第十六話 後に続く希望(7/7)
9回裏 紅5-5白 1アウト満塁
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右](残り投球回:1/3)
[控え]
夏樹神楽[左左]](残り投球回:1回2/3)
氷室篤斗[右右](残り投球回:0)
山口恵人[左左]](残り投球回:0)
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7二 ■■■■[右右]
8三 ■■■■[右右]
9捕 土生和真[右右]
投 カリウス[右右]
[降板]
三波水面[右右]
早乙女千代里[左左]
桜井鞠[右右]
相模畔[右左]
牛山克幸[右右]
花城綾香[左左]
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「こ、こんなことが……」
「こんなマグレ……こんなマグレ……!」
「流石は白組!バニーズの未来のスター軍団や!!」
「ワイは信じとったで!」
(すごい……!すごいぞ、白組!僕だって元からバニーズファンの端くれ。有川のついでとかではなく純粋に球団と僕の将来を考えて力を貸してたけど、ここまでやってくれるなんて想像以上だ……!)
呪詛を吐きながら妬む者、都合良く掌を返す者、最初から白組を信じてた者。これだけの人間がおれば思惑はいくらでもあるじゃろうが、現実はこの通り。
確かに白組メンバーそれぞれが最善を尽くしたからこそではあるじゃろうが、屋台骨が土壇場で機能したのは大きいのう。野手陣の中では現状、徳田が実力的に最も抜きん出ておるとは思うが、慢性的な長打力不足に悩んでる現状、4番の器たる天野もそれに劣らず魅力的じゃのう。
「……ッ!おい、良い加減立ち直れカリウス!」
「ドノミチコノ場面デ抑エラレルノハオ前ダケダ!」
「こんな場面、お前なら何度だって経験してきただろ!」
「……そうDANA。すまん……」
プライドの高いカリウスでも、マウンドに内野陣が来るのを拒む元気もないなら声をかけて当然じゃな。残りツーアウトでランナーを出してもバッテリーミスを起こしても負けな状況を作っておきながらプライドを優先など、どのみち許容できることではないがの。
「8番レフト、秋崎。背番号45」
(緊張する……でもみんなの足を引っ張るわけにはいかない!)
(ここからは今日打ててない8番9番。特にこの8番の巨乳はポップフライやボテゴロばかり。多分まだ木製バット慣れしてねぇNA。ならばフォーシームをストライクゾーンに入れられさえすれば……)
「うっ……!」
「ストライーク!」
(よし、何とかストライクに入れてくれた……!)
何とか切り替えられたの。流石に現状の秋崎ではカリウス相手だと……
「アウト!」
当てられはするかもしれんが、打つのはまず無理じゃろうな。
(ファーストファールフライ……首の皮一枚残ったNA。ラストワン……!)
……さて。この場面はあの小娘にとってお膳立てか、それとも晒し台か。何にしてもこの場面で打席に立つとは『持っとる』のう。何せアウトになればチーム全体が敗け、アウトにならなければチーム全体が勝つ。打者としての自分の勝敗がそっくりそのまま全体の勝敗に直結するんじゃからのう。打者にとってはある意味最大の誉であり、苦でもある。
それに……結果次第ではワシは大いに赤っ恥をかくことになるのう。
「フォッフォッフォッフォッ……!」
それはそれで望ましくもあるがの。
******視点:月出里逢******
「ツーアウトツーアウト!」
「あと1人だ!きばれよお前ら!!」
あのクソジジィとの喧嘩だったけど、まさかこんな場面に出くわすとはね。
「ごめん、逢ちゃん……あとはお願いね」
「逢ちゃん、大丈夫!落ち着いていこう!」
「データ上、逢ちゃんは後の方の打席ほど結果が良くなる傾向がありますからねぇ。カリウスは制球に優れるわけではないのですし、バッテリーミスの線もある。気持ちが逸らない限り十分チャンスはありますよぉ……でゅふふ」
「うんうん!出塁さえすればぼく達の勝ちなんだし、落ち着いていこう!」
「……はい」
『出塁さえすれば』……ね。本当のことだけど、その台詞はせめて天野さん以外が言って欲しかったな。
「月出里」
珍しいね、雨田(イキリ眼鏡)くんがあたしに話しかけてくるなんて。
「……勝ってきてくれ」
「ん」
だけど思ってた通り、あたしと一番似てるのは多分この人。天野さんに救われた当事者だからあたしほどじゃないにしても、どっちが正しいのかまだ迷ってるんだと思う。大人しくしておくか、本来目指すべきものか。どっちとも取れるお願いの仕方だったから、あたしもどっちとも取れる答えを返した。
(さぁて……監督とオーナーちゃんお気に入りの子がどれだけ持ってるか……)
「9番ショート、月出里。背番号52」
******視点:三条菫子******
私はこんな場面にあの子を送り出したいとは思ってたけど、こんなところを見たくもないなんて思ってた時期もあった。あの爺さんの気まぐれで、こんなに早く実現しちゃうなんてね。
だけどこの時、私でさえも、そしてきっとあの子すらも考えてもなかった。この打席が後の『奇跡』に繋がるなんてね。
そしてあの子は打席へ向かっていった。焦りは感じない。だけど、どこか決意を固めたようなそんな表情で、ロード・オブ・■ン■■■リ■■を歩んでいった。




