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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
969/1170

第百四十七話 人を変える力(8/?)

「ペンギンズ、選手の交代をお知らせします。先ほどの回に代打で入りました■■に代わりまして、ライディーン。9番ピッチャー、ライディーン。背番号37」

「1-0、終盤、ついにゲームが動きました、帝国シリーズ第2戦。今日のバニーズの先発の山口(やまぐち)は7回3分の2までで112球を投じ、1失点、奪三振7、被安打5つ、四球1つ。5回まではパーフェクト。しっかりゲームを作りました。バニーズはここまで6回7回を除き全ての回でランナーを出しチャンスも幾度か作っていますが、あと1本がなかなか出ない状況。昨日と同様に最後の最後で(まく)ることができるか?ペンギンズ、砂爪(すなづめ)監督は昨日に引き続き、ライディーンに最終回を託しました」

(確かに不安要素はあるが、今日はこういう流れ。これに乗じて不動のクローザーに自信を取り戻させて、以降の試合でも機能させたい)

(昨日のリベンジはしっかりやらせてもらうぜ。月出里(バタフライガール)、アンド十握(ハイウエストボーイ))

「9回の表、バニーズの攻撃。3番サード、月出里(すだち)。背番号25」

「この回の先頭打者は月出里。今シーズンは出塁率JPB歴代3位の.510を記録した天才打者ですが、今日はここまで出塁がありません」


「ちょうちょ!そろそろ頼むで!」

「先頭やからゲッツーもないぞ!」


「!!引っ張って!」

「アウト!」

「ああーっ、これはショート正面のライナー……」


「「「「「ほげぇぇぇぇぇ!!!」」」」」


 ……5割以上出塁する月出里さんが4タコ。さらにごく短期間とはいえその月出里さんより塁に出れた赤猫(あかねこ)さんも4タコ。おれは中卒だけど、勉強はそれなりにできた方。確率は単純に2の8乗分の1……256分の1、エラーとかも考えたらもっと低い確率だってのはわかる。つまり2年に1試合くらいの不運。細かく計算したのを後悔したくなる。


「!!これはライト下がって……」

「アウト!」

「フェンスの手前、捕りました!」

「ストライク!バッターアウト!!」

「試合終了!1-0!ペンギンズ、リコの13連敗をここで止めました!これでこのシリーズは1勝1敗、イーブンで勝負はサンジョーフィールドに持ち越しとなりました!」


「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」


 まぁあんな大逆転、そんな毎日毎日あるもんじゃないよね。わかってるよ。わかってるけど……


「……伊達(だて)さん」

「ん?」

風刃(かざと)さんって、多分もう1回投げますよね?」

「そうだね……投げるとすれば移動日も挟める6戦目、またここで投げることになったらかな?」

「サンジョーで3つ取れるのが一番良いですよね」

「ああ、もちろん僕もそのつもりで動くよ」


 つまり7戦目……実績的にきっとおれが投げられる。

 チームの一員として、できるだけスムーズに勝てる方が良いのはわかってる。今のバニーズの戦力を考えたら、来年もこの舞台で戦える見込みは十分あるってのもわかってる。でもやっぱり、この悔しさは来年まで持ち越したくない。ペンギンズだって来年も上がってるかはわからないんだし。

 ワガママでしかないのはわかってるけど……正直、このシリーズは最後までもつれ込んでほしい。そしてその上で勝ちたい。それがある意味、先発2番手の特権みたいなもののように思えるし。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 試合後、夜遅く。都内の割と大きい一軒家……おれの実家の前。他人行儀にインターホンを鳴らす。


「おかえり」

「ただいま」


 今日の試合を観に来てたから、当然結果も知ってるはずのお母さん。先に帰って、おれを迎え入れてくれた。


「ただいま……」

「ん」


 リビングの、空の食器がもう並べられてあるテーブル。お父さんが席に着いて、難しそうな本を読みながら素っ気ない返事。まぁいつものこと。

 ……きっといつも通り、今日のピッチングのことで色々言われる。もう慣れっこだし、帰り道の中でその覚悟はとっくにできてるから良いんだけどね。

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