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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百五十一話 戦いはもう始まっている(5/?)

 他がどうなってるのはよく知らないけど、少なくともバニーズのファン感謝祭は、基本的におちゃらけたイベントが半分以上を占めてる。


「はー……脱サラしてアイドル事務所始めたんはええけど、全然ええ子見つからんわ。どっかにダイヤの原石はおらんもんか……このままやと事務所の賃料も払えんくなるで」

「社長!ええ子スカウトしてきたっすよ!」


 大阪の球団ということで、今度はすみちゃん発案の某新喜劇的な出し物。わざわざすみちゃん本人が社長役を買って出て、部下の人役は朱美(あけみ)ちゃん。どっちもしっかり男物のスーツを着てえらいノリノリ。


「お前、そんなこと言うてこの前犬拾ってきたやんけ。今度はちゃんと人なんやろうな?」

「人間っすよ!バッチリヒューマンっすよ!」

「んー、まぁええわ。で、そのスカウトした子ってどこおるんや?」

「おーい!入ってええで!」


「ちわーっす!」

「ど、どうも……」


「「「「「ぶっっっっっ!!!」」」」」


 会場中が思わず吹き出す。実に女の子女の子なアイドル衣装の風刃(かざと)くんと山口(やまぐち)さん。前にやった学園もの企画の再来。


「ぷふっ……お、お前……これ、男ちゃうんけ……?ぷぷぷ……」

「何言うてはるんすか社長!?こんな可愛い子捕まえて!」

「いや、そっちのおかっぱの子はともかく、金髪の子めっちゃガニ股やん……ぷぷぷ……」


 自分で企画したくせにツボに入りつつ、どうにか演技を続けるすみちゃん。

 山口さんはもちろんのこと、風刃くんも割と中性的な顔立ちだから、振る舞いはともかく見た目だけはちゃんと可愛く仕上がってるのがファンの人達の笑いを余計に誘ってる。


「しゃーないっすね……そんじゃもう1人、とっておきの子を紹介しますよ。カモン、ミセス千里(センリ)!」

「ごきげんよう!!!」


「「「「「ぶふぉっ!!?」」」」」


 出てきたのはまさかの常光(じょうこう)さん。それも上半身裸のエプロン姿。

 常光さんは今年手術のリハビリをようやく終えて、その間に身体を鍛えて球威を上げたことでシーズン終盤にはローテの一角に加わった。引き締まったマッチョボディに加えて、長身で無駄にハンサムな顔立ち。


「ッッッ〜!!!」


 そんな姿がすみちゃんのツボに思いっきり入ったみたいで、突っ伏して机をバンバン叩いて、もはや演技どころじゃない状態。


(((((菫子(すみれこ)たそってああいうキャラやったんか……?)))))


 常光さんのわざとらしく筋肉をアピールする仕草に合わせて朱美ちゃんもポーズを決める。朱美ちゃんは常光さんと比べるとスリムだけど、どっちも同じくらいの長身だからか妙にサマになってる。


「くひひっ……あ、アイドルってそういうのちゃうやろ……?ほんまはこういう感じやろ……?」

「ぽわぽわぽわぽわぽわ〜ん」


「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」


 すみちゃんが演じる社長さんの想像みたいな体で、アイドル衣装のあたしが登場。あえてやる気のない顔のままでもこの大歓声。さっきまでと違って、ただただ純粋にクッソ可愛いあたしの姿で会場中が沸き立つ。うんうん、こういうのでいいんだよこういうので。


「はぁ〜……社長ほんまワガママっすね……しゃーないっすね、もうこうなったら自分が一肌脱ぎますわ」


「「「「「!!?」」」」」


 スーツをビリビリに破いて、ヒラヒラのアイドル姿を披露する朱美ちゃん。よくその衣装の上からスーツ着れたね……


「!!?おった……おったやんけ!ダイヤの原石おったやんけ!」

「でしょ!?自分いけるっしょ!!?せっかくやから社長もどうっすか!?」

「え!?俺もか!!?」

「そうっすよ!今の時代、アイドルはグループ売りっすよ!デュオでガッポガッポ稼ぎましょう!」

「あ〜れ〜……」


 朱美ちゃんにわざとらしくスーツを脱がされて、すみちゃんもヒラヒラのアイドル衣装。だからどうやってその上からスーツを着たのかと。


「社長もいけてますやん!」

「……そうか。俺は何を迷ってたんや?せっかく脱サラしたのにプロデューサーで妥協して殻にこもって……ほんまにやりたかったんは俺自身がアイドルになることやったんちゃうんか?」

「そうっすよ社長!今からでも間に合いますよ!そこのちょうちょみたいな子を売り出していきましょう!」

「結局俺らちゃうんかい!もうええわ!」

「「「「「ありがとうございました〜!」」」」」


「「「「「ハハハハハ!!!」」」」」


 最後にあたし達キャストで揃って挨拶。ちゃんと目的通りウケを取って無事閉幕。


「はい!『三条(さんじょう)新喜劇』、お楽しみいただけましたでしょうか!?ではここからは他の選手達にも仮装して登場していただきまーす!」


 そして装いはそのままに、マイクを握って明るく司会進行に入るすみちゃん。


「いやぁ、菫子たそってあんなコントもやれるんやなぁ」

「モノホンのお嬢様やし、もっとお堅い子ってイメージやったんやけどな」

「何にしても万年最下位やったんをこうやって優勝できるようにしてくれたんやし、バニーズはほんまええオーナーに拾ってもらったもんやで」

「もうキャベツ焼きのおまけで試合観れんくなったけど、そんだけチケットがちゃんと捌けてるっちゅーことやんな」

「おっちゃんおばちゃんだらけのオーナーの中で別格に若いから今後数十年は安泰やな」


 すみちゃんは本当に何でもこなせる。選手としてもすごかったし、その時の経験を活かしてチームを運営したり、才能のある選手を発掘したり、あたしにアドバイスをくれたりもする。帝大生をやりながらオーナーの仕事もバリバリこなすいかにも"できる女"なのに、こんなふうにおちゃらけたイベントだって企画できる。

 でも、ふと考えてしまう。本当はすみちゃんは選手として終わってしまった悔しさを紛らわせるために、こういう自分を演じてるんじゃないかって。『最初から選手じゃなくオーナーになるべきだったんだ』って、あえてそんなふうに周りに思わせようとしてるような、そんな気さえもする。

 ……根が陰キャなあたしならではの考えすぎかもしれないけど。


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