5・屋敷と浮浪児と奴隷
クラリスとタックは、ナイトと出会い、運命を変えていく
敵を討って、ナイトと共に居場所を見つけていく
魔法の約束5
屋敷と浮浪児と奴隷
暁のパーティと一緒に帰ってきてから数日。
アイテムボックスに彼らの獲物を預かることで、
当面の問題を解決した。
もともと収納魔法の隠蔽が、
彼らの行動を邪魔していたのもあって、
彼らに便宜を図るのは問題無かった。
ただ、微妙な空気が彼らとの間にあった。
「君、人間だよね?」
ミーシャの質問が、そのすべてを物語っていた。
「ハイ。人間です」
顔を引き攣らせて答える。
・・・今どきの冗談としては笑えなかった。
それを聞いた他のメンバーも、
一緒に顔を引き攣らせていた。
唯一、ルシエルだけが、
「なんて失礼な!!」
と、ミーシャに怒ってくれたので安堵していると
<ナイト様、こいつら燃やして良いですか?>
とのオマケがついた。(汗)
<ダメだよ!>・・・・・・・
今の私は、城から少し離れた屋敷に住んでいる。
築100年以上のおんぼろ屋敷は、改修を重ねてきたので、
門構えこそ立派だが色々な矛盾?があった。
2階の扉を開けたら床が無く、
危うく裏庭に落ちるところだったり、
窓が無い部屋が有ったりした。(昔の物置かも)
そして、窓も扉もない部屋も存在する。
その様な空間は果たして「部屋」と言えるのだろうか?
探知魔法でのみ、認識できる部屋。
しかもその部屋には、人の気配がある。
その気配を中心に、ぐるりと周りを回ってみるが、
無論、扉などは無い。
窓もない。
???
気配が消える時もあるので、もしかするとお化け?
いや、お化けに人の気配は無いだろう。
人間大のネズミ?
ありえなくもない。
猪が軽自動車と同じぐらい大きいのだから。
そう考えて総毛だった。
夜中に齧られたらシャレにならない。
{齧る}ではなく{食べる}レベルだ。
夜中にネズミに食べられる・・・・・不許可である!
閑話休題
ある日、街を歩いていると、いきなり「どしん」と
何かがぶつかって来た。
ぶつかった浮浪児風のその少年は、
謝りもせず、路地裏に走り込んでいった。
懐を手で押さえてみると、財布が消えていた。
・・・にやりと笑い
慌てずに路地を歩いていくと、
「ぎゃーーー!イタイイタイイタイ」
と、悲鳴が聞こえる。
その悲鳴を頼りに歩いていくと、
先ほどの少年が、私の財布に噛まれていた。
魔法が掛けてあり、
他人が開けようとすると、噛みつく防犯仕様だ。(笑)
「ごめんなさい!ごめんなさい!僕を食べないで!おいしくないよ!」
「料理すればおいしいかも?」
と、弄ってみると、おしっこを漏らした。
可哀そうになって、噛んでいる財布を収納し、
回復魔法で傷を治してやる。
すると、目を見張ってこちらを見つめてくる。
「どうしてこんな事を・・・て、生きていく為だよね」
その浮浪児は、
身に着けているから辛うじて服に見える、
ボロ布を纏っていた。
「ねいさんが死にそうなんです。
薬が要るんです。薬を買うお金が・・・」
「助けてあげよう!ねいさんの所に案内しなさい」
その少年の後を付いていくと、下水道に入っていく。
湿度100%の道のりは、不快度100%だった。
壁の割れ目から横道に進んでいくと、
いきなり上にのぼる梯子があった。
その梯子を付いていくと、木の板が頭上に現れる。
少年が頭上の板を押開けて中に入ると、
うす暗い部屋に出た。
「ここです!
ねいさんを助けて下さい。
死にそうなんです」
薄暗い部屋に、藁を敷いて一人の少女が寝ていた。
苦しそうな呼吸は、
今にも止まりそうなぐらい浅く弱かった。
「ねいさん」はおそらく「姉」の事だろう。
それとも、「ねいさん」という名前だろうか?
そんな事を考えていると、
「早くみてよ!死にそうなんだ。
今朝から話もできなくなったんだ」
少年が泣きながら縋り付いてくる。
今、気が付いたのだが、彼は私より年上のようだ。
10歳ぐらいで、碌に食べていないのか、
体の大きさは私と同じくらいだった。
今の{収納魔法}と{回復魔法}を見て、
私の不思議な力に頼ったのだろう。
寝ている少女に、病気の治療魔法と
体力の回復魔法をかけていく。
少女の全身は、緑色の光に包まれていった。
「姉さんの病気はもう大丈夫だよ。
君も栄養状態が悪いから、何か食べないとね」
と言って、収納魔法から飲み物と食べ物を出す。
「これ、食べなさい」
と少年に渡すが、受け取った食事を食べようとしない。
「姉さんの為に取って置きたいけど、良いですか?」
と、泣かせる事を言う。
「まだいっぱいあるから。姉さんの分は別にあげるから」
精一杯優しく声をかけると、「うんうん」と言って、
泣きながら食べ始めた。
食べ終わると一息ついたのか、話し出す。
「僕たち姉弟は商家の生まれで、旅をしていたのですが
盗賊に襲われ、両親を殺されてしまったんです。
僕たちも奴隷として売られる為、
この街に連れてこられたのです。
すきを見て逃げだして、下水道に隠れていた時、
偶然この住処を見つけました。
それ以来ここで生活しています」
一気に捲くし立てる様子から、
切羽詰まった暮らしぶりが伺われた。
「食事はどうしているの?」
「盗賊に見つかるといけないので、
夜中にゴミを漁ってます」
この話を聞いて、領内にいる盗賊への対応と、
孤児二人の処遇を考えていると、
先ほどまで寝ていた女の子が目を覚ました。
「あれ?苦しくない。痛くもない」
「姉さん!」
弟が抱き着くと、頭を撫でながら
「あなたは誰ですか?」
と、誰何してくる。
「姉さんを治してくれて、ご飯もくれた親切な人だよ」
と言う弟を、後ろにかばって
「有難う御座います。でも、何もお礼ができません。
お願いですから、酷い事をしないでください」
と、警戒しながら礼の言葉を口にした。
「盗賊に酷い目に遭わされたんだね。
大丈夫、僕はそんな事しないよ」
そう言うと、一応安心したみたいだが、
まだ不審そうにしている。
さらに安心させようと、身分を名乗ることにした。
「僕はこの領の領主の息子だ。安心したまえ」
「「え、領主様の・・・」」
「助けられたお礼がしたいなら、
その盗賊を退治したいので、協力してくれないか?
その功績の報酬として、生活する手段を用意しよう」
「でも、私達では盗賊に敵わないのでは?」
「盗賊を、おびき出してほしいんだ。
でも先ず、一度屋敷に案内するね」
二人の着ている物は、衣服と呼べる限界を超えている。
ちょうど体の大きさが同じくらいなので、
収納から自分の着替えを渡した。
弟の方はぴったりだが、姉の方は服が少し小さい。
着替え終わった二人に、付いてくるよう促して外に出る。
外で改めて二人を見ると垢だらけなので、
洗浄魔法で綺麗にする。
二人は「わぁー」と、驚いた後、
にっこりと笑った。
同じぐらいの年齢の為か、
早く打ち解けることが出来そうだ。
屋敷に着くと
「本当に領主様の息子様?」と、変な事を呟いている。
「領主の息子って言ったじゃない。さあ入って!
姉さんの方は食事もまだだろ?」
玄関を入っていくと
「ナイト様、お帰りなさいませ。お早いお帰りで」
と、メイド服のルシエルが出迎える。
「ただいま、ルシエル。
この子たちにお茶と食事を用意してあげて。
お茶とお菓子は男の子、食事は女の子にね」
「かしこまりました。すぐ、料理長に伝えてまいります。
それまで、こちらのお部屋でお待ち下さい」
二人を食堂に案内する。
「改めまして。ナイト=アルガーシスと言います」
姉は緊張した様子で
「弟のタックと、私はクラリスと申します。
ご親切、本当に有難う御座います」
さすがに商家育ちだけあって、
礼儀作法は弁えているようだった。
そのあと、食事を済ませた姉に、
お茶とお菓子を出して、話を聞き始めた。
「街の外の荒れ地で、
いきなり盗賊に襲われたのが、半年ほど前でした。
両親はその場で殺され、
私たちはこの街の商家に、連れて来られました」
「街門で門番に誰何されなかったの?」
「私達は空き樽の中に詰め込まれて、
身動きできませんでした」
「街の悪徳商家も絡んでるのか、厄介だな」
「その商家の中はまるで奴隷小屋みたいで、
私達の他にも、何人か子供が捕まっていました」
「外見は真っ当な商家に見せかけて、
裏で奴隷の売買をしているのか・・・
何とかしないとな!」
タックは目に涙をためて
「仇を討ちたいです。
あいつら、命乞いをする父さまや母さまを、
笑いながら殺したんです」
「では、盗賊をやっつける、手伝いをしてくれるかい?」
「「もちろん!」」
「仇を討てるのなら何でもします!
優しかった父母の仇を・・・」
「でも、君たちの体を回復させるのが先だね。
今の君たちの体力では、仇討ちは無理だよ」
「「はい」」
二人をお風呂に入れてから、
来客用の部屋に連れていき、
「今日はゆっくりお休み。
お腹がすいたら屋敷の人に声をかけて。
何時でもお腹いっぱい食べられるように
言っておくから。
何日かかけて体調を整えるんだ」
「「何から何まで、ありがとうございます」」
声をそろえて礼を言うと、
二人で部屋に入っていった。
「ルシェル、奴隷を扱っている商家って知ってる?」
「この領では、奴隷の売買は禁止されていますから、
大っぴらにしているところは無いでしょう」
「二人は夜、逃げ出してきたみたいだから、
商家の名前はわからないそうだし、
やっぱり二人の協力が要るね」
「はい。二人に町を歩いてもらって、
おびき出すしかなさそうです」
「忙しい父とは、夜しか会えないから、
夕食の時にでも話してみるよ」
今日は色々あったのでナイトも疲れており、
そのまま仮眠をとった。
8歳のナイトに、昼寝は必須なのだった。
「ナイト様、夕食の時間です」
ルシエルの声で起きだしたナイトは、家着に着替える。
食堂では両親がすでに待っていた。
ナイトは食堂に入ると、いきなり切り出した
「お父様!相談があります。
本日、両親を盗賊に殺され、
奴隷にされるところを逃げてきた
姉弟二人を保護しました。
どうやら、領内の商家が、
内密に奴隷を扱っているようです。
ルシエルに、その商家と奴隷の事を
調べもらっても良いでしょうか?」
本当は自分自身で動くのだが、
ルシエルの実力は、両親もわかっているので、
この方が言いやすかった。
「なに!奴隷だと!
ワシの領で奴隷の売り買いは許さん。
すぐにこちらで調べさせよう」
「もう8歳になったのです。
私とルシエルに、任せていただけないでしょうか?」
「いやいや、ナイトはまだ8歳だろう?
気持ちはわかるが、その歳では手に余るし危険すぎる。
ちょうど冒険者ギルドに、優秀な手練れが居るのだ。
Aランクを筆頭に、Bランク4名
Cランク1名の、冒険者パーティだ。
先日も、どうやったか
大きなオークの群れを討伐して、
村の崩壊を食い止めた。
彼らなら町にも慣れているし、
調査にうってつけだろう」
彼らが、ギルドにどのように報告したか
隣で聞いていたので、知ってはいた。
あの状況から、彼らが何らかの手段を使って
オークを殲滅した・・・
と、思われているようだ」
何らかの手段・・・は、冒険者の禁忌で、
突っ込めないのだろう。
「・・・・・」
両親には、冒険者としての活動どころか、
冒険者登録をした事も、話していない。
ナイトの、本当の実力を知らない両親は、
冒険者になる事は、許可しないだろう。
自分達の可愛い息子は、いつも図書室で、
ルシエルと勉強ばかりしている・・・と思っていた。
母のロディも強く諭す。
「そうよナイト。
危ないことは感心しないわ。
好奇心は猫を殺す、って知ってる?
お願いだから、
危険なことに首を突っ込むのは、やめて頂戴」
「わかりました。父様、母様。
調査と対処、よろしくおねがいします」
今はとりあえず引いておこう。後でどうにでもなる。
「二人は衰弱が激しかったので、今は安ませております。
後で、彼等の話を聞いて頂けますか?」
「わかった。食事が終わったら連れてきなさい」
食事が終わると、早速二人を父の前に連れてきた。
二人はガチガチに緊張ながら
「この度はご子息様に命を救って頂き、
誠に有難う御座いました。
もしナイト様と巡り合えなければ、
多分、死んでいたでしょう」
と、クラリスが何とか丁寧に、礼を述べる。
タックは、うんうんと首を振っている。
「領主のサマン=アルガーシスである。
この度は盗賊に襲われたそうだな。
ご両親を亡くされたとは、悲しい事である。
さらに奴隷にされかけるとは、同情を禁じ得ない。
今回、そなた達には二つの課題がある。
一つは盗賊に対し、
両親の仇を取りたいと望んでいる件、
二つは今後、
自分たちの力で、生活していかねばならぬ件。
盗賊の件は、今後調査をして確実に対処していく。
しかし、生活の件はどうしたものか?
すまんが、そこまで領主個人で面倒は見れぬ。
心情としては心苦しいが、
他の領民との公平性を考えると
他の領民も、個人的に養うことになろう」
最もな話である。
二人ともその話に納得がいったのか、頷いている。
「こうして、領主様自らお話し下さるだけで、有難いです。
他の領では考えられない対応です」
ナイトは笑顔になって二人に話しかける。
「では、予定どおり数日の休息を取って、回復に努めて下さい。
そのあと、盗賊対策に協力してもらい、報奨を渡します。
お二人の待遇は私のお客さん、で良いですか?」
「それで良いだろう」
父は残してきた仕事をする為、帰っていった。
母は「かわいいナイトちゃんのお客様。
仲良くしましょうね」
とにっこり。
「「ありがとうございます」」
二人は仲良く、深く頭を下げた。
ある日の午後、
クラリスとタックの二人が、部屋をたずねてきた
「ナイト様、お尋ねしたいことがあります。
少しお時間良いですか?」
書き物をしていたナイトは、顔を上げる。
「先日の領主様との話ですが、皆様、ナイト様の実力を
過小評価されているように感じたのですが?」
「ああ、それは魔法の事を、内緒にしているからだよ。
魔法の事を知っているのは、ルシエルだけなんだ」
「あのような素晴らしい力を、なぜ隠されるんですか?」
「魔法というものは持っていると知られれば、
大勢の人が利用しようと近づいてくるんだ。
その為に周りの大切な人たちに大きな迷惑が掛かる
その人達が、不幸になってしまうんだ。
そして、その人が大切だと思っていればいるほど、
それは大きくなるんだ」
「カッコいいし、頼りになるのにどうして?」
とタック
「それは、、、魔法はとても珍しくて効果が高いだろ?
お金で言うと、大金を持っている様なものなんだ」
クラリスは頷きながら、思い出すように言った。
「両親もお金を持っていたから襲われたんです。
お金目当てで襲われて殺された。
そして私たちは奴隷に売られて
不幸になるところだった・・・
魔法も一緒なんですね」
「しかも魔法はお金と違って、無くならないんだ。
翌日には回復している。そして、値段が付けられない。
先日クラリスを治した時、
もしも大金が掛かると言われたらどうした?
高いから我慢しよう、とは思わないだろう?
魔法とは、大切な人たちの生死に関わってくるんだ
だから、意味もなく人に明かさない。
隠しておくものなんだ」
「わかりました。でも、私たちは知ってしまった。
どうすれば良いですか?」
「秘密にしてほしい。
できれば魔法契約を結んでほしいんだ。」
「私も商家の娘、魔法契約の話は知っています。
命を助けていただいたのです。
喜んで守秘の魔法契約を交わしましょう。
弟には明日までに言い聞かせておきます」
そして最後にナイトは優し気に言った。
「体調が戻ったと思ったら、教えて下さいね。
盗賊の殲滅を始めますから」
さあ、敵討だと悲願を胸に、暁の面々とコラボしていく姉弟が活躍します。