表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/26

21:魔剣の戦い

 一方、サイファに後押しされたレシリスが教会の前まで来ると、探していた人物の後姿が見えてほっと息を吐いた。


 しかし安堵したのも束の間、レシリスは引き攣った声を上げる。


「ディアレスさん! 後ろっ!」


 彼の背後から、大剣を振り翳した男が襲い掛かろうとしていたのだ。

 レシリスの声に振り返ったディアレスは瞬時に剣を抜き、その大剣を受け止める。


「っ! 背後から襲うとは、腕に自信がない証拠か?」


 ディアレスが目を細めて相手を睨む。

 襲い掛かった大柄な男は忌々しげに吐き捨てた。


「貴様等に払う敬意を持ち合わせていないだけだ!」


 男はディアレスの剣の三倍はあろうかという大剣を軽々と払い、間合いを取るとレシリスを一瞥した。


「裏切り者の女が余計な邪魔を……」


 それを聞き取ったディアレスは、強い口調で言い放った。


「レシリスは《白》の人間だ。お前達の仲間であった事などない。裏切り者などと勝手な言い掛かりをつけるのはやめろ」


 その言葉に、男は突如地を蹴った。勢いよく大剣を振り被り、ディアレスに斬り掛かる。

 彼は再びそれを受け止めるが、同時に、彼の背後から別の男が飛び掛かって来た。


「っ!」


 不意を衝かれて目を瞠るディアレスの首目掛けて、容赦なく剣が振り下ろされる。


「危ないっ!」


 レシリスは考えるより先に動いていた。

 一瞬で剣を抜き、大きく跳躍して剣とディアレスの間に滑り込む。


 剣同士が激しくぶつかる音が響き、かなりの衝撃がレシリスの手に伝わる。


 真正面から男の剣を受け止めても、レシリスの力では長く持たない。それを理解している彼女は、素早く全身の力で相手を押し戻した。


 その直後、ディアレスも男の剣を押し返し、レシリスと背中を合わせて敵と対峙する。


「……助かった」


 背中越しに呟くディアレスに、レシリスは小さく笑った。


「それは光栄です」

「其方は任せるぞ」

「はい!」


 短い会話を交わしつつ、レシリスは相手を観察する。


 二人の男は、昨日襲ってきた四人の男とはまた別の人物だった。

 だが間違いなく、この二人も同じ過激派だろう。

そして、昨日の四人よりも遥かに優れた剣の使い手であるという事は、今のやり取りで充分に判った。


 長い金髪を首の後ろで束ねているその青年は、切れ長の青の瞳を剣呑に細めてレシリスを睨んだ。


「女に剣を受け止められるとはな……」


 彼は今一度間合いを測り、剣を構え直す。


「女だと思って油断していると、痛い目を見るわよ」


 レシリスもゆらりと剣を構えた。


「どうかな?」


 青年は不敵に笑いながら、剣の切っ先をレシリスへ向けた。挑発的なその行為に、レシリスは苛立たしげに眉を寄せた。


 その、次の瞬間。


「《焔蛇(えんだ)》」


 青年が唱えるように呟いた。直後、その剣が突然真っ赤な炎を上げて燃え上がった。


「魔剣か」


 横目でそれを見たディアレスが呟く。レシリスは剣を握り直し、炎に包まれた剣に驚きながらも唇を吊り上げた。


「なら、手加減はいらないわね」


 彼女のその反応に、青年が剣呑に目を細める。


「テメェ……!」


 振り上げられた剣が一層強く燃え上がる。噴き出した無数の炎が、まるで生きた蛇のようにうねりながらレシリスに襲い掛かっていく。


 しかし、それを目の当たりにしてもレシリスは冷静な表情を崩さず、己の剣を頭上に掲げた。


「《光綺(こうき)》!」


 刹那、レシリスの剣が眩い光を放った。

 その光が、炎の蛇をことごとく切り裂いていく。


「なっ……!」


 炎の蛇全てが消失し、青年が絶句する。

 彼女の剣の威力に、ディアレスと対峙していた大柄な男も愕然としていた。


「くそっ!」


 青年は吐き捨てながら剣を大きく振り上げた。


「《焔蛇》!」


 再び叫んで、今度は地面に突き立てる。

 その瞬間、その場所から真っ赤な炎が噴き出し、地面を走った。灼熱の炎が壁となってレシリスとディアレスの二人だけを取り囲み、風を受けて大きく燃え上がる。


「……熱っ」


 レシリスが目を細める。炎を鎮めなければ、このままでは二人共丸焼きになってしまう。

 しかし、打開策を思案する彼女の耳に、別の声が響いた。


「《雷豪(らいごう)》!」


 大柄な男の怒号だ。同時に彼の大剣から稲妻が迸り、炎の壁を覆うようにしてばちばちと爆ぜる。

 これでは、魔剣で炎を切って飛び越えようとしても感電してしまうだろう。


「しまった……!」


 ディアレスが歯噛みする。


「そのまま焼かれ死ね!」


 炎の向こうで、青年が笑う。

 その姿が見えなくなるほど、炎の壁は高く燃え上がっていく。レシリスは唇を噛み締めた。


 どうすれば、二人共助かるだろう。

 熱風に煽られながら必死に考えを巡らせる。と、背中越しのディアレスが僅かに動いた。


「レシリス、お前の魔剣の属性は光だな?」


 ディアレスが炎と雷の壁を睨みながら問う。レシリスも敵に注意を向けたまま頷いた。


「はい」

「なら、俺が炎を消す。その瞬間、二人に攻撃を放てるか?」

「やります」


 自信を持って答えたレシリスに、ディアレスは唇を吊り上げた。


「よし、行くぞ」

「はいっ!」


 ディアレスは剣を大きく横一文字に振り払う。


「《蒼影(そうえい)》!」


 彼が唱えた刹那、彼の剣から蒼い何かが勢い良く飛び出し、炎の壁を雷諸共包み込んだ。

 音を立てて炎が消え、ばちばちと火花を散らす雷も次第に勢いをなくしていく。


 レシリスは、炎の向こうにいるはずの男二人の気配を探した。殺気を放つ二人の位置を特定する事は、さほど難しくない。


 そして炎の壁が消える直前、レシリスが剣を掲げた。

 その時だった。


「死ねぇ!」


 レシリスの剣が光を放つ直前、消えた炎の陰から、青年が飛び出した。

 炎を纏った剣を、レシリス目掛けて突き出す。


「っ!」


 二人目掛けて攻撃を放つために剣を頭上に掲げていたレシリスは、それに対応できなかった。


 目の前に、炎の剣が迫る。

 レシリスは死を覚悟した。


 しかし、炎の剣がレシリスに届く刹那、彼女は何かに突き飛ばされた。


「きゃ……!」


 小さな悲鳴が口から漏れ、同時に地面に倒れ込む。


 何が起きたのか解らなかった。

 倒れた衝撃で剣を取り落とし、からんと音を立てた。

 咄嗟に一瞬前まで自分が立っていた場所を振り返る。


 そして、絶句した。


「……っ!」


 言葉にならない。声が、喉に絡まって、息が詰まった。

 目を見開いて、愕然とその光景を見つめる。


「自分から飛び込んでくるとはな……」


 青年が勝ち誇ったように笑う。


 彼の剣が貫いていたのは、ディアレスだった。


もしよろしければ、ページ下部のクリック評価や、ブックマーク追加、いいねで応援頂けると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ