第二章☆形見分け
男性のお葬式の日。
親族に形見分けが行われた。
それぞれ男性が生前使っていたものなどを貰い受け、故人を悼んだ。
男性の姪にあたる少女が、青い花の意匠に惹かれて、腕輪を貰い受けた。
少女の細い腕には大きすぎたが、少女は木箱をときどき開けて、腕輪をめでた。
「彼女に頼んで返してもらってもいいが、この先、どんなことがあったか知りたくはないか?」
デルムントがそう呟くと、左手の腕輪は思案げな光を放ち、戸惑っている様子だった。
「少し時間を先に進めよう」
少女は成長して成人になり、結婚して子どもが2人生まれた。
どちらも腕輪の存在は知っていたが欲しがらなかった。
やがて、少女の孫が生まれ、少女が亡くなると、その孫が腕輪の持ち主になった。
孫は金遣いが荒く、腕輪を質屋に入れていくばくかの金銭に変えた。
腕輪は質流れ品として、百貨店の最上階で売りに出された。
「これ、木箱にはもう一つ腕輪が入ってた形跡があるけど、片方だけなの?」
若い女性が尋ねた。
彼女も青い花の意匠が気に入ったらしかった。
「そのぶんお安くしときますよ」
その若い女性が次の持ち主になった。
「ずいぶん、短い期間に転々としたんだなぁ」
デルムントは帽子をとると、頭をかいた。
左手の腕輪は、かたわれの腕輪が辿った軌跡を反芻するように何度も思った。
「この先も見るかい?それとも時空の狭間から手を伸ばしてこの時点でまた一緒になってもいいけれど」
最後まで見届けて、それから迎えに行きたい。
「了解」
デルムントは帽子を被り直した。