第百四十八話 彗星は流れ墜ちて(1/?)
******視点:伊達郁雄******
10月30日。移動日を1日挟んで、本拠地・サンジョーフィールドで帝シリ第3戦。
「6回の裏、バニーズの攻撃。1番センター、赤猫。背番号53」
「3-0、ペンギンズのリードが続きます。この回は打順良く1番からの攻撃となります。今日のペンギンズ先発の野良はここまで5回無失点、7奪三振の1四球と非常に安定したピッチング。ペンギンズ投手陣は一昨日の試合から強力バニーズ打線を14イニング連続で0に抑え込んでます」
確かに、前の試合……というか1戦目も割とそうだったけど、打線が噛み合ってないのは確か。
でも個々で見れば決して調子が悪いわけでもない。一昨日の試合なんかあの赤猫くんと月出里くんが揃って4タコという珍しい展開になっちゃったけど、彼女らに限らず惜しい当たりは十分ある。だからこそ、上位打線は今日も固定。
「レフトの前……落ちましたヒット!赤猫、今日も魅せてくれました、伝家の宝刀・流し打ち!」
「ここまでアウトの内容も悪くないですからね。さっきの打席は四球でしっかりボールも見えてますし、このバット捌き。シーズン最終盤に彗星の如く現れて本当にチームに貢献してくれてますね」
「ええぞええぞ閑たそ!」
「とりあえず連続完封だけは勘弁してや!」
「引っ張って!ライトの前、徳田も続きました!」
(特別球が速いわけじゃないし、慣れればこれくらいはね)
「3番サード、月出里。背番号25」
「チャンス到来、ノーアウト一塁二塁!一発で逆転のこの状況で打席にはバニーズが誇る天才打者・月出里逢!」
「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」
「今日もここまで2打数ノーヒットですが……」
君はこの程度で終わる奴じゃないだろ?
(もちろん、ここでは歩かせられない。ゲッツー取れるチャンスと割り切るしかないか……)
(野良さんは脚を大きく挙げる豪快なフォームで、イメージ通りフォークなんかも投げてくるけど、どっちかと言うと球威よりも球種の多さとかカットボールみたいな球で上手く躱すタイプ。呼吸と拍子は視えて、タイミングは十分解った)
「ボール!」
「外!まっすぐ見送りました!」
(あとは欲張らずに。まだノーアウトで次が十握さんなんだから、ちゃんと引き付けて……)
「!!!浮いた球捉えて、右方向、これは……」
……!!!
「は、入りましたホームラン!月出里、同点スリーランホームラン!!帝国シリーズでの第1号!逆方向ながらスタンド中段まで運びました!!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」」」
「さすちょう」
「ほんまに打ちよった……」
「ナイバッチ!」
「サンキュー!何とか負けが消えたぜ……」
不名誉な無失点を途切れさせるという意味でも値千金の一発。ウチの打の主役の帰還をベンチ総出で祝う。
ようやく噛み合ってきたね。
「!!左中間、これも大きい!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「フェンス直撃!」
「セーフ!」
「スタンディングダブル!十握も続きました!なおもノーアウト二塁……」
「ペンギンズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、野良に代わりまして……」
「っと、ここでピッチャー交代です!野良、5回途中3失点でノックアウトとなりました!」
「ええぞええぞ!」
「ちょうちょと346、順番逆やったらなぁ……」
「でも基本後ろに346おらんとちょうちょ歩かされてまうで」
いける。今日こそは……!
・
・
・
・
・
・
「!!逆方向、これは……」
まさか……
「入りましたホームラン!カズー、勝ち越し!ツーランホームラン!逆方向の一発を逆方向の一発で返しました!!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」
「今ホームイン!5-3!早乙女、あとストライク1つというところで手痛い一発を浴びてしまいました!」
「ギャル子ェ……」
「ちょっとこのシリーズ、リリーフがあんま機能してへんな……」
……ご指摘の通り。ウチは向こうほど特定のリリーフに依存しちゃいないけど、逃げ切り型という点では共通。
でも向こうは一発を打てる打者が隙間なく揃ってる。今日の向こうの野手スタメン9人は2人を除いて全員2桁打ったことのあるスラッガー。基本的に1失点でも致命的になりがちなリリーフにとっちゃ、常に失投による死と隣り合わせ。今日の早乙女くんの投球内容はあの1球まではほとんど隙がなかったけど、運が少し向こうに傾いただけでこの通り。
・
・
・
・
・
・
「これはファーストの正面、そのまま一塁踏んで……」
「アウト!ゲームセット!!」
「試合終了!5-4!ペンギンズ、2連勝!初戦を落としましたが、これで1勝リードとなりました!」
「あと一歩やったのに……」
「おいおい頼むで!俺らのお庭やろ!?」
……十握くんがもう1本ツーベースを打って1点差までは迫れた。想定通り、打線は機能した。でもどうしてもウチのペースに持っていけない。
「「「「「…………」」」」」
選手のみんなはよくやってくれてる。リーグの覇者同士、単純な実力では絶対に向こうに劣ってない。でもやっぱり、向こうは6年前に優勝と帝シリを経験してるのに対して、こっちはみんなここまでずっと手探りの状態。帝国一になるために要求された、7戦中4勝という少ないようで多い勝ち数。
僕自身もこんなことは全く経験したことがないから、どうしたものか……
・
・
・
・
・
・




