第十六話 後に続く希望(5/7)
9回裏 紅5-4白 1アウトランナーなし
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右](残り投球回:1/3)
[控え]
夏樹神楽[左左]](残り投球回:1回2/3)
氷室篤斗[右右](残り投球回:0)
山口恵人[左左]](残り投球回:0)
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7二 ■■■■[右右]
8三 ■■■■[右右]
9捕 土生和真[右右]
投 カリウス[右右]
[降板]
三波水面[右右]
早乙女千代里[左左]
桜井鞠[右右]
相模畔[右左]
牛山克幸[右右]
花城綾香[左左]
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「天野。貴方って右利きよね?」
「え?そうですけど……」
開幕二軍でスタートした去年のシーズン序盤。いつものように振旗コーチと打撃練習してる時に突然聞かれた。
「打者には『右打ち』『左打ち』の2種類あるわよね?『両打ち』もあるけど、これは『右打ち』であり『左打ち』でもあるってことで、ここではとりあえず省かせてもらうわ。そこで貴方、『右打ち』と『左打ち』、どっちの方が有利だと思う?」
「それは……一応『左打ち』の方が一塁に近い分有利って言われてますね」
「ええ、その点に関しては確実に有利と言えるし、投手も右の方がどうしても多いからね。そのせいかここ最近の日本人打者は右投げ左打ちの打者の活躍が目立ってるわね。貴方は今『右打ち』だけど、『左打ち』はやったことある?」
「一応ちょっとだけ挑戦してみたことがあるんですけど、スイングの感覚が右と違いすぎて全然馴染まなかったです」
「そう、それで良いのよ。全てにおいて『左打ち』の方が有利と言うわけじゃないし、大事なのは自分に合ってるかどうかよ。それにね、利き手が違えば同じ『右打ち』『左打ち』でも大なり小なり違いがあるわ。かく言う私も『左打ち』だけど、私はその大半と違って、一応左利きなの」
「でも投げるのは右なんですね」
「そうなのよね。私生活でも右と左使う方がバラバラだから正確には『両利き』と言うべきかもしれないけど、一応私自身は左利きとして認識してるわ。だから私は正確に言うと『左利きの左打者』」
「となると、ぼくは『右利きの右打者』になりますね」
「ええ。つまりは字面的に全くの正反対……ではあるけど、全く同じ部分があるわ。何だと思う?」
「ええっと……」
「バットを構えるふりしてみなさい」
「……あ、どっちも利き手が上ですね」
「その通り。バットを握った際、利き手がトップハンドになる。利き手がトップハンドになるかボトムハンドになるか、それぞれについて有利不利はあるけど、少なくとも貴方には私と同じバッティングができるようになる可能性があると言うことね」
「ぼくが……」
ぼくが生まれるよりも前の時代、当時の日本人打者の中で"最強"と謳われてた振旗八縞のバッティング。それをもしかしてぼくに……?
「ちなみに貴方が前の球団で比べられてた五宝は『右利きの左打者』。当然、打者としての格は今のところ向こうの方が遥かに上なのは事実だけど、何もかも五宝より劣ってるってことにはならなくなるわ。私と同じことができるようになればね」
きついこと言われたり、過度な期待をされると自分はダメだってことすら、ぼくは知らなかった。そんなぼくを、振旗コーチはここまで連れてきてくれた。
「……え?その番号で良いの?貴方なら一桁台用意しても良いんだけど……」
「良いんです!これが良いんです!」
去年のオフ、二軍で活躍して、一軍でもそれなりに打てたご褒美に、オーナーから好きな背番号をもらえることになった。選んだのは32。振旗コーチの現役の頃の番号の次。中途半端だけど、ぼくにとってはこれが一番。
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(……こいつで墜ちNA!)
ぼくはまだ一軍に定着すらできてない。振旗コーチがすごいんだってことを全然証明しきれてないけど……
(……う……!!?)
先輩風の1つくらい、吹かせてもらうよ。
「「「「「…………」」」」」
外角カットボール。読まれてても絶対に打たれない自信があったんだろうけど、ぼくはむしろそれを待ってた。振旗コーチから教えてもらった『必殺技』が使えるこの瞬間を。
打球は逆方向、だけど狭い球場の場外へと消えていった。みんな静まり返ってる中、バットを軽く放ってゆっくりと駆け足。
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
「出た!ついに出たで!チッヒの一発!!」
「やっぱフルスイングで正解やんけ!(テノヒラクルー」
打球速度と飛距離でみんなを黙らせて悠々とダイヤモンドを回りながら、沸き立つ歓声の中でホームに帰還。やっぱりこれがあるからホームラン狙いはやめられないんだよね。
「……ッ!天野さん!!」
あの司記くんでさえ、笑ってお出迎えしてくれるんだから。
「天野さんマジパネェっす!痺れました!!」
「んほおおおおお流石です千尋さん!でゅふふふふふふふ……!」
「もう……落ち着きなよ有川さん」
「けーくんもニヤニヤしちゃってんじゃん、柄にもなくさぁ」
ベンチの雰囲気もあっという間に元に戻った。やっぱりこれこそがホームランだね。
「ナイスバッティング」
「ッ……!ありがとうございます!!」
そして一番欲しかったコーチの言葉。
点差は5-5の同点。まだ最低でも1点は取らないとダメな状況。だけど最善は尽くした。今のぼくにできることは後に続くみんなを信じるだけだね。