第百五十話 ひねくれ者の意思を継ぐのは(6/6)
******視点:卯花優輝******
「『良かった』……とは違うよね」
「だね。どっちみち閑さんには辛い選択だったし」
おれの部屋に帰って、逢と2人で遅めの昼食を摂りながら話。人気者の逢はこの後も仕事が待ってる。それまでの間を惜しむように。
……"例外"。逢や赤猫さんだけじゃなく、きっとおれもそういうのになりたいんだと思う。『億稼ぐ美人の連れだから身体のことでしか役に立てない』みたいなふうには絶対に思われたくないって、必死になってるとこがあるんだと思う。
逢はあんまり自分を語らないけど、どんな道を辿って、そう思い至るようになったのか。どうやって今の逢になれたのか。愛し合う人間として知りたい気持ちは当然ある。でも相当辛い思いをしてきたのは想像できる。古傷を抉るような真似はしたくない。
「優輝」
「ん?」
「あたし、決めた」
「何を?」
「来年、"4割打者"になる」
「……!低めも打てるようになって、猪戸くんよりホームラン打つんじゃなかったっけ?」
「それは優先度下げる」
「赤猫さんのこと?やっぱり……」
「うん」
「逢は優しいね」
「そんなのじゃないよ。単に意地だよ」
「意地……?」
「今の世の中って、ちょっと検索するだけで何でも調べられて、他人の意見とか価値観とかも知りやすくなったけど、逆にそのせいで、人はみんな『諦めやすくなった』よね?自分が世の中でどれくらいなのかがわかりやすくなりすぎて。容姿だったり、生まれた時代だったり場所だったり、そんな生まれた時点で決まってることと前例を照らし合わせて、すぐに結論を出して。『コイツはこんなふうに生まれたからこんなふうにしか生きられないに違いない』とか、『今の時代に生まれた人間が4割なんて打てるわけがない』とか、『どうせ日本はもう終わる』とか。周りは何でもかんでも知ったような口ぶりで諦めを促すばかり。『自分の限界は他人の限界と同じ』と思い込むことでなけなしのプライドを保って」
「…………」
「そんなの、クッソだせぇし、クッソつまんねぇよね。何で"例外"になっちゃいけねぇんだって。何で『誰だって頑張れば救われる』って思っちゃいけねぇんだって。何でせっかく生きてるのにそんな『型』に嵌りたがるのか、何で『可能性』を潰したがるのか、あたしにはわかんないよ」
「赤猫さん関係の書き込み、結構酷かったしね。バニーズファンも基本的に無理って考えだし。だから否定したいの?『4割なんて打てっこない』ってのを」
「そうすれば、『閑さんは出来もしないことを掲げたまま終わったバカ』って決めつけを全否定できる。ごく短い間でもあたしより打ったんだから、そのあたしが4割を打てば、閑さんにもそうすることができた『可能性』が生まれるよね?」
「逢は優しいね、やっぱり」
「……ひねくれてるだけだよ」
こんなふうに素直じゃないのも、おれの好きな逢。逢自身もそうだけど、他の誰の『可能性』も絶対に否定させない本物の"ヒーロー"。
それに……ひねくれ者の意思を継ぐのは、ひねくれ者がちょうど良いのかもね。




