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第42話 はい、はーい。私、お寿司が良い!

 次の日の朝。俺はパジャマを脱ぎ、無地の白いTシャツに黒のジャケットを着て、カーキのスラックスを履くと、家を出た。


 恋人の親に初めて顔を合わせる時……こんな服装で合っているかなんて分からない。だけど昨日、こんな感じで行くけど? と、星恵ちゃんに確認はしたから、きっと大丈夫だと思う。


 ──俺は電車に乗り、隣町で降りる。星恵ちゃんの家までは覚えていないので迎えに来て貰うことになっていた。


 駅を出ると、俺を見つけた星恵ちゃんが手を振りながら駆け寄ってくる。その後ろには星恵ちゃんのお母さんとお父さん? らしき男性が居る。


 40代後半だと思うけど、まだ髪は黒々としていて、短髪をオールバックにしている。キリッと引き締まった顔に眼鏡をしていて、ちょっと怖いけど、仕事が出来そうでカッコいい。


 俺に合わせてくれたのか、服装は三人ともカジュアルで、上は襟付きのカーディガン、下はスラックスを履いている。


「お待たせ」と星恵ちゃんは立ち止まり、横を向くと、両親に向かって手を差し「あれがお父さん」


「分かった」


 第一印象が大事だ……俺はドキドキしながらもゆっくり、星恵さんのお父さんとお母さんに近づき、立ち止まる。


 お辞儀をすると「初めまして、星恵さんとお付き合いさせて頂いている井上 光輝です。本日は宜しくお願い致します」と、挨拶をした。


 星恵さんのお父さんは、さすが社会人と思わす綺麗なお辞儀をして「初めまして、星恵の父。隆之たかゆきです。宜しくお願いいたします」と、渋い声で挨拶をしてくれた。


 俺がお辞儀を返すと、星恵ちゃんのお母さんがクスッと笑う。


「もう……二人とも硬いわよ。リラックス、リラックス」と、星恵ちゃんのお母さんは言って「光輝君。今日は家族の様に接してくれて構わないからね」と言ってくれた。


「あ、ありがとうございます」


「さて……挨拶はこれぐらいにして、何を食べる?」と星恵ちゃんのお母さんが言うと、星恵ちゃんは元気よく手を挙げる。


「はい、はーい。私、お寿司が良い!」


 お寿司か……お寿司は好きだけど……かっぱ巻きあるかな?


「あ、もちろん回転寿司の方ね!」


「はいはい、分かりましたよ。光輝君はそれで良いかしら?」と星恵ちゃんのお母さんが、聞いてくれる。俺は「はい、大丈夫です」


「じゃあ行こうか」


 星恵ちゃんのお父さんはそう言って歩き出す。俺達も後に続いた──。


 車は白のミニバンで星恵ちゃんのお父さんが運転席、お母さんが助手席、俺達は後ろに座る。


 俺がシートベルトをすると、星恵ちゃんのお父さんは「出発するけど良いか?」と声を掛けてくれる。俺達が返事をすると、車が動き出した。


「──ここら辺も随分、変わったな。あんな店、あったか?」

「無かったわよ」


「やっぱり、そうか」と、星恵さんのお父さんとお母さんは会話を始める。


 俺はそんな二人の会話を聞きながら、グゥー……とお腹を鳴らした。は、恥ずかしい……。


 それが聞こえたのか、星恵ちゃんは「お寿司、楽しみだね」と話しかけてくる。


「う、うん」

「いま行こうとしている御寿司屋さん、安いけど美味しんだよ」

「へぇ、そうなんだ」

「何を食べようかな~」


 ※※※


 15分ぐらいして、特にあれこれ聞かれる事もなく、御寿司屋さんに到着する──お寿司屋さんに入ると、星恵ちゃんは「光輝君が奥で良いよ」と言ってくれた。


「ありがとう」


 星恵ちゃんが俺の隣に、星恵ちゃんのお父さんは俺の正面。そして星恵ちゃんのお母さんは星恵ちゃんの正面に座る。


「お父さん、タッチパネルを取ってください」

「あぁ」


 星恵ちゃんのお母さんはタッチパネルを受け取ると、俺に差し出す。


「はい、どうぞ。好きな物を頼んでください」

「え、俺が先で良いんですか?」

「えぇ」

「じゃあ……」


 何だかカラオケ屋で一番手を任された気分だ。さて、何にしようか?


「サーモンにしようかな……」と俺が口にすると、星恵ちゃんがグッと俺に体を近づけ「あー、良いね。私のも頼んでよ」


「うん、分かった」

「じゃあ、私もお願いできるかしら?」

「あ、はい」

「じゃあ俺のもお願いできるかい?」

「はい、大丈夫です」


 俺が4つサーモンを頼むと、星恵ちゃんのお父さんは「光輝君、ビールは大丈夫かい?」と聞いてくる。


 星恵ちゃんと星恵ちゃんのお母さんは、何か言いたげにお父さんの顔を黙って見つめる。


「ちょっと、お父さん。二人はまだ19歳ですよ」

「あ……」

「もうお父さん、しっかりしてよ。恥ずかしいな」

「悪い悪い」


 お父さんはそう言って、恥ずかしそうに頬を掻く。


「じゃあ、好きなのを頼んでくれ」

「はい」


 ──何だか、御挨拶というより、本当に家族と一緒に寿司屋に来たって感じだ。きっと星恵ちゃんのお父さんも、お母さんも、俺達と似たような年齢の人と働く事があって、慣れているんだろうな。そのおかげで俺は、落ち着いて御寿司を堪能できた。

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