第百四十九話 残酷すぎる痛み(9/9)
「!!!これは……レフトの横……」
「「「「「ぎゃあああああ!!!」」」」」
「やめろ!やめてくれぇぇぇ!!!」
「捕ってくれぇぇぇ!!!」
「……落ちましたヒット!二塁ランナー一気にホームへ!」
「セェェェフ!!!」
「サヨナラ!!サヨナラァァァ!!!2-1!ペンギンズ、2021年帝国一決定!延長12回の裏、ツーアウトからベテランの一打で決めました!!何という幕切れ!!!」
「「「「「…………」」」」」
ホームでの帝国一決定に沸き立つペンギンズとそのファン。それに対して、ただただ呆然と立ち尽くすバニーズの面々。
あとワンナウトさえ取れていたら引き分け。明日勝って8戦目という線もまだあった。9回まで勝ち越しを許さず投げ続けた風刃に最低限報いることもできた。そして何より、負傷した赤猫に報いることもできた。
「う……ううっ……」
「ちくしょう……ちくしょう……!」
(今日は赤猫くんのために勝つつもりだったのに、こんなんじゃむしろ……)
ようやく目の前の現実に頭が追いついてきたのか、顔を覆ったり、その場で崩れ落ちるバニーズの選手達。
去年まで知らなかった、リーグ王者にしか味わえない悔しさ。勝つ理由は大いにあったのにその結果を出せなかった自分への怒り。後悔。おそらくそういった感情が次々と押し寄せてきているのだろう。
「あーあ、リプの連覇もこれで終わりかぁ……」
「これ他のリプの連中に絶対バカにされるやつやん……」
「閑たそが命懸けで今日に繋げてくれたのに、情けなすぎやろ……」
映し出される観客席。選手達の痛々しい姿で共に涙する者もいれば、呆れたように帰り支度をする者も。
……バニーズは『順位』という表面上の数字だけ見れば、今年突然強くなったように見えるが、実際はそうではないのだろう。負け続けてきた中でも少しずつ何かを積み重ねてきた結果。長く続いた暗黒時代も決して無駄ではなかったのだろう。だからああやって、若手もベテランもお互いに良い意味で競い合い、尊敬し合い、持ち味を生かし合える良いチームを構築することができたのだろう。
だが、今年のバニーズはそんな良いチーム『でしかなかった』からここで負けた。本当の意味で『情のために勝つ』のではなく、ただただ『情』だけに囚われてしまったからここで負けた。残酷な話だが、今日の試合を『赤猫のおかげ』ではなく『赤猫のせい』にしてしまったのは、紛れもなくバニーズ自身だ。




