第百四十九話 残酷すぎる痛み(6/?)
「詰まった!セカンド前進……」
「アウト!」
「セーフ!」
「しかしこの間に二塁ランナーは三塁へ!ワンナウト三塁!」
ランナーは進んだけど、最優先のアウト1つ。次は9番。欲張ってピッチャー引っ張ってくれたら攻めも守りも楽なんだけど……
「ペンギンズ、選手の交代をお知らせします。9番ピッチャー、■■に代わりまして……」
「ペンギンズ、ここで代打を投入です!」
ですよねー。
(風刃相手に意地を張って良いことはない。最悪まだあと1試合やらねばならん上でリリーフを消耗する必要があるし、ややこちらの方が圧されてる状況ではあるが、1戦目2戦目を考えると明日の山口相手に勝敗数イーブンで勝負というのも頂けない。なるべく今日の内に決めてしまいたい)
ま、ピッチャーのままだろうが代打だろうが……
「ストライク!バッターアウト!!」
「スイングアウト!最後は外のカーブ!!」
「「「「「ええぞええぞえいりーん!!!」」」」」
前に飛ばなきゃ同じってね。
「1番センター、小林。背番号9」
ツーアウトならランナーがどこにいようが、もう1個アウト取れば良いだけ。どうにか乗り切れそうだな。
「引っ張って強い当たり三遊間、ショートよく捕った!」
「「「「「おおおおおッッッ!!!」」」」」
(くそッ……!)
よし、これなら打球が速いのが逆に生きる。小林さんは脚速いけど右。宇井の肩なら……
(絶対にこの1点はやらないっす!)
え……?
「!?ショートバックホーム!!!」
「は……!?」
「キャッチャージャンプ!しかし捕れません!!」
「「「「「ほげぇぇぇぇぇ!!?」」」」」
「セーフ!」
「三塁ランナーホームイン!打った小林もこの間に二塁へ!1-1、バニーズ、最悪の形で同点に追いつかれてしまいました!」
「「「「「…………」」」」」
まじかよ……
「タイム!」
「ここで内野陣がマウンドへ集まります!」
「すみません!すみません!アウトカウントあと1つっての忘れてて……ほんとすみません!」
「しゃーないよ。そういうこともある」
宇井はいつもうっかりやなとこがあるけど、守備はむしろ堅実寄りで、捕れる範囲を確実にアウトにするタイプ。この1年で宇井も成長したけど、最初からこういうプレーをする奴じゃなかった。
「……俺もちょっと反応遅れてもうたわ。すまんな風刃くん。そもそも小林さんの打席の前にこうやって集まって方針固められてたら……」
「「「「「…………」」」」」
冬島さんの言う通りだな。おれもあとアウト1つだから、ランナーが三塁いても冬島さんならまず後逸しないからわざわざ集まることはないって考えだった。おれにも落ち度がないわけじゃない。
「と、とにかくあとアウト1つっすよ!今日みんな調子が良いんですし、あとはいつも通り冷静にやれたらまた勝ち越せますよ!」
「「「「「……!」」」」」
「それまではおれ、最後まで投げ切るつもりなんで!」
「『いつも通り』……」
「……そうだな。俺達、少し熱くなりすぎてたかもな。風刃、よく言ってくれた」
「ど、どうもっす……」
怪我の功名……かな?金剛さんがそう言ってくれたんなら、他の人達もそういう方向でプレーしてくれるはず。
「プレイ!」
ならまだやれないことはない……!
「打ち上げた!レフト前進……」
「アウト!」
「そのまま捕ってスリーアウトチェンジ!」
よし、乗り切った……!
「風刃くん、ナイピー」
「あざっす月出里さん!」
「……ごめんね」
「何がです?」
「風刃くんの言う通り『いつも通り』だったら、あんなみっともない先制にもなってなかったはずだし」
「もうゲッツーはないっすよね?」
「うん。次は場外まで持ってくよ」
「期待してますよ」
月出里さんだけじゃなく、他の人達も何だか憑き物が落ちたような感じ。
(いくら赤猫さんのためだからって、風刃さんに迷惑かけて負けたんじゃ意味ないっすよね)
(変にヒットだけは出まくってたのが余計にダメだったのかもしれないね。みんな『赤猫さんみたいに』って気持ちだったんだろうけど)
(タイミングは合ってるんですし、後続の打者もちゃんと打つんですから、変に自分で決めようなんて欲を出す必要なんかなかったんでしょうね……)
「伊達さん。ちょっとさっきマウンドで……」
「……!」
金剛さんが伊達さんにも話をしてくれたし、これならきっと大丈夫。おれも変に遠慮せず、もうちょっと早くに言っておけばなぁ。
まぁ良いや。この分ならきっと今日の試合は取れる。まだ帝国一のチャンスはある。




