25・ダンジョン
今回はダンジョンです
この世界はオーク以上の魔物は倒すのが困難で、対応出来ない国は簡単に衰退します
そういう意味でも、ナイトの存在はチートなのです。
とんでもナイト、ダンジョンでも無双します!!
魔法の約束 25
ダンジョン
ある日の昼下がり、王城の宝物庫に穴が開いているのが発見された。
発見者は最初、窃盗団があけた穴だと思い、その穴に騎士を送り込んだ。ところが騎士が遭遇したのは・・・魔物だった
何とそれは、ダンジョンにつながっていた!
早速、冒険者ギルドからSランク冒険者に白羽の矢が立った。普通の人間の力では、地下から出てくる魔物に対処できない。
ほとんど国防案件・・・モンス皇国の竜と同じ、国が滅びそうな案件だった。
国王の要請により、全ギルドからSランク冒険者が集められた。
王都冒険者ギルドの会議場では、5人のSランク冒険者が一堂に会していた。それぞれが強い力を持ち、独自の技を使う。
討伐チームを纏めるのは、王都ギルドマスター・エリック=ドーラン、統率に長けたSランク冒険者。
「今回のクエストは、王城で発見されたダンジョン入り口の閉鎖だ。ダンジョンの中は魔物が跋扈しているとの事。諸君の働きに期待する!」
「それならば単に宝物を運び出して、騎士を送り込んで入り口付近の魔物を討伐してから、宝物庫を埋めてしまえば良いのでは?」
「もうその方法は失敗したのだ。埋めた翌日には、同じ場所に又穴が開いていたそうだ。
しかも送り込んだ騎士たちは、命からがら撤退してきた」
「つまり、入り口だけでなく、騎士さえ通用しなかったダンジョンそのものを、破壊する必要があると?」
「もしくは・・・ダンジョンマスターを退治する事だな・・・」
「そ、そんな事が出来るのかい?」
「とにかく・・・少しずつ魔物を削っていくしか無いだろう」
Sランク冒険者は、互いの能力を前もって開示する事をしない。状況によって個別に対処できるものが対処していく。相互に助け合いもしない。足を引っ張るものなど居ないから、とされている。
「明日より討伐を開始する。明日の朝、王城前に集合だ」と、エリックは締め括った。
その後、ギルマスに呼び出されたナイトは少し緊張していた
「何か御用でしょうか?ギルマス直々に話とは?」
「いやいや、楽にしてくれ、ナイト君。まず、今回の討伐を受けてくれてありがとう」
「いいえ、先日Sランクにしていただきましたし、少しは働こうかと・・・」
「今回の件だが、はっきり言ってダンジョンを破壊しないと、この国が滅びそうなんだ」
「そうですね。このまま魔物が国中に拡散していけば、不味いですよね」
「ナイト君はこの危機を救えるのかな?」
「ここだけの話、先日捕まえた竜は従魔にしてますし、問題ないかと・・・」
顔全体が喜びに包まれたギルマス
「この事を陛下に報告しても?」
「構いませんよ。陛下も先行きを知りたいでしょうから・・・」
「ありがとう!そして明日は頼まれてくれるか?」
「お任せ下さい。何の問題もないと、陛下にお伝えください」
「わかった!では、いつも通り・・・」
「「ご内密に!」」・・・声をそろえる二人
そしてギルマスは、スキップしそうな足取りで出て行った。
ギルマスの呼び出しには陛下と違い、お茶とお菓子がつかない。
10歳のナイトは、それが唯一の不満で・・・悲しかった。
学院寮のS クラス、ナイトの部屋で情報を募る。
「ナーガ、ダンジョンに住んでいたんだろ?中はどうなってるの?」
「ダンジョンでは力の強い者は、周りを気にせず暮らしていたわ。他の魔物と遭遇したら、強い方が弱い方を食べるの。
基本的に弱肉強食よ。
そして特に強い魔物は、従魔を従えたりしていたわ、自衛の為ね・・・
でもナイト様は最上位に当たるから、従魔を引き連れてダンジョンに入れば、楽が出来るし安全だわね。
因みに私は、自分より強い魔物にはここ百年ほど会ったことが無いわ・・・ナイト様を除いてね」
「じゃあ、従者はルシエル、従魔はニッカとナーガそしてカッツで行こう。・・・学院の同級生は無理だね」
「学生さんには荷が重いと思います。足手まといを態々連れていく事も無いかと・・・」
「それと、周りがSランク冒険者だから暁は今回、外した方が良さそうだね」
そんな事を相談していると、二人の姫がやって来た。
「ナイト様、明日ダンジョンに潜るのですって?」
「そうだね。みんなで行ってくるよ。お土産は無いと思う」
「父に言って騎士を同行させましょうか?」
「いや・・・足手まといだから要らないよ」
二人で悲壮感を漂わせて、心配そうに激励する。
「「それではお気を付けて、行ってらっしゃいませ!」」
「うん、ありがとう。楽しんでくるね!」
「「た、楽しんで・・・・・・・?」」
何か違う、と思う二人だった。
次の日の朝、日が昇る頃には王城の前に冒険者が集まった。それぞれが数人のメンバーを連れている。
「よし、行くぞ!宝物庫まで案内しよう」
ギルマスで指揮官のエリックが先頭に立ち、十数名がついて行く。
途中、国王が見送ってくれた。
「生きて帰ってくるように!無理をしてはならない!」
有難いお言葉を賜った。
「ここが入り口だ!誰から入る?」
「私が行こう」
「あまり固まると、かえって動けないからな」
ひとグループずつ入っていく。ナイトは三番目に入った。
中は壁が光っていて、思ったほど暗くはなかった。
ルシエルが魔法で索敵する。
「ナイト様、前方50メートルに小型の魔物が5匹居ます。多分、ゴブリンでしょう」
ルシエルが、遭遇したゴブリンを魔法で凍らせると、その首をナイトが剣で切り飛ばしていく。
続けて数十体を倒して狭い通路を抜けると、大きな空洞に出た
先に入った冒険者が魔物と交戦している
形勢は有利に進んでいるようで、危なげなく魔物を倒していく。
天井から蜘蛛の様な魔物がバラバラと襲ってきたのを、炎の壁で焼き払うナイト。
すると隣で交戦していた冒険者が毒を浴びた。
転げ回る冒険者・・・その毒は強く、衣服を溶かして身体に浸透していく。
ナイトはすかさず解毒魔法を使って助ける。
全裸に近くなった冒険者は、隠蔽魔法が解けて元の容姿に戻る
「ローザさん?宮廷魔導士のローザさんじゃないですか!こんな所で何をしているんですか?」
「ナイト様、ありがとうございました、そしてご無沙汰しています。
陛下から特命で、影からナイト様をお守りするように、変装して討伐に参加していました。
でも、必要なかったみたいですね・・・」
全裸の体を丸めて話すローザは、目の毒だった。
周りの男達の視線に晒され、赤面していた彼女を黒い結界で衝立を作って隠す。そして、収納魔法からニッカ用の服を出して渡した。
ニッカの服は、その一部をナイトが管理している。
ニッカには常時着服する癖がない為、時々起こる事故を防ぐためである。
ローザは渡された服を急いで着ると「助かります」と言って、脱出していった。
少しでも被害を受けたら、脱出するよう示し合わせてある。事前の打ち合わせ通りの対応だ。
さらに進んでいくと、次々に魔物に遭遇して、脱出する冒険者は当初の半分を数えた。
残った冒険者にナイトが結界を張り、ドーム状に被う。
魔物は中に入れず半透明な結界の周囲を取り囲みながら、互いに捕食しだした・・・共食いである。
もちろんニッカの精神操作が効いているのだが、冒険者からは魔物が勝手に共食いしているように見える。
「少し休憩しよう。そろそろお腹がへったよね?」
そうみんなに声を掛けると、疲れ切った冒険者の一人が話しかけてきた。
「君が噂のとんでもナイトだね。この壁は君が作ってくれたのかい?」
「はい。一度休憩して、食事でも食べませんか?」
「余裕だね。まるで散歩に来ているみたいだ!・・・もしかして、この状況を楽しんでる?」
「そうですね、結構楽しいですね」
「・・・やっぱりとんでもナイトだね・・・」
あきれているが、同時に頼もしそうにもしていた。
「ナイト卿といると、死ぬ気がしないよ」
「死ぬなんてとんでもないですよ。遊びに来ているんですから」
ナイトがにこりと笑う。
「頼もしいね!」
周りの冒険者たちは、改めてナイトの「とんでもなさ」を実感した。
ナイトは土魔法で大きなテーブルを作ると、収納から城で作ってもらった料理を出す。
「皆さん!休憩と食事にしましょう!陛下からの差し入れです。食べてください」
「おお!本当に散歩に来たみたいだ。喜んで頂くよ、ナイト君」
他の冒険者も好きな料理をつまんでいく。大皿に出された料理は瞬く間になくなっていった。
みんなで食事していると、かなり大きなサイの魔物が突進してきた。
冒険者たちは動揺するが、ナイトとその取り巻きは平気な顔で食事を楽しむ。
それを見た冒険者たちも、あきれながら食事を再開した。
食事が終わり、皆、満足げにしているとナイトが
「僕はちょっと昼寝させてもらいます。皆さんも食休みをして下さい」
と言って、収納からベッドを出すと横になってしまう。
あきれる冒険者たち。マイペース極まりないやり方は、強者の余裕であった。
少ししてナイトが目覚めると、大きなあくびをして
「そろそろ行きましょうか!結界を外す前に周りを掃除しておきますね」
そう言うと、ドームの外側に炎の壁が立ち上がり、周囲の魔物を一気に殲滅した。
壁が無くなった洞窟では、冒険者たちが呆然としている。
「さあ!行きましょう」
いつの間にかナイトの取る指揮に、みんなが自然とついて行く形が出来ていた。
奥へ進んでいくと、白い壁の部屋にたどり着いた。
ダンジョンマスターの部屋だ!
その部屋には五体のオーガに守られたオーガキングが待ち構えており、恐ろしい声で吠える。
その戦闘力は、オーク五体でオーガ一体と並ぶ。
冒険者たちは軒並みひるんで、壁に張り付いた。
皆、顔が引き攣る。
最初に動いたのはルシエル
一人で前に出ると、両手を向ける。するとオーガの一体が宙に浮き上がる。
さらに片腕を横に振ると、オーガの体が真っ二つになる。
血飛沫をあげるオーガを、オーガキングに投げつけた。
オーガキングは荒々しくそれを振り払い、血を浴びて真っ赤に染まる。
血まみれの顔はとても怖かった。
冒険者の中にはそれを見て、逃げ出す者が出たぐらいである。
そして他のオーガがルシエルに詰め寄る。
そこへニッカが介入する。
前に出るとオーガの一体を蹴り飛ばす。
蹴られたオーガは大きく飛ばされ、血まみれのオーガキングにぶつかって行く。
さらに残り三体のオーガがナイトに走り寄ると、その爪で小柄なナイトを引き裂こうとする。しかし、結界に阻まれてその爪は届かない。
ナイトは初撃を防ぐと結界を解く。同時に、指先に魔力を集め、火炎魔法を放った。
それはオーガを焼くのではなく、貫き通して三体をまとめて串刺しにした。
さらに流れるような体捌きで、オーガの首を次々と刎ねていく。
すると最後に残ったオーガキングが、大きな声で吠えた。
周りの空気がビリビリと振動する。
その咆哮に冒険者達が首を竦めて蹲ってしまうと
今まで大人しかったナーガが、突然一人で突撃していく。
「ああああ・・・危ない!!」
周りの冒険者は悲鳴を上げる。
「恐怖に負けて錯乱しているぞ!」
「誰か押さえろ!あんな小さな女の子、潰されてしまうぞ!!」
しかし・・・潰されたのはオーガキングの方だった。
その小さな女の子はオーガキングに体当たりする。
「どーーーん!!」と大きな音と共に、体当たりされたオーガキングは後ろに吹き飛ばされて、岩壁に激突しそのまま事切れた。
その体は、まるで大きな岩が当たったように拉げていた。
いかなオーガキングと言えど、竜に体当たりされれば・・・ひとたまりも無かった。
振り向いてにっこり笑うナーガの笑顔を、冒険者たちは愕然とした目で見つめていた。
走り寄ったナーガが抱きつく、その頭を撫でるナイト。その左右にはルシエルとニッカ、足元にはカッツが寄り添う。ああ、この四人で国を滅ぼす事ができるんだ・・・と、とんでもナイトの真価を、再認識する冒険者たちだった。
「皆さん、今回の事は御内密に!!」
響き渡るナイトの声に、全員、激しく首を縦に振っていた。
それから、洞窟の奥に小さい部屋を見つけて扉を開ける。中には大きな白い魔石が鎮座していた。
ナーガがそれを持ち上げると途端に、照明のスイッチを切ったように薄暗くなる。
「ナイト様、これでダンジョンは不活性化されました!
私たちがこの魔石を持ってダンジョンを出れば、魔力を失ったこのダンジョンは崩壊するでしょう」
それを聞いた冒険者達は
「信じられん!一日でダンジョンを踏破してしまった!」
と、喜びの声をあげる。
「ダンジョンを出たら、あなた達は英雄ですね。お疲れ様でした」
笑顔のナイトに
「いやいや、全てナイト君のお陰だから・・・」
「お願いですから、そういうことにして下さい」
頭を下げるナイトに、ただ黙って頷く冒険者達だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
宮廷魔導士ローザの報告
宮廷に帰還したローザは身体を綺麗にしてから、自室でいつもの衣服に着替えた。
そして急いで、国王と貴族院長が報告を待つ部屋に赴いた。
「ローザです」
ノックをすると待ち侘びた様に、大きく扉が開かれる。
「ご苦労だった、ローザ。で、討伐は成功したのか?」
「毒を浴びて負傷しましたので、途中までしか居りませんでしたが、問題ないかと・・・」
「もう少し具体的に報告せよ!問題がないとは?」
「最初は冒険者が頑張って魔物を倒しておりました。
しかし魔物は次から次に出てきまして、疲れがピークに達してきました。
私はその時毒を受けて、もうこれで死ぬのだと覚悟した時、ナイト様に助けられました。
その時、ナイト様には私の正体が露見してしまい、全ての事情を話して帰ってまいりました。
少し後を追ってみましたが、最後に見た時、ナイト様は結界で冒険者の休憩所のような物を作っておられ、その中に魔物は一切入れなかったみたいです」
「その後は見ておらんのだな?」
すると貴族院長が、陛下に
「無理ございませんでしょう!むしろ負傷するまで頑張ったローザを誉めてやるべきです、陛下」
「そうだな!ローザ、此度は誠にご苦労じゃった。さすが宮廷魔導師じゃ」
「陛下、私は今回ナイト様の力の一端に触れました。以前見た数値以上に強く、そして優しかったです」
「うむ、ナイトの優しさか・・・他を慈しむ心こそ大切じゃ。能力が高くても心が付いていかねば害になるからの」
「ナイト卿は人格高潔、正に申し分のない人物だと、予々思っておりました」
二人が手放しに褒めるのを聞いて、嬉しく思うローザだった。
ダンジョンコアを奪取して、ダンジョンを攻略したナイト
冒険者たちの感謝と信頼と受け、「御内密に」が炸裂する。
暁に始まった内密方針は、その後も男たちの心を折っていく