第百四十九話 残酷すぎる痛み(2/?)
******視点:鉄炮塚花 [西東京雁芒ペンギンズ 内野手]******
11月3日、帝国シリーズ第6戦。今日からはまた帝陵に戻っての2連戦。
勝敗数的には依然ウチらの方が優勢。ウチらは今日か明日、どっちかで勝てれば良い。向こうはどっちも勝たなきゃならない。そう考えると気持ち的には楽。
それに、一昨日負けたのはホームで胴上げができるチャンスになったのも事実。もちろん、その過程で起こったことを考えたら素直に喜べへんねやけどな……
「金剛さん、お疲れっす」
「鉄炮塚か……」
バニーズの面々も球場入り。まぁ予想はしとったけど、シリーズが始まってからの割とワイワイとした雰囲気から一変、関係者全員、異様に殺気立ってる。
それでも一応……
「あの、赤猫さん大丈夫でしたか……?」
「……とりあえず一命は取り留めた」
「そうっすか……そ」
『それは良かった』は余計。ポロッと出る前にどうにか言葉を止める。
アレはシドーくんとかウチらが悪いわけやないのはわかってるけど、やっぱり罪悪感みたいなのがな……
「鉄炮塚。しばらくは俺達に近づかない方が良い。聞きたいことは聞けただろ?」
「は、はい……すんません」
「いや、こっちこそすまんな。お前達が悪くないのは頭ではわかってるんだが、みんな気持ちがついてこないんだよ……俺も含めて」
「…………」
金剛さんは在学中には関わりがなかったくらい歳の離れた後輩のウチがプロ行けるように色々教えてくれたり、ほんまええ人なんやけどな……そんな人でも余裕がないってこと考えたら、他のバニーズの人らの心中はお察しやな。
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******視点:風刃鋭利******
試合前の円陣。
「みんな!あと1つでも負けたら終わりだ!わかってるね!?」
「「「「「アァイ!!!」」」」」
「帝陵に戻って来れた意味はわかってるね!?ここに戻ってきた以上、勝つしかない!勝つしかないんだ!」
「「「「「アァイ!!!」」」」」
伊達さんはいつもこういう時、おれ達の長所を持ち上げたり短所を前向きに捉えられるようにしたり、理性的に諭すような形で自信を付けさせるものだけど、今日は打って変わって、プリミティブな戦意を煽るような鼓舞。そしてそれにいつも以上の大声で応える面々。
……あの伊達さんですら余裕のない状況。他の人達も、雰囲気だけで心境はお察し。
(赤猫さんが命を賭けて繋いでくれた帝国一のチャンス……)
(ここでむざむざと負けたら一生の恥……!)
(絶対勝つ。死ぬ気で勝つ……!)
もちろん、おれもバニーズの人間。赤猫さんの現状を考えると、今日は何が何でも勝たなきゃって気持ちは当然ある。
でもそもそも何があってもプロとして勝ちにいくのは当たり前のことだし、おれ自身元々こういう性格で、バニーズに入ってまだ3年。しかも今は先発だから試合に出ない日の方がずっと多い。だから他の人達と比べたら、感情移入しすぎず一歩引いたところで色々と考えられる。薄情に思われるかもしれないけど。
どうしたもんかなぁ……今はおれが何か言っても聞いてくれそうな雰囲気でもないし。今日は打席に立てるとは言え、やっぱり基本的に援護を祈るしかない立場だがら、打線の士気が最高潮なのは歓迎すべきことだけど……
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