第三章☆リンカ
深夜。
若い女性が寝息をたてているのを確認してから、机の上の木箱に手を伸ばす者がいた。
「何をしている」
背後からデルムントが声をかけた。
「何って、あなた誰?」
「デルムント。お前は誰だ」
「リンカ」
デルムントとリンカはお互いに同じ感覚のにおいがした。
「時空旅行者か」
「いいえ、時空怪盗よ。時空怪盗リンカ。覚えておいて」
くすっと笑うと、リンカはかき消えた。
「うーん、何?誰?」
若い女性が目を覚ました。デルムントは躊躇したが、逃げずにとどまった。
「こんばんは。すみません。腕輪に用があって参りました」
「腕輪?」
「これのかたわれをあなたが持ってらっしゃるので」
そう言って、デルムントは左手の腕輪を彼女に見せた。
「まあ!ペアの腕輪、あなたが持っていたの?」
「はい。実はこの腕輪に頼まれて探していたのです」
「そういうことなら……」
寝巻き姿のまま起き出して、彼女が木箱に手を伸ばした。
蓋を開けると、
「あっ!なくなってる!」
「なんだって?」
2人は空っぽの木箱を穴が開くほど見つめた。
「さっき、時空怪盗を名乗る女がこれに触れていました。きっとその時抜き取ったのでしょう」
「その人は?」
「逃げられました」
苦虫を噛み潰したような顔でデルムントは言った。
「……腕輪に用があったのなら、またその人、あなたの前に現れるかもしれないですね」
「と言うと?」
「ペアで揃ってこそ欲しいものだからです」
「では、揃いで入手したあかつきにはあなたに献上いたしましょう」
「あなたのお名前は?」
「デルムント」
「私はみちる」
「では、みちる。しばしお待ちください」
デルムントはリンカの転移先への軌跡を辿って時空を超えた。