第百四十六話 僕らなりの勝ち方(3/?)
******視点:鉄炮塚花 [西東京雁芒ペンギンズ 内野手]******
ちょうちょちゃんにええ守備されて正直ちょっと流れ取り戻されるかと思ったけど、そのちょうちょちゃんにギリギリ打席を回すことなく三凡。ほんまウチのリリーフはようやってくれるわ。今年4人くらいは50試合以上投げてるってのに。
ほんのわずかずつやけど、この6年間ずっと望み続けてきた帝国一に近づいてる実感。
「バニーズはこの回からソリッド・エンダーが2番手として登板します。バニーズ移籍2年目。昨シーズンは不動の勝ちパターン。今シーズンは故障での長期離脱もありましたが、18試合を投げて防御率3.18。投球回17回に対して奪三振も17。今シーズンも高い奪三振率を維持しております」
「7回の裏、ペンギンズの攻撃。8番ショート、東山。背番号3」
「2-1、ペンギンズ、リードのままラッキーセブンの攻撃に入ります。この回の先頭打者は東山。今日はまだヒットがありません」
「たけしィ!そろそろ1本頼むぞ!」
「ホームランホームランた・け・し!」
「ストライーク!」
「初球まっすぐ!152km/h見送ってストライク!!」
「ええぞええぞエンダー!」
「走ってる走ってる!」
向こうもええリリーフ持っとるな。僅差ビハインドでこのレベルの投手。『一般的に得失点差が優秀であるほど順位が高くなる傾向がある』っていうのが統計的な事実やけど、ええリリーフを多く抱えてるチームほどその傾向から外れやすい。先発が燃えた時は大人しく勝ちパターンを温存して、リードしてたら勝ちパターンで逃げ切る。『大差で負けることはあるけど、僅差では勝つ』っていう、戦略的に効率の良い戦い方ができるんやからな。
その上、向こうは今年トップクラスの先発を2人も抱えとる。今日はたまたまあの金髪くんに負けが付けられそうやけど、同じリーグにおったらウチの打率も1分くらいは落とされとったかもしれへんなぁ。
「!!カーブ打って!レフトの前、落ちました!!」
「ナイバッチ!」
「ダメ押しダメ押し!」
ただ、あの金髪くんの存在は向こうにとって大きな強みである一方で、ちょっとした弱みでもあるな。
「ストライク!バッターアウト!!」
「セカンド見上げて……」
「アウト!」
「捕りました!これでツーアウト!」
「よっしゃよっしゃ!四凡で良いぞエンダー!」
「勝ち投手あるで!」
「2番レフト、西村。背番号23」
「ツーアウト一塁で打席には西村。日米18年間で積み上げたヒットの数は2500本以上。日本に復帰して4年、遂に優勝を経験できました」
「「「「「みゆき!みゆき!みゆき!みゆき!」」」」」
ツーアウトやけど、ネクストで入念に準備。美雪さんならそろそろ打ってくれるはずやしな。
「ストライーク!」
「高め空振り!」
「うーん、あの西村ももう40のおばちゃんやしなぁ」
「え?伊達と同い年やん」
「流石にこの歳になるとあのまっすぐは厳しいやろ」
「えいりーんには手も足も出んかったしな」
(……やっぱりそうね。『大体同じ』だわ)
「!!今度は打って……!」
(やば……!)
「ファール!」
「レフト線、切れましたファール!」
「惜しい惜しい!」
「まだまだ振れてるぞみゆきィ!」
うんうん。やっぱそうやな。
「今度はカーブ!しかし上手く合わせました!!ライトの前痛烈な当たり!!!」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「セーフ!一塁ランナーは二塁でストップ!ツーアウト一塁二塁!ペンギンズ、この回もツーアウトからチャンスを作りました!」
「おっかしいなぁ……エンダーの球、そんなに悪ないのになぁ」
「むしろカーブとかキレッキレやん」
「やっぱある程度コントロールバラけてる方がええんかなぁ?」
せやな。確かに向こうの外人さん『も』金髪くんと同じようにええ球投げとる。『だから』狙い目なんよなぁ。
「3番セカンド、鉄炮塚。背番号1」
「この回も打順が回ってきました鉄炮塚。6回は粘って猪戸の逆転弾に繋げました。長打力も選球眼も抜群」
「エンダー!落ち着け!」
「まだベース1個余裕あるぞ!」
「また向こう歩きたいんやったら歩かせたったらええ!」
残念。さっきと違てここは打つ気満々やで。
「!!センターの右……落ちましたヒット!」
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
「二塁ランナー三塁蹴って一気にホームへ……」
(なめられたものね……!)
センターの赤猫さん、捕るまでの動きは流石やな。けど……
「センターからショートへ中継!」
「ホーム投げんでええ!それよりサード警戒や!」
「セーフ!」
「二塁ランナーホームイン!3-1!ペンギンズ、貴重な追加点!」
「「「「「良いぞ良いぞハナちゃん!!!」」」」」
(くそっ、ここにきてポンポン打ちすぎやろ……!)
最近のプロ野球は日米問わず先発は記録とかがかかってへん限りは100球程度で残りはリリーフが割と当たり前。平均球速が上がったり、そうでなくとも100球以上の故障リスクが世の中に広まったってのもあるけど、単純にリリーフを挟むことで失点リスクを減らせるってのも理由にある。
じゃあ何でそもそもリリーフを挟むと先発完投より失点しにくくなるのか?それは突き詰めていけば『慣れ』に行き着くな。先発と違て短いイニングしか投げへんから出力は先発より出しやすいし、単純に別の投手に代えるだけでも、相手打者の投手に対する『慣れ』をある程度リセットできる。
つまり、リリーフがより大きく効果を発揮するためには、『そのリリーフ自体の力量』ももちろん大事やけど、『先発投手との差異がどれだけ大きいか』ってのも大事になってくるわけやな。
ところが、あの金髪くんは右のパワーピッチャー。その投球スタイルは先発として精錬されてるというよりは、リリーフやクローザーが何イニングも投げてるようなもん。
もちろん、金髪くんのああいうスタイルは先発投手個人としては間違いなく合理的と言えるけど、問題はその後に投げる投手。金髪くんは下手なリリーフよりも出力がエグい上に、球種が豊富な分、後続の投手と球種が被りやすい。しかもリリーフ・クローザーで最も多数派なんは、金髪くんと同じ右のパワーピッチャー。おまけに奪三振を意識して落ちる球を武器にしてる投手が多い。つまり、相手打者の『慣れ』をそのまま後続の投手に引き継いでしまいやすいというデメリットに繋がるわけやな。
エースは一番先発機会が多いから、そのエースと被らないようなリリーフで勝ちパターンを形成できるのがチームを作る上での理想。実際、向こうも全体的に左投手を勝ちパターンで多く使ってるみたいやけど、流石に僅差ビハインドで使う投手までそれを徹底できひんのはしょうがないこと。
金髪くんがエースとして優秀すぎるが故の弱み。先発が薄いウチらにとっちゃ贅沢な悩みやで。
「うーん、今のでホーム刺せんのか……」
「おっぱいやったら間違いなく刺せてたんやけどなぁ……」
「閑たそ、昔から肩弱やったけどあそこまで酷なかったよなぁ」
「打つのは文句なしやけどあれがセンターは正直ちょっと聖域やな……」
(…………)
そして、外野の肩の圧力が全体的に弱いのも向こうの弱みやな。キャッチャーくんがバックホーム止めたんは正解。中継入ったショートの子は確かにええ肩してるけど、赤猫さんをフォローするために深いとこまで行きすぎてたな。一三塁になってたところを一二塁で止められただけでも儲けもん。




