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2:騎士団長と二番隊長

 その時、応接間の扉がノックされ、こちらの返事を待たずに開かれた。

 続けて二人の青年が入ってくる。彼らを見て、ヴィゼットが腰を上げた。


「ようやく来たか……紹介しよう。騎士団長のガルウィス・レダルインと、二番隊長のサイファ・ウィルエットだ」


 ヴィゼットの紹介で、二人の青年がレシリスに目礼する。


「レシリス・ブラインです。よろしくお願いします」


 レシリスが再び立ち上がって一礼すると、サイファと呼ばれた金髪碧眼の青年が柔和な笑顔で頷いた。

 髪が長ければ美女と見紛ってしまうほどの麗しい顔立ちだ。


「こちらこそよろしく」


 二番隊の隊長と言っていたが、醸す雰囲気に威厳などは見当たらない。女性的な顔と落ち着いた物腰から剣を振るう姿が想像できず、レシリスは思わず彼の顔をまじまじと見つめてしまう。


「ん? 僕の顔に何かついてる?」


 彼女の眼差しに、サイファは僅かに首を傾げる。彼女は慌てて首を横に振った。


「い、いえ……」

「サイファはこう見えて、俺よりも剣の腕が立つ。見た目からは想像できないだろうがな」


 レシリスの心情を悟ったヴィゼットが苦笑しながら言うと、サイファは唇を尖らせた。


「見た目は関係ないだろう?」

「はは、そうだな」


 悪びれなく肩を竦めるヴィゼットをひと睨みして、サイファは改めてレシリスに視線を向けた。


「此処の仕事は大変だと思うけど、頑張ってね」

「はいっ!」


 笑顔で頷いて、レシリスは騎士団長と呼ばれた青年へ視線を移した。


 銀色の髪と緋色の瞳を有した彼は、まるで作りもののように整った面立ちをしている。

 ヴィゼットと同じくらいの年齢だろうか。団長というには随分若い気もするが、醸す雰囲気は重厚な威厳を確かに感じさせ、妙に納得してしまう。


 そして、その瞳は切れ味鋭い刃を思わせる冷淡さを孕んでいて、レシリスは本能的な畏怖を覚えた。

 だがそれは、故郷にいた柄の悪い男たちに対する嫌悪とは、全く違った感覚だ。


「おそらくディアが厳しく接するだろうが、めげずに仕事を続けてくれると助かる」


 ガルウィスは淡々とした口調でそう告げるが、知らぬ名が出た事にレシリスは目を瞬いた。


「ディア?」

「一番隊の隊長だよ。ディアレスっていうんだけど、今は町の見回りで出てしまっているから、後で紹介するね」


 サイファが横から答えると、ヴィゼットが妙に深刻な表情で引き継いだ。


「ディアレスは決して悪い奴じゃない。だが、自分にも他人にも厳しすぎる所があってね……前の使用人も、ディアレスの厳しさに耐え切れず辞めてしまったんだ」

「そうなんですか……」

「でも、レシリスは大丈夫そうだね」


 笑顔でそう言ったサイファを、レシリスは虚を衝かれたような顔で振り返る


「どうしてですか?」

「ん? 僕の勘だよ」


 満面の笑みでそう答えられてしまうと、言い返す事ができない。


「そうですか……」


 腑に落ちないながらもそう頷くと、ヴィゼットが再び話を始めた。


「此処に滞在しているのは、一番隊十人、二番隊十五人、三番隊二十人と、十五人の見習い騎士、それから各隊長三人と総団長、そして君の計六十五人だ。この人数分の食事や掃除、洗濯をこなすのは大変だと思うが、見習い騎士達もいるし、他の騎士にも協力させる。何かあれば遠慮なく声を掛けてくれ」


 さらりと騎士の数を言われ、レシリスは混乱しながらも、とにかく全部で六十五人だという事だけ理解する。


「解りました」

「あと、注意してほしい事がある」


 不意にガルウィスがそう切り出した。レシリスは僅かに首を傾げる。

 

「《紅》の連中に、お前が此処で働いている人間であると知られたら、狙われる可能性がある。外へ出る際は、常に気を付けてほしい。できるなら、一人で出歩くのは避けるようにしてくれ」

「私が狙われる?」


 意外な話に、レシリスが目を瞠る。すると、サイファが唇をへの字に曲げて肩を竦めた。


「無力そうな女の子だからね。奴等からしてみれば、簡単に捕えられて見せしめに拷問するにはうってつけの標的って事だよ」


 そんな危険が付き纏う仕事だとは流石に思っていなかったが、しかしレシリスは自信に満ちた顔で唇を吊り上げた。


「自分の身は自分で護ります。だからご心配なく」


 言いながら、腰に挿していた剣に手を当てる。


 治安の悪い村で生まれ育ったレシリスは、幼い頃から自分の身を自分で護れるようにと父に剣術を教え込まれたのだ。

 父の英才教育の甲斐あって、故郷では男にも負けた事がなく、彼女も己の剣術には自信を持っていた。


 だが、それを知らないサイファは苦々しい笑みを浮かべる。


「女の子で太刀打ちできるような相手じゃないよ。もしそうだったら、《白》なんて結成されてないだろうし」


 少々見下されたようなその発言に、レシリスは思わずむっと眉を寄せた。

 確かに自分は女で、サイファは王立騎士団の二番隊長かもしれないが、手合わせした事もないのに腕前を否定されるのは気分が悪い。


 しかし彼女が反論するより前に、ガルウィスが彼女の持つ剣に目を留めた。


「……お前の剣、魔剣だな」


 そう問われてレシリスは僅かに目を瞠った。


 魔剣とは文字通り、魔力を秘めた剣の事だ。

 凄まじい力を発揮するが、剣が主を選ぶため誰でもが持てるような代物ではない。

 力の弱い者では鞘から抜けず、抜けたとしても魔剣に宿る魔力に身体を乗っ取られ、自我を失ったまま周りの人間を傷つけてしまうといわれている。


「よく解りましたね」


 一目見ただけで彼女の剣を魔剣と見抜けるという事は、彼もまた魔剣の使い手なのだろうか。

 今は帯剣していないようだが、王立騎士団の総団長ともなれば魔剣が扱えたとしても不思議はない。


 レシリスがそんな風に思いながら彼の緋色の瞳を見る。彼は彼女の魔剣を見つめたまま、静かに続けた。


「とても強い剣だな。それを本当に扱えるとしたら、自分の身を自分で護れるというのは強ち過信ではなく、此処の騎士と比べてもトップクラスの実力といえるだろう」


 その言葉に、サイファとヴィゼットが顔を見合わせた。

 それから無言でレシリスの剣へ視線を移す。そんな彼らを尻目に、ガルウィスは淡々と言葉を紡ぐ。


「……とはいえ、お前に剣の腕は求めない。此処でお前に必要とされる仕事は騎士の世話だ。剣を抜くのは、自分の命が危険に晒された時だけで良い」

「解りました」


 元々仕事内容が家事であると認識していたレシリスは、納得して首肯する。


「お前達も、女相手に手合わせを願い出るなんて事はないようにな」

「は、はい」


 サイファが言葉を詰まらせて頷く。どうやら申し出ようとしようと思っていたらしい。


「……私からの話は以上だ。ヴィゼ、サイ、後は頼むぞ」


 そう言い置いて、彼は踵を返した。そのまま部屋を出て行く。


 それから一拍置いて、ヴィゼットはサイファに目を向けた。


「俺はこの後見回りがある。サイファ、彼女の案内を頼む」

「解った……じゃあ、行こうか。まずは部屋に案内するよ」


 快くそれを受け入れて頷くと、サイファはレシリスを伴って部屋を出た。


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