や病気を癒すと言う役割を持つ為、金銭的に有利だ。領と教会では領が強いが、領主個人としては教会を必要とする」


「では、今回の薬で、領主様が教会に頭をさげる事は無くなるのですね」

「ナイトが生きているうちはその通りだが、社会制度として・・・次世代が使っていく社会制度として、今の関係は重要なのだ」

「なるほど!未来にまで心を砕くとは、さすが領主様です」

「統治とは、今の領も大切であるが将来の展望も持たねばならん。先のことを考えていかないと、人生をかけて創り上げたものが、灰燼(はいじん)()す」


「解りました。既存の関係がうまく残るよう、身命を賭して動きます」

「頼んだぞ!将来、この領土はナイトが動かして行くのだからな」


満足げに頷いた領主は、満面の笑みを浮かべていた。




商会にて

クラリスとタック姉弟、エルフのロディア、元商会の従業員ピアザが一堂に会している。

「今回の神薬の件、みなさん聞いていますか?」

「それはもう!領の至る所でその話は持ちきりです。

神薬に関する情報に、懸賞金をつける者まで現れています」

とピアザ、

ロディアが続けて

「あの薬は、話が本当だとすると、竜族が使っていたと言う薬でしょう。

竜族は自然治癒力がとても高く、通常の怪我は自然に治ってしまうのです。

その竜族が、普段使いの薬として作ったのがエリクサーと言う薬なのです。

故に、竜族にも効きますが、他の種族・・・人間や魔族など・・・には、絶大な効果を発揮します。

それこそ、不老不死に近い効果を」


さすが何百年も生きてきただけあって、ロディアは博識であった。また、彼女の作るエルフの霊薬は、エリクサーほどの効果はない、と言う事だった。


「さすがロディアだね。ところで、エリクサーは健康な人間が服用するとどうなるのか分かるかい」

「少量を常用するだけで、肉体的な加齢を止めることが出来ます。それは私の作る霊薬と同じです。

しかし、ある一定量を一度に飲むと、不老不死になると言われています」

「どうして、言われています・・・なの?」

「不老不死は検証できませんから」

「なるほど!言われてみればそうだね」


商会での会議は、ロディアの発言で高揚してきた。

「では、薬の情報を集めてまいります。こういう情報収集は割と得意なのでお任せ下さい」

ピアザが自信ありげに話す。

クラリスとタックは魔法契約で真実を知っているが、他の2人は知らない。

この二人にも魔法契約が必要だな、と思ったナイトは

「今回の薬は私が調合しました。これを、領主の許可を受け、当商会で販売していきたいと思います。

本日決めるのは、薬の販売方法です」

と、相変わらずの爆弾を落とす。


「「・・・・・」」


クラリスとタック姉弟は「やはり」という様子、エルフのロディアとピアザは固まっていた。

「薬の需要は多いと思いますが、普通の商品のような販売はできないと思います。

いい案があれば出してください。みんなで検討しましょう」


「普通の販売ができない理由とは、何でしょう?」

「この薬の値段は、命の値段です。だから価格がどれだけ高くても、買える人は買います」

「お金を儲けるのが目的ではないのですね」

「その通り!領にとって領民は財産です。その財産は、生まれ育って働けるようになる迄、何年もかかります。

貴重な領民を守って、長生きして貰うのも私の使命です。


この薬で、1つの命が助かったとします。その人は一生かけて、この領に労働という恩恵をもたらします。どうです、そう考えるとこの薬が、如何に領にとって有益か理解できるでしょう」


「確かにその通りですね!一人の領民の命が助かると、領にとっての損失が大きく減ります。領としては、無料で薬を配っても採算は取れるのですね」


「そこで、領自体のあり様ですが、教会による寄進者への治療を妨害してはならない。これは、この領の既存の約束なのです。薬が未来永劫存在するので無い以上、教会の治癒力は残さねばならないのです」


「つまり、教会に治癒の寄進を負担出来る者には、薬の投与を行わない、で良いでしょうか?」


「その方針で良いでしょう。早速、その方針を教会に伝えましょう」

商会の方針が決まって、会議は終了した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

教会


いつもの様に、祭壇で祈りを捧げていたシスターイザベラの(もと)に、ある知らせが届けられた。

スラムに神童が現れ、神薬が販売されたと。


価格は銅貨三枚、三百円相当で、殆ど無料と変わらなかった。誰が、何の為に?

この薬が常に販売されれば、教会の運営が脅かされかねない。


教会はその教義で贅沢を許さず、質素な生活を良しとするが、

中央には、教会毎に決められた会費が納められる。


それは、教会の機能を維持していくのに、必要不可欠であると理解していた。

教会が、領に支払う税と本部に支払う会費を寄進として集める。最低限のお金は必要であった。


数少ない富裕層からの喜捨は、彼らの病や怪我を祈りの治癒魔法を行使する事で、集められている。

富裕層がその神薬を使う様になれば、教会への喜捨は断たれる。


教会存続の為にも、看過出来ない話であった。


その思いに心を焼かれ、その夜は眠れない一夜を送った。


エリクサーを精製したナイトは、医療改革を進めていく。


厨二病真っ只中であるが、それ故に、私心なき方向で無双していく。

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