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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百四十五話 ホームランへの誠意(1/?)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


「ファール!」

「ますは外!一塁線切れました!1回の表、ワンナウト二塁。バニーズ、先制のチャンスで打席には月出里(すだち)


 勝負はしてくれるっぽいね。初球打ちを読んだのか、さっきのカットボールで入ってきたのがその証拠。


(次が十握(とつか)で、CSで当たってた金剛(こんごう)さんも続くところ。何より月出里は最初の打席はあまり打たない。ここは遠慮なく初見投手有利を生かす)


「ボール!」

「もう1球外!今度は外れました!」

(次をどう取るかだな……)


 !!!


「ストライーク!」

「空振り!これも外!浅井(あさい)の伝家の宝刀、スライダーがここで来ました!」


「うぉっ、えらい曲がったな……」

「あれが高校ん時に18三振やったアレか……」


 確かにすごい球。曲がり始めがかなり手元で、しかも曲がりも小さくない。


 ……けど正直、こういう右のスリークォーターのスライダー投手は今までプロで嫌というほど勝負してきた。あたしがどっちかと言うと外の方が苦手なのもあって、こういう外スラを見る機会は結構多い。

 そして、『この世にその投手と全く同じ投手なんて絶対にいない』と言っても、似たような投手は大抵いる。今は時代が進んで、効率の良い投げ方が世の中に広まった分、ワインドアップだったりやたら特徴的な投げ方をする人はだいぶ少なくなったし。その効率の良い投げ方に忠実であればあるほど良い球は投げやすいんだろうけど、あたしにとっては過去の他の投手を参考にしやすいし、呼吸と拍子も読みやすい。ビリオンズの瀬長(せなが)くんなんかがその典型例。

 浅井さんの打ち方を1から作り上げる必要はない。過去に勝負してきた似たような投手を思い出して、細かい違いを洗い出す。その違いを計算に入れて、打ち方をイメージする。そのイメージをもっと鮮明にできれば……


「ファール!」

「高めまっすぐ!これはバックネットへ!」


 今の球なんかも初っ端からホームランにできるはずなんだけどね。


(データ通り、外を攻めまくった後でも高めへのこの反応の良さ。インハイ・アウトローの黄金パターンは使いにくそうだな)

(どうします、小池(こいけ)さん?)

(ここは……)

(いきなりそれですか……まぁ良いですけど)


 !!身体の近く……いや、これは……!


「「!!?」」

「ファール!」

「切れました!インコース難しい球!」

「インスラですか……見逃せばおそらくストライク。よく当てましたねぇ」


「ねばねば」

「うーんこの"絶対三振しないウーマン"」


 スライダー自体も良いだけじゃなく、内外両方使えるんだね……ちょっと厄介。


(ちょっと勘弁してよ……今の初見で当てちゃうの?)

(右で.360打ったのは伊達じゃないな……そして出塁率5割オーバー、つまりエラーの分を差し引いたとしてもアウトになる確率よりセーフになる確率の方が高いという事。インコース捌きが異常に上手いのもデータ通りだが、ジェネラルズの神結(かみゆい)さんレベルか、下手するとそれ以上……)


 一応これも頭に入れたけど、今のもあるとなると……


「外打って!これは高く上がりました!」


「「「「「おおおおお!!!」」」」」


 いや、これは流石に……


「アウト!」

「センター小林(こばやし)、下がって捕りました!二塁ランナースタート!」

「セーフ!」

「三塁セーフ!赤猫(あかねこ)、ここは積極的な走塁を魅せました!」


「ええでええで(しずか)たそ!」

「まだいけるやん!」

「うーん、あと一二伸びあったらなぁ……」


 インコースのあの球が頭にあった分、外のまっすぐを捉え損ねた。せっかくちょっと浮いてくれたのに。


「これでツーアウト三塁!浅井、第1打席の月出里は151km/hまっすぐで打ち取りました!」

(まぁ想定通りではあるけど……ウチの球場の狭さ考えたらちょっと肝が冷えるわねぇ)

(月出里との次以降の勝負はその時になってから考えれば良い)

「4番レフト、十握(とつか)。背番号34」

(まだまだピンチは続いてるんだしな)

「なおもチャンスが続きますバニーズ。打席にはプロ3年目、バニーズが誇る左の最強打者・十握三四郎(とつかさんしろう)。昨シーズンは首位打者、今シーズンも打撃主要部門で月出里に次ぐ好成績。高い打率でパンチ力もあります」

("左の"は余計だよねぇ……今年は月出里さんに負けちゃったからしょうがないけど)


「「「「「346!346!346!346!」」」」」


 まぁ今はとにかく先制が最優先。最低限のことはやったし、後は十握さんや金剛さんに任せるしかない。


「ボール!」

「ボール!」

「!ストレート打って……」

「ファール!」

「ファールボールにご注意ください」

「切れました!ライトファールゾーンに入っていきました」


(まっすぐにも結構自信があるんだけど、さっきから普通に当ててくるのが嫌よねぇ)

(それは仕方ない。バニーズは上位打線だけなら間違いなく12球団トップ。立ち上がりが関門になるのは想定通り)

(!カットボール、でも織り込み済み……!!)

「引っ張って!一二塁間痛烈!!」


 よし、抜ける……


「!いや、セカンド捕った!!」


「「「「「おおおおお!!!」」」」」


「アウト!」

「一塁送球アウト!セカンド鉄炮塚(てっぽうづか)、ファインプレー!!」


「「「「「ハナちゃあああん!!!」」」」」


 うーん、さすが……トリプルスリー3回のインパクトでバッティングと脚ばっかりに目が行きがちだけど……


((はな)さんな守備指標でん同じセカンドん名手・千石(せんごく)さんとほとんど変わらん。特に一二塁間には強か。まさに"史上最強セカンド"たい)

「運が良かっただけですね。すみません……」

「ドンマイドンマイ〜。そういうのも込みで『打率3割で一流』って言われてるんやから。ナイピーやったで、カホちゃん♪」


 初回のピンチを乗り切って、意気揚々とベンチへ引き上げるペンギンズナイン。

 やっぱりリーグの格差云々なんてアテにならないね。普通に手強い。

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