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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百四十四話 東と西の怪童(5/5)

「まもなくプレイボールとなります、TCBC帝国シリーズ2021、西東京雁芒(にしとうきょうかりのぎ)ペンギンズ対、天王寺三条(てんのうじさんじょう)バニーズ。プロ野球2021年レギュラーシーズンは両リーグともに前年度まで2年連続最下位のチームが優勝。しかもCSでも優勝チームがともにストレート勝ちして帝国シリーズ進出。実にドラマに溢れたシーズンとなりました」


「プレイボール!」

「1回の表、バニーズの攻撃。1番センター、赤猫(あかねこ)。背番号53」


「先攻バニーズの先頭打者はプロ13年目のベテラン、赤猫閑(あかねこしずか)。今シーズンは開幕から長らく二軍生活が続いておりましたが、最終盤まで続いた優勝争いの中、非常に頼もしい戦力として復帰してきました。CSでも3戦目には逆転サヨナラとなるタイムリーヒットを放つなど、好調を維持しております」


「「「「「(しずか)たそー!!!」」」」」


 ネクストに向かう準備を最低限済ませてから、ベンチからマウンドを見つめる。別リーグの投手でも、交流戦があるから対戦経験がある場合もあるけど、今日の向こうの先発に関しては完全初見。

 あたしだっていつも好きで最初の方の打席を捨ててるわけじゃないし、クリーンナップである以上、最初からチャンスの場面だってあり得る。ネクストでもやることは同じだけど、今からでもなるべく球筋を目に焼き付ける。


「ボール!」

「高め、浮いてしまいましたが初球から148km/h出ました!」

(話に聞いてた通り、相当速いわね……)

「ペンギンズの()えあるホーム開幕第1戦の先発を任されたのはプロ2年目、浅井佳穂(あさいかほ)。まだ20歳という若い投手です。高校2年春から4期連続でチームを嚆矢園(こうしえん)に導き、U18では7回18奪三振という快投も披露。2019年ドラフトでは、あの大神小次郎(おおがみこじろう)を同年代に擁しながらも3球団競合1位指名。今シーズンは18試合に登板し、チーム最多タイとなる9勝を挙げ、防御率も3.26。規定には未達となりましたが、すでにチームにとって欠かせない存在となっております」


「「「「「かほたそー!!!」」」」」

「頼むぞ"未来の大エース"!」

「今日こそリコの連敗阻止や!」


 結構前からよく言われてる、リプとリコのレベル差。その根拠としてよく挙げられるのは、メジャーで活躍してる選手の数とか、国際大会への貢献度とか、投手の平均球速とか、交流戦や帝シリの戦績とか。

 特に帝シリでは、去年まで4年連続でヴァルチャーズが無双してただけじゃなく、それも含めて8年連続でリプの代表が帝国一を獲ってる。特にここ3年間のリコの代表の負けっぷりは酷いもので、今は12連敗中。そして2年連続でリコの代表がストレート負けしてる状況。そこは確かに向こうの人達が燃えるのも無理のない話だと思う。

 と言っても、結局はあたし達バニーズとはあんまり関係のなかったところで起こったこと。何ならあたしは小さい頃からチーム単位じゃなく選手単位でプロ野球を観てたから、リーグの格差なんて気にしてもいない。リコにだって"メスゴリラ師匠"こと(すばる)さんとか、"とっつぁん坊や"こと神結(かみゆい)さんとか、すごい人はいくらでもいるし。

 "リプの代表"とかそんな意識なんて正直あんまりない。『連勝を伸ばす』とかそんなのを目標にするつもりもない。ただ目の前の相手に勝って一番になるだけ。それですみちゃんを立てて儲けさせる。それだけの話。


「ファール!」

「ファールボールにご注意ください」

「ここもまっすぐ!レフト方向、スタンドに入っていきました!」

(ストレートに振り遅れてない……)

(だが序盤からあまり複雑な配球をして浅井のリズムを崩したくないし、向こうの打者に他の球種まで慣れさせるのもよろしくない。何より赤猫さんは最悪でも一発はほぼない。ここはセオリー通り、最低でも追い込むまでは高めのまっすぐで圧していくぞ)


 先発で150近いまっすぐを連発。確かにそれだけでも相当なもの。向こうのバッテリーもまだこれで圧していくつもりっぽい。だけど……


「!ピッチャーの横……抜けていきましたセンター前!!」


「「「「「おおおおお!!!」」」」」


「ノーアウト一塁!赤猫、今日も第1打席からしっかり仕事を果たしました!」

(ちょっと真ん中に寄っただけでこれか……)

(話に聞いてた通り、簡単に打ち返してくるなぁ……)


 流石の閑さん。お手本通りのセンター返し。


「2番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」

「ここで打席にはプロ7年目の徳田火織(とくだかおり)。2年連続打率3割のアベレージヒッターで、盗塁の数もチーム2位の14。グラブ捌きにも定評があります」


「「「「「かおりん!かおりん!かおりん!かおりん!」」」」」


「ストライーク!」

「外高め!まっすぐ見送ってストライク!」

(今年のバニーズはバントはあまり多くない。ここもバントの気配はなし……)

(徳田くん。いつも通りで僕らは勝てるんだ。自信を持って振ると良い)


 うーん、ここまでまっすぐだけ。せっかくネクストに入ったんだし、できれば1球くらい他の球も視ておきたい。


(!?食い込んだ……)


 ……カットボールかな?


「引っ掛けた!これはファースト方向、高いバウンド。ファースト前進……」

「アウト!」

「ベースカバーに入った浅井、競走になりましたがアウト!しかし一塁ランナーは進んでワンナウト二塁!バニーズ、初回からチャンスを作りました!」

(ファール打たせたかったんだけどなぁ。これももう少し内に食い込んでたら……)


「ナイス最低限!」

「大舞台でもちゃんとやれるやんけ!」

「もうあの暗黒バニーズはないんやなって……(感涙)」


 ある意味、懸念してた通りの展開。でも、期待してた通りでもある。あの歌舞伎野郎に目にものを見せるにはちょうど良い機会。


「3番サード、月出里(すだち)。背番号25」


「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」


「大歓声の中、打席に向かいます。今日3番でスタメン出場となりましたプロ4年目の若き天才スラッガー・月出里逢(すだちあい)!今シーズンはあと一歩のところでJPB史上初の六冠王を逃してしまいましたが、打率.360で首位打者、最多安打、最多盗塁、最高出塁率に加え、ホームランと打点でもリーグ2位。圧巻の成績でチームを25年ぶりのリーグ優勝へ導きました。CSでも勝負強いバッティングでストレート勝ちに大きく貢献」


「文字通り『あと一歩』だったんだよなぁ……」

「それ以上いけない(良心)」


「また、この舞台で相対するペンギンズの猪戸(ししど)とは誕生日が1ヶ月違いの同年代。そして両者ともに、かつて帝国球界で"怪童"と称された東雲広(しののめひろし)と同様にサードを守りつつ、チームの最強打者として打線を牽引し続けてきました。帝国一を勝ち取るのは"東の怪童"を擁するペンギンズか、"西の怪童"を擁するバニーズか……」


 あたしは埼玉っ子で猪戸くんは熊本の人だから逆のような気もするけど、どのみちそんなのはどうだって良い。あたしが目指すのは"史上最強のスラッガー"。いくら歌舞伎野郎でも、最後の最後はそうやって同じ"怪童"として並び立つことだって許すわけにはいかない。

 絶対に勝つ。バニーズだって勝たせるし、あたしだって勝つ。

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