第一章☆春の雨
彼はため息をつくと、ベッドから起き上がって台の引き出しを引っ張り出した。
中に木箱があって、それを取り出し、蓋を開ける。
中には緑のビロードが張ってあって、窪みが2つ。片方は空っぽ。もう片方に腕輪が収まっていた。
幅広いそれは、男性向けの腕輪で、思い入れのあるものだった。
「失礼します」
看護師が彼の病室に来た。
「安静にされてください。お体に障ります」
言われた彼は、木箱の蓋を閉めて引き出しに戻し、ベッドに横になった。
白いシーツのかかった毛布を看護師が彼にかけてくれた。
「外は雨かな?」
「ええ」
閉め切った窓に微かな雨音が響いている。
彼は目をつむった。
白い燕尾服姿の男が、彼の枕元に立った。デルムントだ。
「彼は病気で、会いたくても会えなかったみたいだね」
左手首の腕輪が物悲しくひかった。
なぜ連絡をくれないのかと、ずっと待ち侘びていました。
こういうわけだったのですね。
私は、いろんな憶測で嘆いたり、怒ったりしていました。
幻の女性が彼と一緒にいる夢を見て泣いたりしていました。
デルムントは時空を超えて、腕輪の持ち主の男性の人生を見送った。
「かわいそうに。若くして亡くなったんだな」
彼の腕輪は?どこへ行ったのでしょうか?
「そうだね」
デルムントはもう片方の腕輪の行方を探す旅に出た。