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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百四十七話 人を変える力(5/?)

「9番ピッチャー、山口(やまぐち)。背番号61」

「ワンナウト一塁二塁という先制のチャンスですが、打席にはピッチャーの山口。中学時代は快速球左腕としてのみならず、左のスラッガーとしてU-15でクリーンナップも務めましたが、第1打席はショートゴロ」


 経歴通り、バッティングは苦手じゃない。打つのだけなら風刃(かざと)さんに勝てる自信がある。


「ストライーク!」

「外!まっすぐ見送ってストライク!!」

「ストライーク!」

「当たりましたがファールチップ!」


 でも、流石にプロ入ってからロクに打撃練習してないのにプロ相手、しかも左はキツイ。さっきの打席は何とか前に飛ばすことはできたけど、ここはゲッツーもあるから迂闊に当てるだけってのもしづらい。


「ストライク!バッターアウト!!」

「強振!しかしスイングアウトの三振!最後は150km/hまっすぐ!」


「ええスイングやったで!」

「ドンマイドンマイ!」

「しかしDHなしってこういうとこでつまらんよなぁ」

「これじゃ下位打線は実質クリーンナップ掃除するくらいしか意味ないやん」

「せっかくチッヒも相沢(あいざわ)もチャンスメイクしたのになぁ……」


 やっぱフルスイングじゃ無理か……実際に打席に立ってみると、メジャーでも先発やりながらホームラン40本打った幾重(いくえ)さんがどれだけヤバイかがよくわかるよ。


「1番センター、赤猫(あかねこ)。背番号53」

「ツーアウト一塁二塁、ここで3巡目の赤猫。昨日は4の2とチームの逆転勝利に貢献しましたが、今日はまだヒットがありません」

「ランナーが進んでないのは痛いところですが、ツーアウトで天野(あまの)も相沢も脚が速いですからね。ここは持ち味を生かして欲しいですね」


 確かに今日は左相手だけど、今日の赤猫さんが打ててないのはそこじゃない。むしろ最近は逆らわないバッティングで稼いでるあるからか、樹神(こだま)さんよろしくむしろ左の方がやりやすいんじゃないかって感じがする。


「!!逆方向、鋭い当たり!」

「アウト!!!」

「しかしショート飛びついた!東山(ひがしやま)、ファインプレー!!」


「「「「「おおおおお!!!!!」」」」」


 そう。単純に運が悪いだけ。赤猫さんにしても月出里(すだち)さんにしても。


「これでスリーアウトチェンジ!バニーズ、毎回ランナーを出していますがこの回も無得点!」


「おいィ!1点くらい頼むで!」

「狭い球場やのにチマチマ打つだけ打って!」

「やっぱ有川(ありかわ)のとこバントで良かったんちゃうか……?」

「恵人きゅん一応前に転がしてたしなぁ……」


「……ごめんね、恵人(けいと)くん」

「いえ、気にしないで下さい」


 なのに申し訳なさげにおれに謝る赤猫さん。

 別に打線が全く仕事をしてないわけじゃない。5回まででヒット6本。つまり打線全体では3割以上打ってる。一般的な価値観で言えば確実に機能してると言える。

 おれもピッチャーだからピンチの場面だとギア上げたり間を取ったり、点を取られないための工夫はしてるから、得点圏打率云々ってのが完全に無意味なものだとは思わないけど、結局はやっぱり運がものを言うもの。


「5回の裏、ペンギンズの攻撃。4番サード、猪戸(ししど)。背番号55」

「投手戦が続くこの状況で怖いバッター。昨日は逆転ツーランを含む2安打の猪戸。第1打席も月出里の守備に阻まれましたが強い当たりを放っております」


 帝シリでおれが投げるのはきっと2試合、多くても3試合。実力より運の方が(にじ)み出るなんて当たり前。


「!!!」

「ストレート引っ掛けた!これはセカンド正面……」

「アウト!」

「チェンジアップ、これも当てただけ!ピッチャー正面、平凡なゴロ……」

「アウト!」

「ストライク!バッターアウト!!」

「見逃しの三振ッ!最後は外いっぱい、バックドアのスライダー!!」


「「「「「うおおおおお!!!」」」」」


「これでスリーアウトチェンジ!何と山口、この帝国シリーズで5回までパーフェクトピッチングが続いております!!」

(月出里よりチビのくせに、どえらい強者(もっこす)たい……)


「んほおおおおお!恵人きゅん最高なのおおおおお!!」

「まさかの風刃超えで草」

「この先発で!この連勝中で!これで負けたらバカだぜ〜〜〜ッ!!!」


 おれができるのは、そうやって割り切って投げ続けるだけ。仮に点が取れないのは運じゃなく、実際は『この大舞台で緊張してるからここ一番で微妙に手元が狂ってる』ってのが正解だったとしても、逆におれ自身が抑えられてるのも実際は実力じゃなく運だとしても、勝利を信じて投げ続けるのがおれの役目。


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