第百四十九話 残酷すぎる痛み(5/?)
「5回の表、バニーズの攻撃。1番セカンド、徳田。背番号36」
「バニーズ、早くも打順は3巡目に入ります。この回の先頭バッターは今日1番に入っています徳田。ここまで2打数2安打と当たっております……引っ張って痛烈!ライト前!何と徳田、5回の時点で3安打猛打賞となりました!」
「ええぞかおりん!」
「この回こそ先制や!」
「2番センター、相模。背番号69」
「センター右……落ちましたヒット!これで相模も今日マルチヒット!そして一塁ランナー二塁蹴って一気に三塁へ!!」
「……セーフ!」
「バックサード、際どいタイミングですが判定はセーフ!ここで砂爪監督出て来てリクエストです!」
「セーフ!」
「判定変わらず!ノーアウト一塁三塁となりました!」
……ほんと、個々の調子は本当に良いんだよなぁ。ちょっとプレーが勢い任せだけど。
(ちょっと盗塁失敗しただけで『下手っぴ』とか嫌味なこと言うおばさんだったけど、何だかんだでアタシのことを認めてくれてたし、あんなふうになってほしいなんて思ったことなかった。ずっと二軍で燻ってたアタシにとっちゃ、ポジションは違っても乗り越えるべき人だった。このくらいの走塁、あの頃のあのおばさんなら軽くやってのけてた。これくらいできなきゃ、今日の試合に繋いでくれたあのおばさんに申し訳が立たない……!)
「3番サード、月出里。背番号25」
「一打先制のチャンスで打席にはバニーズが誇る天才打者・月出里逢!」
「ちょうちょ!今度こそ頼むぞ!」
「ゲッツーはもうええで!」
今日ここまでウチでノーヒットなのはおれと冬島さん、そして意外にも月出里さんだけ。
まぁ月出里さんは『いつも通り』なら尻上がりにバッティングの内容が良くなる。『いつも通り』なら。
(!!やべ、浮いた……)
(いける!)
「ストレート捉えた!鋭い打球が二遊間……いや、セカンド跳びついて捕った!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
(せやけど流石にこれでホームは無理やな……なら!)
「セカンドへトス!」
「アウト!」
「一塁へ!」
「アウト!」
「一塁もアウト!ゲッツー!しかしこの間に三塁ランナーホームイン!1-0!バニーズ、ようやく先制!」
「2打席連続アイゲ……」
「10本くらいヒット打ってるのにこんな形かよ……」
「まぁ点入ったんならまぁええやん。打点は付かんけど」
初回は積極走塁、4回は消極走塁が結果的に仇になったけど、この回は逆に積極走塁が功を奏した形。どうにか1点は取れた。
ただ、そもそもさっきの打球……
(せっかく浮いたのにまた転がしちゃった……)
月出里さんは今年に入って真ん中から高めの球は高確率で長打にできるようになったのに、今日の月出里さんは去年くらいまでと同じ。空振りしないし、打球は全体的に鋭いけど、角度が付かない。本当に打線が想定通りに機能してたのなら、アウトなんて1つももらうことなく先制できてたはず。
……月出里さんも冷静じゃないな、やっぱ。
「ライト!しかしこれは落下点入って……」
「アウト!」
「捕りました!これでスリーアウトチェンジ!」
まぁそれでも、勝つための最低条件は満たせた。
……驕るつもりはないけど、出しゃばるつもりもない。他の人達の気持ちもわかるし、極力波風を立てたくない。今日だけはおれだけで何とか乗り切るつもりでやる。
「5回の裏、ペンギンズの攻撃。7番ファースト、ディエシシ。背番号13」
「この回は7番からの攻撃ですが、今日のディエシシは2打数2安打と当たっております。マウンド上の風刃、援護の直後を乗り切れるか……」
(何だか今日は妙にアイツに合うゼ……!)
「センター返し!」
今日やけに合わせられてるな……でも7番からなら先頭が出てもそこまで痛手じゃないかな?この状況、逆にランナーがちょっといるくらいの方が気も引き締まる。ノーアウト一塁なら全然……
「うおおおおお!!!」
え……?
「センター滑り込んだ!しかし捕れません!!」
「「「「「ぎゃあああああ!!!」」」」」
「打球がセンターの後ろ、転々と転がって……」
(!!しまった……)
相模さんがキャッチミス……まぁそれは初回のこともあったからこうなることは予想できてた。でも十握さんのバックアップが遅れて……
「セーフ!」
「二塁セーフ!記録はセンター前とセンター相模のエラー!」
「「「「「おいィ!!?」」」」」
(す、すまねぇ……)
(俺も……集中が切れてた……)
十握さんは正直守備は元々そこまで良いわけじゃないけど、プレーへの意識が高くて堅実だし、普段はああいうバックアップとかを怠るタイプじゃない。
……ちょっと山場になりそうだな、この回……




