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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
971/1155

第百四十八話 彗星は流れ墜ちて(1/?)

******視点:伊達郁雄(だていくお)******


 10月30日。移動日を1日挟んで、本拠地・サンジョーフィールドで帝シリ第3戦。


「6回の裏、バニーズの攻撃。1番センター、赤猫(あかねこ)。背番号53」

「3-0、ペンギンズのリードが続きます。この回は打順良く1番からの攻撃となります。今日のペンギンズ先発の野良(のら)はここまで5回無失点、7奪三振の1四球と非常に安定したピッチング。ペンギンズ投手陣は一昨日の試合から強力バニーズ打線を14イニング連続で0に抑え込んでます」


 確かに、前の試合……というか1戦目も割とそうだったけど、打線が噛み合ってないのは確か。

 でも個々で見れば決して調子が悪いわけでもない。一昨日の試合なんかあの赤猫くんと月出里(すだち)くんが揃って4タコという珍しい展開になっちゃったけど、彼女らに限らず惜しい当たりは十分ある。だからこそ、上位打線は今日も固定。


「レフトの前……落ちましたヒット!赤猫、今日も魅せてくれました、伝家の宝刀・流し打ち!」

「ここまでアウトの内容も悪くないですからね。さっきの打席は四球でしっかりボールも見えてますし、このバット捌き。シーズン最終盤に彗星の如く現れて本当にチームに貢献してくれてますね」


「ええぞええぞ(しずか)たそ!」

「とりあえず連続完封だけは勘弁してや!」


「引っ張って!ライトの前、徳田(とくだ)も続きました!」

(特別球が速いわけじゃないし、慣れればこれくらいはね)

「3番サード、月出里(すだち)。背番号25」

「チャンス到来、ノーアウト一塁二塁!一発で逆転のこの状況で打席にはバニーズが誇る天才打者・月出里逢(すだちあい)!」


「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」


「今日もここまで2打数ノーヒットですが……」


 君はこの程度で終わる奴じゃないだろ?


(もちろん、ここでは歩かせられない。ゲッツー取れるチャンスと割り切るしかないか……)

(野良さんは脚を大きく挙げる豪快なフォームで、イメージ通りフォークなんかも投げてくるけど、どっちかと言うと球威よりも球種の多さとかカットボールみたいな球で上手く(かわ)すタイプ。呼吸と拍子は視えて、タイミングは十分解った)

「ボール!」

「外!まっすぐ見送りました!」

(あとは欲張らずに。まだノーアウトで次が十握(とつか)さんなんだから、ちゃんと引き付けて……)

「!!!浮いた球捉えて、右方向、これは……」


 ……!!!


「は、入りましたホームラン!月出里、同点スリーランホームラン!!帝国シリーズでの第1号!逆方向ながらスタンド中段まで運びました!!」


「「「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」」」

「さすちょう」

「ほんまに打ちよった……」


「ナイバッチ!」

「サンキュー!何とか負けが消えたぜ……」


 不名誉な無失点を途切れさせるという意味でも値千金の一発。ウチの打の主役の帰還をベンチ総出で祝う。

 ようやく噛み合ってきたね。


「!!左中間、これも大きい!」


「「「「「おおおおお!!!」」」」」

「フェンス直撃!」

「セーフ!」

「スタンディングダブル!十握(とつか)も続きました!なおもノーアウト二塁……」

「ペンギンズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、野良(のら)に代わりまして……」

「っと、ここでピッチャー交代です!野良、5回途中3失点でノックアウトとなりました!」


「ええぞええぞ!」

「ちょうちょと346、順番逆やったらなぁ……」

「でも基本後ろに346おらんとちょうちょ歩かされてまうで」


 いける。今日こそは……!


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「!!逆方向、これは……」


 まさか……


「入りましたホームラン!カズー、勝ち越し!ツーランホームラン!逆方向の一発を逆方向の一発で返しました!!」


「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」


「今ホームイン!5-3!早乙女(さおとめ)、あとストライク1つというところで手痛い一発を浴びてしまいました!」


「ギャル子ェ……」

「ちょっとこのシリーズ、リリーフがあんま機能してへんな……」


 ……ご指摘の通り。ウチは向こうほど特定のリリーフに依存しちゃいないけど、逃げ切り型という点では共通。

 でも向こうは一発を打てる打者が隙間なく揃ってる。今日の向こうの野手スタメン9人は2人を除いて全員2桁打ったことのあるスラッガー。基本的に1失点でも致命的になりがちなリリーフにとっちゃ、常に失投による死と隣り合わせ。今日の早乙女くんの投球内容はあの1球まではほとんど隙がなかったけど、運が少し向こうに傾いただけでこの通り。


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「これはファーストの正面、そのまま一塁踏んで……」

「アウト!ゲームセット!!」

「試合終了!5-4!ペンギンズ、2連勝!初戦を落としましたが、これで1勝リードとなりました!」


「あと一歩やったのに……」

「おいおい頼むで!俺らのお庭やろ!?」


 ……十握くんがもう1本ツーベースを打って1点差までは迫れた。想定通り、打線は機能した。でもどうしてもウチのペースに持っていけない。


「「「「「…………」」」」」


 選手のみんなはよくやってくれてる。リーグの覇者同士、単純な実力では絶対に向こうに劣ってない。でもやっぱり、向こうは6年前に優勝と帝シリを経験してるのに対して、こっちはみんなここまでずっと手探りの状態。帝国一になるために要求された、7戦中4勝という少ないようで多い勝ち数。

 僕自身もこんなことは全く経験したことがないから、どうしたものか……


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