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第37話 同棲してるカップルみたいよね

 今日の授業が終わり、俺は急いでアパートに帰る。飯田さんには汚いと言ったけど、実家から持って来た物は少ないなので、割とスッキリしていた。


 それでも洗濯物をクローゼットにしまったりと、気になる所は片付けて──あとは買って来た消臭スプレーを振り撒いておく。


「思ったより早く終わったな」

 

 俺はズボンから携帯を取り出すと時間を確認する。まだ約束した時間よりも早いけど、メールを入れてから外に出た──。


 待ち合わせ場所に着くと、既に飯田さんは来ていた。飯田さんも俺に気づいた様で、近づきながら「片付けはバッチリですか?」と声を掛けてくる。


「多分」

「ふふ、じゃあ行こう」


 俺達は並んで歩き出す──。


「結構いい時間だけど、夕飯どうしようか?」と俺が聞くと、飯田さんは「そうね……時間が勿体ないから、コンビニでも寄ってから行こうか?」


「そうだね」


 ──俺達はアパートの近くにあるコンビニに寄ってからアパートに向かう。


「ちょっと待って。カギを開けるから」と、俺は飯田さんに声を掛け、アパートの鍵を開けるとドアを開く。


「どうぞ」

「ありがとう」


 飯田さんは玄関でスニーカーを脱ぐと「お邪魔します」と中へ入る。奥に進むと「──へぇ……汚いって言ってたから、どんなかな? って思っていたけど、全然、綺麗じゃない」


「そう? ありがとう。そこのクッション、適当に使って」

「ありがとう」


 飯田さんは御礼を言って、ハンドバッグを床に置くと白いクッションの上に座る。俺はテーブルを挟んで向かい側に座った。


「先に夕飯にする?」と、飯田さんが聞いてくるんで「そうだね。先に食べようか」と答える。


「じゃあ、どんどん袋から出していっちゃうね」

「うん、お願いします」


 ──飯田さんが弁当を出し、俺が蓋を開けていると、飯田さんは缶ジュース? を持ちながら手を止めた。


「お酒どうする?」

「え!? 買ってきたの!?」

「うん、せっかくだからと思って……」

「いやぁ……勉強にならないから、後の方が良いでしょ?」

「そう。じゃあ光輝君は後にして……私は先に飲む」


 飯田さんはそう言って、持っていた缶チューハイをテーブルの上に乗せる。俺は大丈夫かな? と、心配しながら、ペットボトルのお茶の蓋を開けた。


「じゃあ、食べましょうかね」

「うん。頂きます」

「頂きます」


 俺達は手を合わせてから食べ始める──。


「なんかこうやって二人で食べてるとさぁ……」

「ん?」

「同棲してるカップルみたいよね」

「ゴフッ!!」

「だ、大丈夫!?」


 いきなり飯田さんが変な事を言い出すので、俺は口に含んでいたご飯を喉に詰まらせる。飯田さんは慌てた様子で、お茶が入ったペットボトルの蓋を開け、俺に差し出してくれた。


 俺は受け取り、お茶を飲むと「──ありがとう」とお礼を言う。飯田さんはニヤニヤしながら、「なに動揺してちゃってるのかな~。冗談だよ?」

「分かってるよ」


 ──そこからちょっと気まずい空気? が流れ、俺達は黙って食事を続ける。考えたら……これって浮気にはならないよな? 飯田さんの一言で、星恵ちゃんの顔が浮かぶ。


 別に飯田さんに恋愛感情なんてないし、やましい事なんて何もしてないんだから、大丈夫だよな、うん。


 ──俺達は食べ終わると、ゴミを片付け、テーブルの上に教科書を置いていく。


「えっと……確か34ページからだよな」

「うん、そう」

「小テストだし、そんなに範囲、広くないからパパっと終わらせちゃいますか」

「そうね」


 ──俺達は黙々と勉強を続ける。真剣にやっているのは良いけど……お互い質問し合う訳でもないのに二人で居る必要あるのか?

 

 そう思っていると、テーブルの上に置いていた俺の携帯から着信音が鳴る──着信画面で星恵ちゃんだと確認すると、携帯を手に取って立ち上がった。


 彼女からの電話を聞かれるのは恥ずかしいな。俺は窓際に移動し、飯田さんに背を向けながら「はい」と電話に出た。


「あ、光輝君? いま大丈夫?」

「大丈夫だよ、どうしたの?」

「いやぁ……ただ急に声が聞きたくなって電話しちゃった。何していたの?」

「勉強だよ。明日、小テストがあるんだ」

「一人で?」


 いや、と答えようとした時、急に飯田さんは「ねぇ、光輝君! ここが分からないから教えてよぉ~」と、大声で話しかけてくる。


 俺は「ちょっと待って」と、星恵ちゃんに伝え、携帯から顔を離すと、飯田さんに向かって「いま電話中!」と答えた。


 もう一度、携帯に顔を近づけると星恵ちゃんに「あ、ごめん。一人ではないよ」


「うん……ちょこっと聞こえた……女の人が居るんだね」


 俺は嘘をつく必要はないと思い、正直に「うん。居るけど、友達だよ」


「そう……じゃあ、お邪魔みたいだし電話切るね」

「え、別に大丈夫だよ?」

「うぅん、勉強の邪魔したくないの。それじゃ……また」


 星恵ちゃんは悲しげな声でそう言って、電話を切ってしまった。俺はイライラした気持ちを残したまま通話を切り、後ろを振り向く。


「星恵ちゃんって彼女?」


「あぁ! そうだよ!」と俺は返事をして「あのさ、電話中って分かってたよね!?」と、飯田さんに話しかけながらクッションに座った。


 飯田さんは何故か立ち上がり──俺の横に座ると「分かってたよ。分かっていたから寂しかったんだよぉ」


 ──友達と話している時に、別の人がやってきて、急に楽しそうに話し始める。そんな寂しさの事を言っているのだろうか? だったら気持ちは分かる。分かるけど──。


「だからって……邪魔しないでくれよ……」

「ごめんなさい」


 そこで会話が途切れる。俺はシャーペンを手に取り、勉強の続きを始めた──数分経っても、飯田さんは動こうとしない。いつまで俺の横にいるつもりなんだろ?


 ──突然、フワァっと香水の匂いがしたと思うと、飯田さんはお互いのホッペが当たりそうなぐらいグイっと顔を近づける。体は密着していて、明らかに飯田さんの胸が俺の背中に当たっていた。


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