第百四十七話 人を変える力(8/?)
「ペンギンズ、選手の交代をお知らせします。先ほどの回に代打で入りました■■に代わりまして、ライディーン。9番ピッチャー、ライディーン。背番号37」
「1-0、終盤、ついにゲームが動きました、帝国シリーズ第2戦。今日のバニーズの先発の山口は7回3分の2までで112球を投じ、1失点、奪三振7、被安打5つ、四球1つ。5回まではパーフェクト。しっかりゲームを作りました。バニーズはここまで6回7回を除き全ての回でランナーを出しチャンスも幾度か作っていますが、あと1本がなかなか出ない状況。昨日と同様に最後の最後で捲ることができるか?ペンギンズ、砂爪監督は昨日に引き続き、ライディーンに最終回を託しました」
(確かに不安要素はあるが、今日はこういう流れ。これに乗じて不動のクローザーに自信を取り戻させて、以降の試合でも機能させたい)
(昨日のリベンジはしっかりやらせてもらうぜ。月出里、アンド十握)
「9回の表、バニーズの攻撃。3番サード、月出里。背番号25」
「この回の先頭打者は月出里。今シーズンは出塁率JPB歴代3位の.510を記録した天才打者ですが、今日はここまで出塁がありません」
「ちょうちょ!そろそろ頼むで!」
「先頭やからゲッツーもないぞ!」
「!!引っ張って!」
「アウト!」
「ああーっ、これはショート正面のライナー……」
「「「「「ほげぇぇぇぇぇ!!!」」」」」
……5割以上出塁する月出里さんが4タコ。さらにごく短期間とはいえその月出里さんより塁に出れた赤猫さんも4タコ。おれは中卒だけど、勉強はそれなりにできた方。確率は単純に2の8乗分の1……256分の1、エラーとかも考えたらもっと低い確率だってのはわかる。つまり2年に1試合くらいの不運。細かく計算したのを後悔したくなる。
「!!これはライト下がって……」
「アウト!」
「フェンスの手前、捕りました!」
「ストライク!バッターアウト!!」
「試合終了!1-0!ペンギンズ、リコの13連敗をここで止めました!これでこのシリーズは1勝1敗、イーブンで勝負はサンジョーフィールドに持ち越しとなりました!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」
まぁあんな大逆転、そんな毎日毎日あるもんじゃないよね。わかってるよ。わかってるけど……
「……伊達さん」
「ん?」
「風刃さんって、多分もう1回投げますよね?」
「そうだね……投げるとすれば移動日も挟める6戦目、またここで投げることになったらかな?」
「サンジョーで3つ取れるのが一番良いですよね」
「ああ、もちろん僕もそのつもりで動くよ」
つまり7戦目……実績的にきっとおれが投げられる。
チームの一員として、できるだけスムーズに勝てる方が良いのはわかってる。今のバニーズの戦力を考えたら、来年もこの舞台で戦える見込みは十分あるってのもわかってる。でもやっぱり、この悔しさは来年まで持ち越したくない。ペンギンズだって来年も上がってるかはわからないんだし。
ワガママでしかないのはわかってるけど……正直、このシリーズは最後までもつれ込んでほしい。そしてその上で勝ちたい。それがある意味、先発2番手の特権みたいなもののように思えるし。
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試合後、夜遅く。都内の割と大きい一軒家……おれの実家の前。他人行儀にインターホンを鳴らす。
「おかえり」
「ただいま」
今日の試合を観に来てたから、当然結果も知ってるはずのお母さん。先に帰って、おれを迎え入れてくれた。
「ただいま……」
「ん」
リビングの、空の食器がもう並べられてあるテーブル。お父さんが席に着いて、難しそうな本を読みながら素っ気ない返事。まぁいつものこと。
……きっといつも通り、今日のピッチングのことで色々言われる。もう慣れっこだし、帰り道の中でその覚悟はとっくにできてるから良いんだけどね。




