第百五十一話 戦いはもう始まっている(1/?)
******視点:三条菫子******
11月14日。赤猫閑の引退の申し出があった次の日。
「入れ」
「失礼します」
私とお父様、久々の親子水入らず。去年の今頃も同じように呼び出しを食らったけど、勝手に優勝を宣言して予算を出すよう脅しをかけたあの時と違って、こちらには何の落ち度もない。
「まずはお父様にお詫び申し上げる必要がありますわね」
「……何をだ?」
「お父様が掲げた、『Aランクかつ首位とのゲーム差5以内』という最低目標が叶わなかったからですね。私達自身が優勝してしまったんですから、ゲーム差なんてそもそもありません」
「言ってくれる……」
でも、このくらいは言わせてもらう。こう言いたくて、去年から奔走しまくったんだから。
「だがよくやった。単純に戦績はもちろんのこと、売上や利益という点でも。月出里逢のみならず、風刃鋭利も先日、沢村賞に全会一致で初選出。そしてかねてよりレギュラー以外の選手の中ではグッズの売上が群を抜いていた秋崎佳子も台頭。人気と実力を兼ね備えた若手が次々と出てきたことで、球団の集客力も去年より確実に上がっている」
「ありがとうございます」
「今のバニーズなら"三条財閥"の広告塔として十分な価値がある。それはグループ全体が認めるところだ。役員に話を通す必要があるから確定ではないが、来年度の予算は今年以上……まぁ下回ることはないはずだ」
「光栄ですが、それは裏を返せば……」
「そうだ。その額は責任の重さを示すものでもある。今年結果を出した以上、私ももうバニーズを侮るようなことは言わん。来年度の目標は今年以上……つまり、『リーグ連覇と帝国一』。お前が言い出した"強いバニーズ"とやらを確固たるものにしてみせろ」
「もちろんでございます」
去年までが去年までだったし、おまけにリプの帝シリ連覇が途切れたことで、『バニーズの優勝はマグレ』って話が少なからず聞こえてくる現状だしね。私の目的のためにも、バニーズには帝シリに出るのが当たり前くらいになってもらわなきゃならないし。
「……それと、私が忠告する必要もないとは思うが、"あの球団"には気を付けることだな。金銭的に我々よりも圧倒的にできることが多い分、何をしてくるかわからん」
「ええ、私も同じ認識です」
……いわゆる弱小球団は最下位になったらしばらく最下位が続いても何もおかしくない。根本的に弱ければそうもなる。
いわゆる名門だって"優勝候補"と言われておきながらBクラスに低迷したりするけど、そういうのは大抵弱さが原因というより、世代交代が上手くいかなかったり、毎年の負担で主力選手が故障とか、のっぴきならない事情や強いからこそなことが原因だったりする。
『名門はむしろ、低迷した次の年が怖い』。ただの一般人でもある程度長くプロ野球ファンをやってれば、そういう感覚はあるはず。
それに、『例のアレ』の件もあるしね。私達は導入してなくても、油断は全くできない。
優勝パレードやファン感謝祭、内部だと契約更改とか、今年度中に行うべきことはまだ残ってるけど、来年度に向けての戦いはもう始まっている。
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