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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百四十九話 残酷すぎる痛み(1/?)

******視点:伊達郁雄(だていくお)******


 11月1日、帝国シリーズ第5戦の試合後。


「「「「「…………」」」」」


 時計の針の音さえクリアに聞こえる夜の病院。手術室前で待つのは僕と赤猫(あかねこ)くんのお婆様だけじゃなく、月出里(すだち)くんや秋崎(あきざき)くん、夏樹(なつき)くんに雨田(あまた)くん。それだけじゃなく金剛(こんごう)くんと相沢(あいざわ)くん、宇井(うい)くん、相模(さがみ)くん、冬島(ふゆしま)くん、リリィくん、他にも大勢の球団関係者の姿。

 明日は移動日で実質休みとは言え、試合後の疲れてる中でもこうやって駆け付けてくれたんだから、赤猫くんがどれだけ慕われてるかがよくわかる。


「…………」


 そしてバニーズの人間だけじゃなく、壁にもたれて腕組みをし、目を閉じてる猪戸(ししど)くんの姿。微動だにせず、ただ無事を祈るように。

 確かに彼の打球の処理によって起こったことだけど、もちろん彼には非は全くない。雨田くんと全力で勝負した結果。それはここにいるみんなも理解してる……いや、彼を責めるだけの気力も湧いてこないだけなのか……


(しずか)……閑ぁ……」


 孫がこんなことになって、涙を流しながら手を合わせて無事を祈るお婆様。それに加えて……


(ボクのせいだ……『ランナー出しても抑えたら良い』なんて甘えたこと考えて……完璧に抑えてたら、こんなことにはならなかったのに……!)

(オレがチームの秩序とかオレ自身の保身とか気にせず、伊達(だて)さんに回の頭から守備固めを進言できてたら……"扇の要"やのに、報連相の怠りとか洒落になってへんわ……)

(あたしがもっと打って、もっと楽に守れる状況を作れてたら……)

(わたしがよりによってシーズンの最後の最後でバッティングがダメになっちゃったから……)

("赤猫さんの後継者"になるつもりでずっとやってきたのに、守備固めとしてすら信用してもらえねぇなんて不甲斐ねぇ……もっと早くから真面目にやってたら……!)


 まるで『自分が悪い』と言わんばかりに苦い表情を浮かべる選手のみんな。


「……ん?」


 スマホの振動。恵人(けいと)くんからの着信。


「失礼……」


 きっと僕のその一言を聞く余裕もないだろうけど、一応断りを入れて少し離席。


「もしもし?」

「……伊達さん?」

「うん。お疲れ」

「お疲れ様です。あの、赤猫さんは……?」

「……今は手術中だよ。命に関わる可能性も大いにあるってことで……」

「そうですか……」

「……!」


 しばらく沈黙が続いた後、(すす)り泣くような声。


「お、おれ……この帝シリ、もう1回投げたくて……最後までもつれ込んでほしいって、そう思っちゃったんです……」

「…………」

「おれがこんなこと……考えなかったら、赤猫さんは……」

「……恵人くんのせいじゃないよ」

「う……ううっ……」


 恵人くんに非はないとしても、この事態は色んな人間の思惑だったりほんの些細な間違いだったりが無数にあって、そういうのがあまりにも噛み合いすぎたが故の悲劇なんだろう。関わったみんなそれぞれ、こんな事態を望んでたわけじゃないはずなのに。


 そしてこの事態において、一番責任があるのはきっと僕。1点差に詰め寄られる継投ミス、それに最終回の守備固めをあえて見送ったことが直接的な原因……もっと突き詰めていけば、僕自身に『赤猫くんに活躍して欲しい』っていう下心があったのがきっと根本的な原因。

 若い子達の台頭。監督という立場としてはありがたすぎることだけど、ほんの少し前まで選手をやってた自分としては、ほんのわずかに思うところがあったのも事実。まるで『自分達が活躍してた時期……負けっぱなしだった頃は無駄だった』と言われてるみたいで。

 だから、一緒に頑張ってきた赤猫くんを立てたかった。今にして思えば、きっとそうだったんだろう。今日の試合も、お婆様が観に来てることを大義名分にして……その前の段階、シーズン最終盤に赤猫くんを一軍に上げてセンターのレギュラーに戻したのも、秋崎くんの守備力よりそういう下心を優先してしまったんだと思う。『打率4割』すらも狙えそうな打撃力を過大に持ち上げて。彗星の如く復活した彼女をダシにして。

 それに、監督というのは選手のみんなの判断の最終決定を担う立場。彼らがたとえわずかな非もない選択をしてたとしても、最終的に僕が間違えさせてた可能性もあった。


 ……バカな話だよね。そうやって赤猫くんの明るい未来を示そうとして、逆に赤猫くんの未来を断つようなことをしてしまったんだから。僕より長く現役でいることを望んだくせに、結果として僕の道連れにするような真似をしてしまったんだから。


「うっ……ぐぅ……っ」


 天を仰いでも、涙が止まることはない。


「すまない赤猫くん……本当にすまない……!」


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