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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百四十六話 僕らなりの勝ち方(7/?)

「9回の表、2点を追いかけますバニーズ。この回はペンギンズの守護神、ボリス・ライディーンがマウンドに上がります。来日3年間、毎年50試合以上登板してきたタフネス右腕。今シーズンも66試合登板し、64回1/3、防御率2.52、31セーブ。また、昨シーズンは帝都オリンピックアメリカ代表として出場し、アメリカの銀メダルに貢献しました」


「「「「「ゴー!ゴー!!ライディーン!!!」」」」」

「あとアウト3つだぞ!」

「今年こそリコの4タテ返しや!」


 去年のオリンピックの決勝で勝負したライディーン。あの時は歌舞伎野郎が走ってあたしが打った。もちろんどう転ぶかわからない勝負事だし、向こうは向こうで純粋に良い投手。今度もうまくいく保証はない。


「…………」


 少しの間目を瞑って、あの時の勝負を思い出す。あの時はインコースで脅された後に来た外のカットボールをチョコンと当てて点をもぎ取った。もし2人以上ランナーがいる状態で回ってきたら同じような感じで大丈夫だし、それより少なかったら一発狙い。頭の中でライディーンが投げてる姿をあたしの視点からイメージして、前と同じように打つアプローチだけじゃなく、一発を打つためのアプローチも探る。


「ファール!」

「ここも一塁線!切れましたファール!!」

(ライディーンの武器はカットボール。下手に手ぇ出すとゴロにされるだけ。かと言ってあえて右に立つと、ボールの見極め時間が短くなってフォーク系の見極めで不利になる。点差を考えたらここは……)

「ボール!フォアボール!!」

「選びました!バニーズ、この回も先頭バッター出塁!!」


「よっしゃよっしゃ!ナイセンナイセン!!」

「やっぱあっこ冬島(ふゆしま)やなくてリリィならなぁ……」

「もう済んだことや。しゃーない」

「でもこれならちょうちょにもう1打席あるで!」


「1番センター、赤猫(あかねこ)。背番号53」

「ノーアウト一塁。打席には今日5打席目の赤猫。今日は第1打席でヒット1本」

(2点差とはいえゲッツーのあるとこだけど……)

(もちろん、ここはバントなんていらない。あの月出里くんより塁に出られる確率が高いんだから、自信を持って打っていけば良い)

「ストライーク!」

「高め!157km/hまっすぐ空振り!!」

(伊達(だて)さんの心遣いはありがたいけど……オバサンにはキツイスピードだわ……)


 ゲッツー狙いなら低めがベターだけど、あえて高めまっすぐ……


(CSでもゲッツーはあったみたいだが、赤猫さんは今でも一塁到達は平均よりだいぶ上。それに、基本はローボールヒッター。カットボールでゴロ狙いができればベストだが、ここ最近の赤猫さんの変化球対応力を考えたら、これで押し切る方が期待値は高い……!?)

「レフトの前……落ちましたヒット!これで今日2本目!バニーズ、土壇場でチャンスメイク!同点のランナーが出ました!」


「「「「「おおおおお!!!」」」」」


(来年は4割打つ予定なんだから、苦手コースだって『そこに来る』ってわかってたら打てるくらいじゃなきゃいけないわよね)


 さすが(しずか)さん。苦手な高めまっすぐでも、あえて詰まらせての流し打ち。


「2番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」

「ノーアウト一塁二塁。ここは徳田、バントの構えです」


 まぁ点差的にも間違った選択じゃない。でもそれは……


(もちろん、そこは承知の上)

「一塁線転がした!」

「アウト!」

「この間にランナー進んでワンナウト二塁三塁!送りバント成功!!」


「ナイメイナイメイ!」

「うーん、満塁で回したかったけどなぁ……」


「3番サード、月出里(すだち)。背番号25」


「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」


「最終回、一打同点の大チャンスで回ってきました、バニーズの最強打者、月出里逢(すだちあい)!……っと、ここは砂爪(すなづめ)監督がベンチから出てきて……敬遠です!月出里を申告敬遠!!」


 やっぱそうだよね……


「おいィ!?勝負しろや勝負!」

「勝負事でも見世物やろが!!!」

「同じ王者なのに恥ずかしくないんか!?」


(俺だってそう思うが、正直助かったってのもあるぜ……あの月出里(バタフライガール)にゃ去年オリンピックで打たれたイメージがどうしてもな……)

(守備の面でも満塁の方が確実に守りやすい。とは言え次の打者は……)


 あたしのせいじゃないけど、『水面(みなも)さんを勝ち投手にする』って言った手前こういう展開だから、一塁に向かう前にベンチの水面さんに軽く頭を下げる。


(気にしないで。逢ちゃんは"最強打者"だからここは勝負を避けられただけ。むしろそうであることで、『次に繋ぐ』っていう役割をしっかり果たした)

「4番レフト、十握(とつか)。背番号34」

「ワンナウト満塁、打席には4番の十握!今日はまだヒットがありません!」


「っていうか346、CS入ってからもそんなに打ってへんしなぁ……」

「正直、リリィベンチにしてまで無理さすべきかって感じだよなぁ」

「やっぱかおりんにはバントやなくて打たせた方が……」


(確かにこのまま十握くん以降が凡退すれば、『ワンナウトを献上した上に、"最強打者"の打席をスキップする口実を与えた愚策』になる。けど……)


 あたしがホームに帰ることができれば逆転。つまり、十握さん達が続くことができれば、『アウト1つで逆転のランナーを確実に出すことができた良策』になる。

 伊達さんはきっとそうなると信じて、火織(かおり)さんにバントさせた。そしてあたし達は今までそういうのに応えて勝ってきた。それがあたし達にとっての当たり前。相変わらず運次第なとこはあるけど、運以外のとこで最善を尽くさなきゃ勝ちは掴めない。それがきっと王者同士の勝負。

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