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魔法の約束  作者: なが
39/40

39・近習達の暴走とナイト市場

魔法の約束 39




近習達の暴走2


ナイトがエスピレーゼ教国に出発した。その後、近習と奥様達の話し合いが行われた結果、改修計画が一気に走りだした。最初は漁港の改修。漁港に来たルシエルは漁港長に会いに行く。


「漁港長、今回、領主様の命により漁港を改装しに来ました。港を深くして大きな船も直接入港できるようにします。そして、船から降ろした荷物を直接馬車に積んでいきます」


従来の港は接岸出来る場所が限られ、更に水深の関係で接岸出来るのは、小型の船に限られていた。その為、ナイトの影響で貿易の増えた港は混雑を極めており、その改革は急務だった。


「そして、馬車が何台も入る施設を作り、馬車を倉庫の棚代わりに使います。予め、馬車ごとに荷物を分けて、積み下ろしなしで流通出来る様にしていきます。」

つまり、現代のコンテナを馬車で代用する考えだった。そのためには、広大な建物を必要とした。


直立不動で話を聞いていた漁港長

「はい、お願いします。お手伝いいたします」

領主命令には逆らえない。逆らうなら、首が飛ぶ覚悟が必要であった。もちろん首は物理的に飛ぶのである。


彼には「はい」以外の答えは無かった。

「5日後、改装の基礎部分が出来るまで、漁港周辺を封鎖して下さい」

「畏まりました」

そんなやり取りを経て、書いてきた図面を見せる。興味深げに覗き込んだ彼は、計画の壮大さに目を見張る。

更に、予算は大丈夫なんだろうかと、つい心配してしまうが・・・迂闊なことは言えなかった。



改修工事当日、ルシエルが朝から漁港に現れる。

「ここから此処まで、行きますよ!」

と、両手を前に出した彼女の身体が光りだし、高出力の魔法が発動された。ナイトに託された、巨大な魔力が詰まった魔石を使っている。緊急時にと渡された魔石は、十分に役立っていた。


決められた区画では大地が震えだし、樹木や草などが地面に沈んでいく。ほどなくして、整地された区画が出来上がった。


更にそこへニッカが水魔法で水を撒くと、ナーガが火を噴いて大地を堅めていく。その結果、大地はコンクリートの様になっていった。


次に、漁港では、カッツが海に入り海底の様子をメンバーと共有していく。そしてルシファーがそのイメージから海底を魔法で掘削していく。ほどなく、十分な深さの漁港が出来上がった。


漁港から街への道も、同じ要領で綺麗に整えられていく。



「これは素晴らしい!数日で整地が終わってしまった。有難う御座いました」

漁業長を先頭に、漁師たちが頭を下げる。

「いいえ、アルガーシス領を統治する者として当然の行為です。更にこの領を豊かにしていきましょう」


鼻息荒く胸を張る奥様達と、それを温かく見守る近習たちだった。しかも、ここ迄の工事は全て無料である。


気を良くした漁師達は、巨大な施設の建設に取り掛かった。此処に膨大な金銭が掛かるとは、誰も意識しなかった。今まで無料で与えられてきた為に・・・



港の普請から数日、領主邸に農村を纏めている庄屋たちが訪ねてきた。

「港の改修、誠にお見事でした。ぜひ、私達農村にも恩恵を頂きたく、お願いに参りました」


その要望を聞き、ルシエルは治水を提案する。領の中を流れる川から、水路を作って農業用水を引き込めるようにしようと。

用水路は、ルシエルの魔法で溝を掘り、道を整備した時と同じ手法で水路にしていく。結果、コンクリート製の水路が縦横無尽に耕作地を走る様になった。


またある時

「ルシエル様、この土地は川の水位が低すぎて用水が引けないのです。高い位置の川からでは、用水路が長くなりすぎます。かといって、人力で水は引けません」

どうすれば良いかと、相談された。


数日後、庄屋の家に赴いたルシエル

「揚水用の水車を使いましょう!わたしが設計しましたから、皆で手分けして作って下さい」と、設計図を渡す。ナイトの教育で得た、この世界にはまだ無い技術だった。


設計図に目を見張った職人は張り切って集まり、次々と水車を作っていく。川に平行に水路を作り、そこに水車を設置して、高くくみ上げた水を用水路に流すと水路が完成する。従来水不足の為、諦めていた土地が畑に変貌していく。更に水路や水車の管理は、畑の管理者毎に一任していく。


その調子で農村の改革も急速に進んでいく。増えた人口の食料増産も十分賄える。

「これでもう、問題は有りませんね。お父様にご報告いたしましょう」

一行は商業ギルドの最上階、領主の部屋を訪れた。


「お父様、領内の整備、終わりました。漁師たちと農民たちも満足していたようです」

「いやいや、それは良いのだが費用はどうなっておる?」

「え、費用と申しますと?」

「普請代金の請求が上がってきておるそうじゃが、支払いはどうするのじゃ?」

「え・・・」


女王として育ったダイアナは、支払と言う概念が無かった。城では配下の取り巻きが、用意した物を当然の様に使っていた。振り返った他の者達も、訳がわからない様子。


唯一、ルシエルだけが金銭のやり取りを理解していた。

「領主様の認可を頂いたので、支払は領の財政からされると思っておりましたが?」

「そうか、ではキルヒアイスを呼んできてくれ」

暫くすると、古参事務員が入ってくる。

「お呼びでしょうか?」

「今まで、領の普請に会計を置いてなかった。会計を担当してもらう」

「畏まりました。普請代金の帳簿を作ります」


キルヒアイスは早速帳簿を起こして行き、報告した。

結果、支払いが出来ないと結論づける。

「今の領の財政では払いきれません。領主様、何か方法をご提示下さい」


「・・・・・・・・・」


固まってしまった領主を見て、更に部屋の皆も固まる。


「・・・ナイトが帰ったら、対策を頼もう」

「・・・ナイト様なら何とかしてくれるでしょう」


そして、ダメダメな会話が交わされた。



その様子を見ていたキルヒアイスは頭を抱える。一冒険者のナイトでは、無理がありすぎる。その場に沈黙が沈んでいった。


1週間が過ぎ、ナイトが問題を解決するまで悩みまくったキルヒアイスだった。




財政問題が解決されたアルガーシス領は、飛躍的な発展を遂げていった。漁獲量は従来の漁法にナイト考案の底引網・一本釣りを加え数倍の成果を上げる。その流通も特殊で、その目玉は王都で開かれる「ナイト市場」である。


ナイトは収納と転移魔法を駆使して、ありえない市場を作り上げる。緊急用地として用意されている王城の裏地は、通常は使用できない。王都の中心にあり、市街から徒歩範囲内に位置する。


朝収穫された魚介類を、アルガーシス領の漁港に用意させ、一気に収納する。次に王都の城に転移すると、「ナイト市場」へ赴き収納から魚介類を取り出す。


魚介類と言えば、海から遠い王都では干物さえ高価な食材である。そこには通常あり得ない、魚介類の鮮魚市場が出現した。


予め、アルガーシス商業ギルドから出向していたギルド職員が、販売を担当する。最初は城の厨房に、更に貴族に高値で販売し、午後から安価な価格で庶民に販売していく。



「ナイト様、

この調子で利益が上がっていくと、一度の開催で金貨五千枚(五億円)の利益になります。6回のナイト市場開催で、今回の負債が返せます」

嬉しそうに報告するキルヒアイスに

「他国にも売りに行こうと思ってるんだ!領地に海を持たない国なんか、喜んでもらえそうでしょ!」



ナイトの価値観は「儲ける」ではなく「喜んで貰う」だった。



王都を訪れた旅人は、新鮮な魚介類に驚き、噂は各国を巡る。更に、ナイト市場で利権を目論んだ商人は、悉く淘汰されていった。漁業はアルガーシス領の専売なのだ。


ナイトは「ナイト移動市場」を各国の国主に伝達した。


「この度、ナイト商会では収納魔法による魚介類の出張販売「ナイト市場」を開催いたします。ご希望の国は申し込みください。商会主、ナイト=アルガーシスが対応させて頂きます」

この申し出に、各国主は一斉に手を上げた。冒険者ギルドの緊急通信を使い、その日のうちに申し込みが届けられる。


「ナイト様、婚姻に参加していただいた国主様方から、ナイト市場の依頼が届いています」

「まず、一国目はモンス皇国だね。ティアナと一緒に行ってくるよ」

「はい、ナイト様。久しぶりの里帰りで楽しみにしています」

ニコニコして嬉しそうなテイアナ。


「お父様も、久しぶりにお会いしたいそうです」

「ナーガもダンジョンに顔を出したいそうで、一緒に連れていくけど良いだろうか?」

「・・・・・だ、大丈夫だと思います。人の形での同行ですよね?」

「ダンジョンに入ってからはわからないけど・・・」

安心したテイアナはコクコクと肯いた。


モンス皇国転移の間には、ナイトの婚姻で移動に使った開かずの間がある。国王の立ち合いが必要な特別室に、ナイトとテイアナ、ナーガが転移する。

「皇王様、只今参りました」

部屋に出現したナイトが挨拶する。扉を潜ったそこは、皇王の私室であった。


「よくぞ参られた、ナイト卿!こちらへ」

応接セットのあるリビングに案内され、ソファーに腰かける三人。

「お父様、ごきげんよう。お元気そうで、安心致しました」

「テイアナこそ元気にしておるようだな。顔色も良い」

「ナイト卿、事前にアルガーシス城裏のナイト市場については、情報が入ってきておる。また、かの国でナイト卿が奇跡を起こしたと、わが国でも評判じゃ」


「有難う御座います。皇国でも、同じ市場を開きたいと思い、やってきました」

「城の中庭に練兵場が有り、そこを抑えてある。一度見に行って欲しいが・・・」

「どうされたのですか?」

「・・・いや、実は謁見で喚いていた騎士が、ナイト卿と手合せを望んでおってな」

「ナイト様の前に、私が手合わせしましょう」

ナーガがナイトに先んじて前に出る。

「手加減しないとダメだよ」

心配そうに声をかけるナイトに

「大丈夫です。色々学んだナーガをお見せします」

ニッコリと微笑んで、意気揚々と練兵場に向かうナーガ


兵士が装備を着けて待つ練兵場では、高い士気が高揚していた。

「ナイト卿はやっと成人した子供である。我らの実力をお見せしようではないか!」気勢を上げる騎士たち


そこにナイトより、更に小さなナーガがやって来る。

人化したままの、10歳の女の子。トコトコと騎士達の前に進み出ると

「ナイト様に変わり、お相手します」と仁王立になる。


ナーガが竜であると知らない騎士は

「まてまて、子供ではないか!ナイト卿、卑怯だぞ!子供に怪我をさせて、この場を誤魔化すおつもりか!」

ナイトを疑っていた大きな騎士が、剣をナイトに向ける。


「彼女を一歩でも下がらせたら、私の負けで良いですよ」

と、ナイトが煽ると、顔色を変えた騎士はナーガを弾き飛ばそうと体当たりした。流石に、女の子に剣で切り付けるのは躊躇した様だった。ドドドと地響きの様な突撃音は、一つの破壊音で途切れる。


「グッシャ」


体当たりされたナーガが一切動かなかった為、騎士は壁に激突した様になり、その場で崩れ落ちた。


倒れた騎士の大きな甲冑には、小さなナーガの輪郭に沿って陥没した窪みができる。オーガキングを一撃で倒すナーガに、騎士の体当たりは余りにも無謀だった。


そこでナーガは、変形した甲冑に包まれて苦しんでいる騎士に近づくと、甲冑に手を掛けベリベリと紙の様に甲冑を毟っていく。卵の殻をむく様にして、中の騎士を取り出した。


「ナイト様、お願いします」


気を失った騎士を軽々と抱き上げ、ナイトの元へ運んできたナーガ。

周りの騎士達は、そのあまりの状況に固まっている。内出血と骨折であり得ない姿になった騎士に、ナイトは回復魔法を掛けていく。緑色の光に包まれた騎士の身体が、騎士達の前で綺麗に治っていった。


「これで納得して貰いましたか?」


言葉を失った騎士達は、全員コクコクと頷いた。

駆け寄ってきたナーガの頭を撫でるナイトと、ニコニコ抱きつく女の子は一見ほのぼのとしていた。


引き攣った表情で見学していた皇王は、今後の予定を尋ねる。

「市場はいつから開くのじゃ?」

「お許しがあれば明日からでも」

「国民と貴族に周知するので、10日後で良いかな」

「ではその日程で、更に販売人員もお借りしたいです」

「わかった、揃えておこう」

細かな価格等は、前例に習うと告げる。



アルガーシス領の漁村では、引退した老人達が大勢いた。船に乗る体力のない老人達はただ、日々死んでいくのを待っている。1人の乗組員の失敗で、乗船した仲間が全員死亡するのも珍しくない操船事情に、能力の衰えた老人を乗船させる余裕はなかった。彼ら老人も、実情を理解しているだけに如何とも、しがたかった。


出航していった漁村に残る老人たちの所に、その少年はやってきた。


「こんにちは!良い天気ですね」

「おお、ナイト様。ようこそいらっしゃった!釣りですか?散歩ですか?村を案内しますじゃ」

「いえいえ、仕事ですよ。お爺さん達は忙しいですか?」

「いやいや、この年になっるともう出来る事はありませんじゃ。無理に仕事をすると、仲間が死にかねないのが漁師じゃ。今は昔を思い、朽ちていくだけですじゃ」

寂しそうに呟く老人に、ナイトは笑顔で依頼する。


「魚を捌ける人をさがしています。大きな魚はギルド職員の手に余るんです」

「この漁村に暮らすもので、魚が捌けないものは居ませんじゃ」

「お爺さんも?」

「もちろんじゃが・・・ただ、誰でも出来ることで、ワシらの出番はありませんじゃ」

寂しそうに俯く老人に

「今度始めたナイト市場で魚を捌く出し物を考えています。あなたにお願いしたいのですが」

「わし?わしで良いのかな?毎日する事もないので、いくらでも使ってくださいじゃ」

「そう!国外に出てもらいますから何ヶ月も掛かります。仕事をしている人には頼めないんですよ」

「まあ一度、腕をみてもらおうか?」

「ではこれを捌いて下さい」

そう言うとナイトは大きめの魚をとりだした。まな板と包丁も出して渡す。


「これは粋がいいのう」

言うや否や颯爽と魚を裁きだす。その手腕は胴に入ったもので、ナイトは内心舌を巻く。

「私の所で働いていただけますか?」

「それは願ってもないことじゃ。こちらからお願いするのじゃ」


かくてナイト市場では、魚を捌いたことのない領地での販売が加速していく。老人たちは「ナイト市場専属料理人」として、魚の購入とセットで魚料理を提供していった。




















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