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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第十六話 後に続く希望(4/7)

「監督、どうも天野はイップスみたいです」

「外野が完全に無理と言っても、内野も前々からスランプですからねぇ。サードだと送球が不安定、ファーストならかろうじてと言うとこですが、あのバッティングでファーストに置くのは……」

「しばらく二軍でも様子を見てたんですけど、バッティングも戻ってくる感じがないですね……」

「まぁリコにDHがあっても……ってとこだが、それでもリプの方が今後の可能性はあるかもな。そもそもメンタル的にもアイツはウチに合ってないのかもしれん」


 折りしもジェネラルズはその年も優勝候補筆頭。その年どころか過去5年ほどそういう状態だから、勝ち試合でも使えるレベルのリリーフは何人いても足りないくらいだった。


「部長!ジェネラルズからトレードの打診です!」

「何!?天野千尋(あまのちひろ)を出してくれるのか!!?」


 そしてバニーズの方も長打力を欲しがってた。それに、当時22で復活の可能性も十分あったってのもあるけど、ぼくも良くも悪くも話題の人だったからね。仮に復活できなくても篤斗(あつと)くんみたいにパンダとして使えば良いってことで、当時のバニーズにとっては宝の持ち腐れ状態だったリリーフエースとで話があっさりまとまって、ぼくは4年目の途中からバニーズの一員となった。

 その頃のバニーズは弱いことを自らネタにして、話題性のある選手をパンダ扱いして維持してる状態だったから、裏を返せばジェネラルズのような伝統とか堅苦しさとかOB・OGからの圧力みたいなのはなかった。そんな球団を応援してるファンも、そもそもバニーズの選手を他の球団の選手と比べて下に見てるような雰囲気があるけど、それでもその分結果に対してそこまでキツく言わないから、試合や練習に集中することができた。


「おっ、チッヒ言うほど悪くないやんけ!」

「元々ショートやさかいな。センスはあるんやろな」


 いまだに外野はできないままだけど、それでも内野は以前までの感覚をある程度取り戻せたし、二軍での打撃成績も少しだけマシになった。


「ストライク!バッターアウト!」

「あー、やっぱアカンか……」

「まぁあのスイングはパフォーマンスとしてはええやろ」

「球場は芝居をするところではござらぬ……」


 でも相変わらず打てないのには全く変わりない。当てるのを重視したスイングを完全に元に戻すほどの器用さすらもぼくには備わってなかった。


 転機は去年。オーナーが三条(さんじょう)さんになって、バニーズは大きく変わった。三条さん目当ての人ばかりであってもファンを増やして、あの(やなぎ)さんを現場に連れ戻してきて……

 だけどぼくにとって一番のプラスになったのは、振旗(ふりはた)コーチを呼んでくれたこと。


「貴方、プロ入りした頃と比べてスイング小さくなったわよねぇ」

「あ、はい……ジェネラルズのコーチに『お前のパワーならコンパクトに振ってもスタンドに届くし、一塁への走り出しも早くなる』って言われて……」

「……『コンパクト』と『小さくまとまる』のは違うわよ。その辺の認識を改めないと、いくらバット振っても無駄無駄。ミーティングルームへ来なさい」


 なまじ結果が伴ってきたものだから今まで大雑把にやってきたぼくに、順を追ってバッティングを教えてくれた。


「確かにバットに当てなきゃヒットは生まれないけど、バットに当てても絶対にヒットになるわけじゃないわ。10回当てて3本ヒットになっても、3回当てて3本ヒットになっても結果は同じ。もちろん、ヒットにならなくてもチームのためになる凡打もあるけど、ヒットにだって質の差はあるわ。どんな状況であっても、シングルヒットよりはホームランの方が当然点に繋がる。貴方は凡打の質にこだわる必要なんてない。でっかいの狙って許されるだけのものがあるんだからもっと自信を持ちなさい」


 その中で4番打者としての心得も教えてくれた。


「おおっ!今年の初ホームランは天野か!」

「まぁ腐っても競合1位の逸材やしな」

「新外国人良い感じやけど、こりゃ開幕一軍あるか?」


 去年のオープン戦で十分な結果を出せたけど、振旗コーチの判断で敢えて二軍にとどまった。

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