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魔法の約束  作者: なが
7/40

7・商会と姉弟

領主案件の依頼を、見事こなしたナイト達。

ナイトの中二病でクラン設立一直線。


父の了解のもと、危機対応の特殊機関が立ち上がる。

魔法の約束7


商会と姉弟


事件解決から1週間、

ナイトと姉弟に、暁を加えたメンバーは、

領主邸の応接室で顔を合わせていた。


「今回はご苦労様でした」

ギルドマスターから、(ねぎら)いの言葉が掛けられる。


「領主案件の解決報酬をお渡しします。」

「盗賊達はどうなったのですか?」

クラリスが真っ先に質問する。


チラリとナイトの方に視線を走らせると、話出す。

「本来は死罪なのですが・・・

今回に限り、もう一つの選択肢を用意しました。

領有産業での強制労働です。


彼等に選択させましたが、実質の恩赦ですね。勿論、彼等は死ぬより労働を選びました。

 但し、主犯の商会主だけは、領の規範を徹底させる為、公開処刑されます。

 此には追加の項目が有り、被害者が処刑方法を決める事が出来る、という事です。

以上が、領主様からの通達です」


そう言うと、木の箱を開ける。中には大量の金貨が入っていた。

「金貨250枚です。お受け取り下さい」

二千五百万円相当のお金を目前にして、皆、声が出なかった。


「俺達は先日の討伐で稼いだ分が、

まだ余っているんだ。

ナイト君に預かって欲しいのだが、良いだろうか?

分前の分配も一任する」

暁のメンバーは、皆、ウンウンと同意する。


「私達姉弟は、領主様のお世話になりました分として、分前は全てナイト様に受け取って頂きたいです」


「では此はナイト様に」


「解りました。お預かりします。でも必要になったらいつでも言って下さい。今は預かっておきますので」

カバンに箱を入れ、中身の金貨だけを収納するナイト。


・・・これで重くなくなる。


「商会主の処刑方法は、何か希望がありますか?

今のうちに言っておけば良いよ」


「できれば、両親が殺害されたのと同じ方法で、お願いします。

両親は、助けてくれと土下座している所を、刺されて亡くなりました。処刑する時は、両親を殺害した犯人に、商会主を殺させて下さい」


「了解しました。見学はされますか?席をご用意しますが?」


「いいえ。もう人が死ぬところは見たくありませんので、遠慮いたします」

(かね)てからの悲願を達成したが、あまり嬉しそうではなかった。


「それが良いでしょう。人を呪わば穴二つ、と申しますから」

ケビンは、クラリスが闇落ちしなかった事を喜んだ。





皆で領邸を出ると、ナイトに誘われてついて行く。

「何処へ行くんだい?」

「秘密基地です。特殊な所から入るので、途中喋らない様にお願いします」

「--------」

齢8才にして、精神年齢60代のナイトは、中2病を発症していた。

下水道から横道を経て、新しく作った階段を登る。

木でできた扉を押し開けて、クラリスと初めて会ったあの部屋に入っていく。


部屋は綺麗になっており、大きな机と椅子が10脚置いてある。

そして部屋の壁がうっすら光っているので、かなり明るい。

皆がそれぞれ椅子に座ると、我慢できないロイドが喋り出す。


「此処は何処になるのかな?この建物は窓が無い様だし、何のためにここを使うんだ」

他のみんなも頷いている。イタズラ心で、又領邸に戻って来たとは言わないナイト。


「此処はこれから秘密基地として、僕の活動拠点にします。

今日はご案内まで。

ここでの会話は、部屋が防音仕様になっているので、

外に漏れる事は有りません」


「内緒話、し放題」とミーシャ。


「暁のみなさんとクラリス姉弟、私とで秘密のクランを作りませんか?」


「クラン、って何?」


「クランとはギルドのパーティが、目的に応じて集まって共通の依頼をこなす集合体です。このクランは魔法を使って依頼をこなすクランです。守秘の魔法契約を交わしている事が参加資格ですね」


「普通じゃない秘密のクラン?」


「そして、通常では不可能と思われる依頼専用です」


「ナイト君だけで事足りるのでは?」

「いいえ、今回の件でわかる様に、魔法を使う条件を整えて頂かないと上手く行きません。


 連絡、監視、相談が出来るパーティの参加が必須です」


「では、私達は余りお役に立たないと思います」

悲しげな声を上げるクラリス。


「クラリスには、重要な役割を務めて欲しい。

今回の件で接収された商家を、隠れ蓑として使いたいので、

そこの管理を、商人になってお願いします」


「私達だけでは難しいかと思います。

年齢的にも経験的にも・・・」


「盗賊に捕らえられていた、他の人々も救出しました。

その中にクラリスさんを知っている人が居るようでした。

会ってみませんか?」


「はい。会いたいです。両親との貴重な接点ですから」


「商業ギルドで保護しているそうです。

よければ早速、会いに行きましょう」



暁一行は、クランの参加を希望した。

そして

「では、また連絡して下さい。依頼のない時も、一日一回はギルドに顔を出しますから」

と、笑顔で去って行った。

前回、預かっていた素材の飛鹿を納品し終え、懐は暖かそうであった。猪は暁の常用食として、ナイトが収納に預っている。




商業ギルドに到着した。

流石、領主運営のギルドだけあって、

冒険者ギルドの数倍の規模を誇る、大きな施設だった。

挿絵(By みてみん)

大きな扉を押して建物に入り、正面の受付へ行くと

「いらっしゃいませ、商業ギルドへ」

と、若い受付嬢が笑顔で出迎える。

「今回は、如何されましたか?」

と、対応されたが、ナイトは困ったような表情をした。


「マスターに会いたいのですが」

小さな声で、受付嬢にささやく。


彼女は困った顔をして

「撲は幾つかな?


あのねぇ、子供がいきなりギルドマスターに会うことはできないのよ。

お父さんを連れてきたら会えるかも。

お父さんに面会希望の申請書を書いてもらうのよ」

と、微笑みかけた。


「父は書いてくれないと思います。

どなたか上役の方、お願いします」


先ほどの笑顔から、プンスカ顔になった受付嬢

「私が新人だと思っているのね?失礼しちゃうわ!」


「新人じゃないのですか?僕には貴女が新人に見えます」


そんな会話をしていると、

受付カウンターの一番後ろに座っていた、

如何にもベテランらしい男性がいきなり席を立ち、

怒涛の勢いで走って来た。


「ナイト様、いらっしゃいませ!只今、席を御用意いたします」


受付嬢は目を丸くして、こちらを見ている。


「助かりました。父を連れてくるように言われていたんですよ」

と、苦笑い。


「御領主様でしたら、最上階にいらっしゃいます。

お呼びしましょうか?どちら様がお呼びで?」


顔面蒼白になった受付嬢を指さす。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


「失礼いたしました。彼女は新人でして、

一生懸命なのですが、空気を読むのが苦手なようで・・・」


「話がありますので、マスタ―を呼んでいただけますか?」


「すぐ呼んでまいります。

君、ナイト様を応接室へご案内してもらえますか?」


「し、し、し、失礼いたしました!こ、こ、こ、此方になります」

彼女は、右足と右手を同時に出しながら、器用な歩き方で案内してくれた。


応接室でクラリスと待っていると、先ほどの女性がお茶とお菓子を持ってきた。

テーブルにカップを置く手が震えているので、カチカチと音がする。

「あまり気にしないで下さい。僕も気にしてませんから」

にっこり笑ってフォローする。

「あ、あ、あ、有難うご、ご、ご、御座います!」

精一杯、感謝の言葉を言って、退出していった。



「ナイト様、呼んで頂ければ伺いますのに。

本日は如何様なお話でしょうか?」

挿絵(By みてみん)

丁寧にドアを開け、優雅な物腰で入って来た女性が挨拶をする。


「今度、商会を作りたいと思いまして、

先日徴収した、商家について相談に来ました。


その前に、先日救助した人達に会いたいのですが・・・」


マスターは顔を顰めると

「救助した人は、あれから数人亡くなりました。

残っているのは3人だけです。

今からおつれします」

と言って出ていこうとした。

「待ってください。どうして亡くなったのですか?」

と聞くと

「栄養状態が最悪で、元々病気になっていたのです」

との事だった。



少しして、連れられてきた人たちも、ガリガリでげっそり痩せていた。


「誰か知っている人は居ますか?」

と聞くと

「あ、ピアザさん!お久しぶりです。クラリスです」

小柄な30代に見える男性が、こちらを見つめて

「おお!お嬢様、御無事でしたか!お久しぶりです」

と泣き声で挨拶した。


「旦那様と奥様はあのような事になり、

お悔やみ申します。

私どもの力が足らず、お守り出来ませんでした。

申し訳ありませんでした」と、土下座した。


「いいえいいえ、

貴方が生きていてくれただけで嬉しいです。

体の方は大丈夫ですか?」

「もう体は壊れてしまって、働けないでしょう。

お嬢様のお役にも立てず、これからみじめに死んでいくだけです。」

力なく俯いて、そのまま座り込んでしまう。


「マスター、他の人はどうなのですか?」


「みなさん、体を壊されています。働くのは難しいでしょう」

後の二人は、エルフとドワーフだった。


二人とも、まともに立っていられない程、衰弱していた。

 医療が発達していないので、一度病気に見舞われると

殆ど死んでしまうのがこの世界の常識だ。


高額な医療費と休養できるベッドなど、

金持ちだけの特権だった。


この世界の人材は、使い捨てが基本である。


「マスター、この三人を引き取りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「宜しいのですか?この人達は、最悪、数日しか生きられませんよ。


 ギルドとしても困っていたので、引き取っていただけるならお願いしたいのですが。

些少ですが、ギルドより埋葬代をお付けします。あと、商家は自由にお使いください」


 ギルドの職員に背負われて、三人はくだんの商家へ運び込まれた。

彼らが寝ていた毛布にくるまれて。




その日のうちに、ナイトの治療が始まる。


病気に治療魔法と体力の回復魔法、

中毒症状に解毒魔法、

汚れた体には清浄魔法、

などを、順にかけていく。


三人は目に見えて回復していき、すぐに食事ができるようになった。

食事ができると回復は早く、

10日ほどで、普通に生活ができるようになってきた。


三人は喜んだ。

「このような奇跡を与えて下さり、有難う御座います。

これからはお嬢様をお助けして、旦那様にいただいた恩を返させて頂きます」

泣いて礼を言うピアザ。


「わしは生きて行けるようだ、この恩は忘れん。もう少ししたら国へ帰る」

その後、ドワーフは数か月過ごし、守秘魔法契約を交わすと、元気な足取りで帰って行った。


「私はここで雇ってほしいです。エルフの秘術を提供しましょう。

材料さえあれば、秘薬が作れます。商売の助けになると思います」

回復して、元の美しい容姿に戻ったエルフは、スレンダーな体型をしていた。


聞くところによると、エルフの寿命はかなり長いらしい。

彼女はもう、数百年生きてきたそうだ。


病気になって弱っている所を捉えられ、

秘薬の材料も手に入らず、

あきらめて、死ぬのを待っていたそうだ。


「そう言えば貴女は、名は何というの?」

ナイトも改めて名乗る。

「私はナイト=アルガーシス、ここの領主の息子です。今度作る、この商会のオーナーでもあります」


ナイトが丁寧に挨拶する。

「ご丁寧に、恐縮です。私はロディ アと申します。

命を救って頂き感謝します。宜しければ、ナイト様にお仕えさせて下さい。エルフの秘術で恩返し致します」


「うん、期待しているよロディア。宜しく頼むね」

側で聞いていた姉弟に向き合い

「クラリス、タック、この二人と一緒に商会を立ち上げるんだ。必要な事が有ったら言って欲しい。

無理に儲けを出す必要は無い。


この店は、商業ギルド直営の特殊商店になる。

領民の動静を領主に伝え、時には誘導し、内密な仕事を請け負う。そして、飢饉や洪水などの天災に対しても、領主の手足となって動く」


 商会の事は父の了承を得ていたが、その認識は「息子の道楽」の類なので、父に今後の活動を詳しく伝える必要が有った。




その晩、ナイトは父に本意を伝えた。


夕食の席で

「父上、先日は、商会の設立に許可を頂きまして、ありがとうございました。

私は、常々懸念していた事があります。

この領には、裏の顔が有りません。

領民や領土に緊急事態が起こった時、対処する専門機関がないのです。


役人の汚職、外敵の侵入などを含め、今度設立する商会で秘密裏に対応して行きたいと考えています。


この件に、領主として裁可を頂きたく思います」


父は驚いた顔をしながらも、嬉しそうに決断した。

「ナイトや、お前に言われてみるとそれらの件は今までの、そしてこれから発展する我が領の、無くてはならない手札だと思う。


お前は(よわい)8歳にして、そこ迄の見識が有るのだな・・・


良かろう!


ワシの目の黒いうちに、ワシが助けられる内に、領の改革をしてみるが良い。


問題が有れば、ワシが何時でも助けよう。

我が領の跡取りとして存分に、思い通り領を改革せよ。


同時に此は、お前に対する、私なりの領主教育だと心得よ!」


「有り難う御座います、父上。期待に応えられる様、精進いたします」

笑顔で頭を下げるナイトだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

暁の懐事情


今回、暁が倒した獲物は火炎熊一頭である。それでも、買取価格は金貨150枚になった。

金貨150枚とは、1500万円相当になる。一人金貨25枚・・・250万円の収入になった。


 通常であれば、火炎熊を倒しても持ち帰ることができる素材の量は少なく、売値は金貨20枚程度である。

運搬経費を引くと、一人金貨3枚程にしかならない。


運搬途中で腐ってしまったり、

運んでいるうちに他の獣に襲われて、やむなく放棄せざる負えなかったりもした。


 今回はナイトの収納が有った為、鮮度抜群な獲物を丸々一頭納品できた。

 倒して数時間しか経っていない状態で、内臓、目玉、舌など腐りやすい部位が、丸々買い取られた。



 何時もの宿で、何時もの朝食を食べながら、皆の表情は明るい。


「いやーー、今回はウハウハだな!こんなに稼げたのは初めてじゃないか?」

「それも(ひとえ)にナイト君のお陰よね」

「いつもこの調子だと、楽で良いよな」


「柳の下にどじょうは居ない」

「うーん、そうだな。でも、ナイト柳の下には濡れ手に(あわ)どじょうがいるかもな!」


「いやいや、その考えは危険すぎるだろ!死ぬのを覚悟するほどの、間一髪だったんだぞ!」


 冒険者ギルドでも、今回の買い取り額は大きかった様で、お祭り騒ぎだった。

ギルドマスターなど、口角をひくひくさせて

「よくやった!ランクアップの貢献値も大幅に入るだろう。また頼む!」

と、スキップしそうな足取りだった。


「ナイト君に預けてある飛鹿と猪だけど、10日程したら同じ方法で納品しょう」

「たぶん傷んでないだろうから、また高値で売れるよな」


「前と同じ状態の素材を納品したら、まずく無いか?」


「そうだな・・・・・・

今回は、街の外に荷車を持ち出して、

森を出たところで、荷車に飛鹿を出してもらい

エイリアのブリザードで凍らせて、一気にギルドまで走る・・・てのはどうだい?」


「「「「「じゃあ、次はその手で!」」」」」


相変わらずの暁であった。


今度はギルドも、氷魔法で運んで来た飛鹿を、納得顔で買い取ってくれた。

買取価格は金貨70枚。荷車代やギルドの手数料などを引いても、一人金貨11枚。110万円相当のお金が手に入った。


一人の合計取り分は金貨36枚。

小金持ち集団の誕生である。


「残りの猪は、何時納品する?」

「ナイト君に聞いたら、数か月後でも良い、と言っていたぞ」


金貨はギルドに預けてある。何時死ぬかわからない冒険者は、貯金などはしない。

あるだけ使うが、使いきれない分は預かってもらうしかない。


お腹いっぱい状態の暁。


「何だか働く気がしないよねぇ」

「働かなくても、不自由なく食べていけるからね」

「いかん!こんな事では勘も身体も鈍るぞ!

俺達・・・やばいんじゃないか?」


 ナイトに了解を貰い、猪は暁の食料にすることに決めた。顔を合わせた時に、少しずつ出して貰う。


そこへ、領主からの指名依頼が舞い込む。

気を引き締めて、領主邸に向かう暁だった。


クランを設立したナイト。

領主教育として、父公認の領地改革が始まる。

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