3・魔法契約
オークを殲滅してしまったナイト。暁の苦悩が始まります。
魔法の約束3
魔法契約
「皆さん、オークは殲滅しました。
緊急事態だったので、死骸も残っていません。
すいませんが、素材買取の報酬は諦めて下さい。
さらに申し訳ないのですが、僕と魔法契約を結んでいただきます」
ロイドは、まるで夢の中にいるような気がした。
死を覚悟して、走馬灯が頭の中を駆け抜けていたら、
いきなり視界が切り替わって、走馬灯が終わる前に全てが終わっていた。
「ナイト君、何が起きたのか説明してくれ。
オークはどこへ行った?村人は?
何故いきなり地形が変わっているんだ?」
「そうよ!これからオークに蹂躙されるか自決するかを考えていたのに、訳が分からないわ!」
「魔法契約って何?」
皆そろって、安心して良いものか迷っているようだった。
今の事態が理解できない。
先ほどまで、生死の境にいたのだ。
「状況を簡単に説明します。
オークが襲ってきたので魔力で押しもどし、
皆さんと村人を収納して、
魔法でオークを一気に殲滅しました。」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
「この事を他でしゃべられると、
たぶん、この国と僕が戦争になると思います。
そのような事態を回避する為に、
口外禁止の魔法契約を結んでいただきます」
ロイドが改めて質問する。
「魔法契約って何だ?」
「魔法を使った契約で、
破れば最悪、死ぬこともある契約です。
通常は貴族間で、互いに利害を調整する時に使いますが、
王都の一部上級貴族か、王族ぐらいしか使いませんので
皆さんはご存じないかと。
あと、国同士の契約などにも使われています」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
「話が大きすぎて就いていけない。
少し時間をくれないか?」
座り込んで、ため息交じりに頼んでくるロイド
「では、夕食にしましょうか?
そのあと皆さんで一晩相談して、明日もう一度その話をしましょう」
ナイトはもう、
アイテムボックスや魔法を隠す必要が無くなった。
土魔法で空き地を作り、
小さな小屋をだして、暖かい料理を皆に提供する。
これまで隠してきたもろもろの事柄を
もう何も隠さなくてすむ安堵感が、込み上げてきた。
誰も一言もしゃべらず、モクモクと黙って食事を食べた。
「ちょっと出かけるので、この小屋でお休みください」
ナイトは、自失茫然状態のロイド達を残して出かけていく。
ナイトがいなくなると・・・
ロイド
「エイリア、ちょっとほっぺたをつねってくれないか?
・・・・・いたたた!強すぎる!ほっぺたがもげる!」
ミーシャ
「ハリス、私もつねって。・・・・・って、どこつねってるのよ(怒)
でもちょっと気持ち良いかも」
ハリス
「ゲゲ!・・・」
ロイド
「みんな正気に戻ったか?こっちに帰ってこいよー!
さっきの話をしよう!」
「コンバがあっち行っちゃってる!」
「おいコンバ!しっかりしろ!」
「いや、そこは触らないでほしいぞ。触っていいのは俺の女だけだ!」
「あ、正気にもどったね」
と、しょうもない会話を経て、
正常に復帰した「暁」のメンバー。
今度は真剣に相談を始める。
「まずこの状況を整理しよう。
俺たちはオークの群れに襲われた」
「「「「「うん」」」」」
「で、気が付いたらナイトがオークを殲滅していた」
「「「「「うんうん」」」」」
「そして、命に係わる魔法契約を迫られている」
「「「「「うんうんうん」」」」」
「・・・まず、魔法契約は問題ない・・・と思う」
「なぜ?どうしてそんなことがわかるの?」
「俺たちがしゃべらなければ、良いだけだからだ。
最も、しゃべっても誰も信じないだろうが。
それに、一瞬であのオークの群れを殲滅できるナイトが、
好意で提案してきたしな。」
「好意で提案?命に係わる契約を?」
「考えてもみろ!あの状況だぞ!
あのナイトなら秘密を守る為に、
全てを殲滅する事もできたんだ。
我々や村人全てを纏めてクイッと・・・」
「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」
「問題はナイトの正体か」
「8歳の子供でしょ?」
「お前、本気で言っているのか?そんな訳ないだろ!」
「悪魔が化けてる」
「いやいやいや・・・ミーシャ、それはないだろ。
ナイトの力を考えてみろ。
偽装する必要なんて無いだろうが!」
「じゃあやっぱり8歳の子供でしょ?」
「それはそうだが、子供の前に何か付くだろ」
「かわいい?」
「すなおな?」
「弟にしたい?」
「ちがーーーーう!特別な・・・・だよ・・・多分」
「つまり、人格的には少ししっかりした8歳の子供で、
魔法や戦闘力はSクラス並み?」
「そういう事にならないか?」
「だとしたら、どうすれば良いんだ?」
「普通に付き合えば問題ないんじゃないかな」
「困ったときのナイト頼み。
一家に一人いると便利・・・みたいな?」
「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」
「ナイトの事は詮索しない。追求しない。
そして、できれば仲間にする。で、良いんじゃないか?」
「仲間は難しいが、パーティ「暁」として良好な友人にしていこう」
「大体、今日の事を人に話しても誰も信じないわよ。」
「では・・・」
「「「「「その方針に賛成!」」」」」
そして夜はふけていく。
一方、ナイトは家に戻っていた。
いまだ8歳の体、夜更かしは体がもたない為、
ベッドでぐっすりと眠っていた。
さすがに外泊は、家族にばれてしまう為まずかった。
翌朝、「暁」のパーティが小屋から起きだしてくると、
すでにテーブルに朝食が並べられていた。
食事をしているナイトの隣では、
メイド服を着たルシエルが、かいがいしく給仕をしていた。
「皆さん、おはようございます。お先にいただいてます。」
「「「「「「おはようございます、ナイト様」」」」」」
「昨日は、色々ありがとうございました。
魔法契約は問題ありませんから、
食事が終わったら、契約をお願いいたします」
「どうして敬語?あ、そんな顔しないで・・・
できれば前のしゃべり方の方でおねがいします」
「わかりまし・・・わかったよ、ナイト君」
「うん、では顔でも洗って来て下さい。
洗面所とトイレはそこに作ったので。
よろしければお風呂も御用意します」
「何も聞かない、何も聞かない・・・でも聞きたい・・・いや聞けない・・・」
呪文のように呟きながら洗顔をする面々。
最初に立ち直ったのは、若さゆえに適合力が高いミーシャ。
「ナイト君、昨夜はどこに泊まったの?いなかったよね?」
「はい。自宅に帰ってベッドで寝てました」
「・・・お家、近いの?
襲われた村って、もしかして君の村?」
「いやいやミーシャ、そんなわけ無いだろ!
普通に考えて領内に住んでるだろ。
しかもナイト君を見ろ!
待女が付く村人なんて居ないだろ、普通・・・」
次に立ち直ったコンバが
視線でミーシャを抑えながら突っ込んだ。
すると慌てて立ち直ったリーダーのロイド
「ナイト君については、詮索しないと決めただろ!
どこに住んでるかなんて聞くなよ」
「「「「うんうんうんうん」」」」
まとまりの良いパーティだった。
みんなで朝食を食べ終わり、
ルシエルが出したお茶を飲みながら
「今日はもう一つ大仕事が残っています」
と、ナイト
「そうなのか?では、何をすればいいか言ってくれ」
「できる範囲でだけど、何でもするわよ。
命の恩人なのだから」
「でも、エッチはだめ」
相変わらず一人外すミーシャ
「実は、村人がまだ収納に入っているんですよ。
この人たちを何とかしないと、、、」
「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」
「何とかって?」
「ナイト君の力を隠して、穏便に納得させるのよね」
「む、難しい」
「そんなこと、できるのか?」
すると、いきなりメイド服の女性が答えを出す。
「村人とは面識がないのですから、初対面を装っては?実際、初対面ですし」
「なるほど・・・で、この女性は?」
「失礼しました。
私はナイト様の従順な待女で、ルシエルと申します。
生活全般のお世話をさせて頂いています」
と、またもや理解不能な爆弾が落ちる。
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
「わかった。今のセリフは聞かなかったことにしよう」
とロイドがその場を収める。
「ナイト君に、隠れた所から村人を一気に出してもらい、
しばらくしてから、その場に我々が駆けつける。
そして、今到着したのだが何が起きたんだ?
オークは何処だ・・・と、
とぼけて彼らを助ける。」
「うん、それで行こう!
我々は何も知らない。何も見ていない。
二日かけて、オークを討伐に来た冒険者。
日数もギルドの記録と合うはずだ」
「本当は、ナイト君の収納が有ったから、半日で到着してるんですけどね」
「「「「「「うんうん」」」」」」
「あと、亡くなった村人も入っているんですけど、
一緒に出しますからおねがいします」
「・・・・了解」
「最後にこの小屋や、
他にもナイト君が出した野営の痕跡も、何とかしないと」
「あ、それなら収納しちゃいます」
そのセリフとともに、すべてが一瞬で消える。
「・・・もう何も考えたくない。
早く終わらせてギルドには、
現地の偵察をしてきましたが、
縛られた村人と数人の亡骸が有っただけ。と報告」
「あとは後続の冒険者に任せよう」
「それで決定!その前に、魔法契約を済ませようか」
「では皆さん、この書類に署名と血判を」
いきなり空中に書類が出現する。
「「「「「「・・・・・」」」」」」
全員が血判を押すと、
書類は光り輝き、水が蒸発するように消えていった。
「では村人を出します。
皆さんは、あの岩場の陰に隠れて待っていて下さい。
僕もすぐ合流します」
村人達が縛られていたところへ行き、
建物の陰に隠れて、一気に村人と遺体を出す。
そして、そっとその場を離れた。
「お待たせしました。それではゆっくり行きましょう」
「ナイト君、その前に預けていた荷物を出してくれ。
手ぶらじゃ怪しすぎる」
出した荷物を、各人が分担して担いでいく。
「一度収納魔法に染まると、引き返せなくなりそう」
「人間楽を覚えるのは良くないんだが、
水は低い方へ流れるからな」
「あはは」
暫く歩くと、縛られた村人が見えてきた。
駆け足で近寄り、村人の戒めを解いていく。
「大丈夫ですか?」
「どうしてこんな事に?」
「オークの群れがいるんじゃ!
早く逃げなされ。
食われるぞ!」
「オークの気配なんてありませんよ?」
「どこにいるんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「本当じゃ!あんなに居たオークが居ないぞ。
どこぞに隠れておるんじゃろう」
「村長、ほんとにオークが居なくなっている。
匂いもしない」
「そうか・・・・・ではとりあえず、わしの家へ。」
村長の後ろについていくと、大きな家に入っていく。
村長の家は、集会所なども兼ねている為大きい。
「今回、オークの襲撃から村を守る為、派遣されてきた冒険者「暁」です。
私はリーダーのロイドと言います。
しかし、オークは確認できませんので、
ギルドへの報告は調査のみ、で、よろしいでしょうか?」
「いやいや、先ほどまでオークに襲われていたのじゃ。
もう少しここに滞在してほしい」
「わかりました。2~3日滞在しましょう。
滞在場所は何処にしましょうか?」
「この家に居てほしいじゃ。
部屋と食事はお世話するでの」
「無料で滞在も心苦しいので、
何かできることがあれば、手伝いますよ」
「では何か食べれる物を調達してほしい。
オークに食われてしまったのでな
もちろん買い取らせて頂く」
ロイド達は早速、裏山に獲物を狩りに出かけた。
「ナイト君は、動物を狩ったことはあるのかい?」
「あまりありません。
収納に調理した食事が、常に入っていますから」
それもそうか、と思いさらに続ける。
「狩りは追い込み狩りや罠を使うのが一般的だな、
獣にもよるが、角ウサギや鳥は初心者向けの獲物で、
弓矢で狩る。
また、大きいものは四足獣の類で、落とし穴や
槍を使うのが基本だ」
「面白そうなので僕もやりたいです。
確かルシエルが昔、狩りをしていたとか聞いています。
彼女に聞いてみます」
「狩りですか?私は隠れて魔法で狩ってました。
一度お目にかけますね」
最初に土魔法で、大きめの穴を掘る。
そして、ルシエルは目をつぶり、両腕を頭上に挙げると、
雉のような鳥が数羽落ちてきた。
その鳥は空中で逆さになると、
首が切れて血抜きが始まった。
同時に羽はハラハラと自然に抜け、
内臓とともに地面の穴に落ちていく。
頭上の手を前方に突き出すと、
今度は軽自動車ぐらいの猪が、
足を上にして空中を飛んできた。
猪は空中で逆さになると、
のどが切れて、同じように血抜きが始まる。
血抜きが終わると腹が割け、
内臓が穴の中に落ちていく。
そしてさらに腕を下に向けると、
角ウサギが地面の穴から、空中へ飛び上がり、
瞬時に肉と角に分離した。
「こうやって食料を調達していました」
目の前には十数分で捌かれた鳥肉が5個、
ウサギ肉が3個、猪肉が一頭分、並べられた。
「あとは肉を冷却魔法で冷やして、終わりです」
後ろで見ていたロイド達は固まってしまい、声を出せなくなっている。
「ご苦労様。収納に入れておくよ」
ナイトが手を横に振ると、肉だけが一瞬で消える。
ロイド達に振り返り
「これで良かったでしょうか?
間違ったことがあれば助言してください」
と、にっこり笑う。
今回も固まっていたロイド
「驚いた。何も言う事はないよ。村長の家に戻ろう。
でも、ルシエルはもしかして、魔物や人間にも同じことができるのかい?」
ルシエルは顔をしかめて
「実行能力はありますが、
心理的抵抗が強くて魔物はともかく、人間にするのは無理だと思います。
人間の赤ん坊なら、だれでも素手で殺せますが、
普通する人はいませんよね。それと同じです」
「なるほど、要は魔法を万能狩猟器具と考えればいいわけか、
もう帰ろう。獲物が多すぎて、これ以上取っても食べきれないだろう」
村長の家に帰り、裏庭の獲物解体小屋に入って
先ほどの肉を収納から取り出して並べた。
そして村長を呼んできて狩果を見せる。
「何ですか、この大量の獲物は!!」
村長の叫び声が響き渡った。
その夜、村長の家では大量の料理が用意された。
過酷な体験をした村人たちにもふるまわれ、
彼らにも、少し笑顔が戻った。
村長は買い取ると言ったが、
ロイド達は狩猟方法を見ているので、
さすがに、お金をもらう気になれなかった。
「これは宿代として、すべて使ってください。
ルシエルさん、それで良いよな?」
「私はナイト様の従僕ですから、
その獲物はナイト様のものです」
「ロイドさんの好きなように。
オーク被害にあわれた、お見舞いの意味も込めて、
村長に渡してあげて下さい。
僕は、一日銀貨3枚で雇われていますので」
「・・・その契約、今も有効なのか?
それじゃぁ、俺たち命は銀貨6枚ってことか・・・・」
「契約ですから」
「・・・・・」
ロイドは思わず頭を抱えた。
そしてその夜、「パーティ暁」のメンバーはみんな、酒を浴びるほど飲んで撃沈した。
酒が飲めないナイトは、ルシエルと共に家に帰り、家のベッドでぐっすり眠った。
苦悩してやけ酒、撃沈した「暁」の面々。次回は狩りに出た冒険者の話。アイテムボックスがばれます。