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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百四十四話 東と西の怪童(2/?)

風刃(かざと)さん、いつでも大丈夫ですよ」

「あざっす!そんじゃ、いっきまーっす!」

「ナイスボール!」

「その調子で何球かお願いします!」

「うっす!」

(……!変化球を交えるようになってきてから少し腕の振りが横振りに寄ってきてる……)

「あ、風刃さん……」

「んー、ちょっと腕の振りが横振りになっちゃってるかなぁ……?」

「!?」

「どうっすか、梨木さん?」

「あ、はい。そうです……」

「あとカーブはもうちょっとリリースのタイミングを遅らせて……」

「…………」

「こんな感じでどうっすか?」

「はい……ベストコンディションにほぼ近い状態ですね……」

「いやぁ、助かりましたよ!身体の動きは大体視えてるんすけど、自分の感覚だけだとちょっと不安なんすよねぇ」


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「あ。その機械、バッティングも分析できるんですね」

「はい。モーションの分析なので投球でもスイングでも問題ありません。バッターの場合はより速い打球速度を生み出したり、理想的な角度……まぁ最近の言葉で言うところのバレル率をより高められるアプローチをバッターそれぞれに合う形で提案していけたらと思います」

「……要するに良い感じの打球をいっぱい打てるようになったらそれで良いんですよね?」

「はい。そのためにもまずはモデルデータを多く取りたいところですね。データの母数が多いほど、再現すべきモーションの解像度も上がっていきます」

「まぁデータを取る分にはいくらでも取ってもらって構いませんよ」

「ありがとうございます」

「次、月出里(すだち)!」

優輝(ゆうき)、今日は実戦想定でなるべく変則的にお願いできる?」

「OK」

(……素振りやトスバッティングなどの練習だとモーションのブレが少なく、しっかり基本を固められてるような感じだったけど、フリーバッティングだと意外と崩して打つんだな。そのせいかあまり強い打球が飛ばせてない……)

「あ、何となくわかってきたかも」

「?……!!?」

「ナイバッチ!」

(打球速度177km/h……モーションは固めていた基本とは違うのに、結果としてスイングスピードも打球速度も普段通りの水準)

「おおおおお!!!」

(今度は柵越え……)

「優輝、もう慣れてきちゃったから適当に別の感じで」

「うん。何かどんどん慣れるのが早くなってきてるね……」


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「「「…………」」」


 梨木さんの語るあの2人の逸話に、ただただ唖然とするおれと雨田(あまた)さんと有川(ありかわ)さん。


「風刃さんは自分の動きをまるではたから見てるかのように正確に認識できてしまうから、投球フォームを割と頻繁にアップデートして試行錯誤してるのに、ダメだったらあっという間に元に戻したり。月出里さんは練習だとシンプルでお手本通りの打ち方をするのに、実戦形式だと相手投手の投球スタイルに合わせて打ち方をコロコロ変えて、なのに結果としていつもと変わらない打球速度を生み出して。あの2人にとっては僕らなんてせいぜい"答え合わせのツール"程度にしかならないんですよ。極端な話、何桁の数字であろうが四則演算を一瞬で暗算できるような人間には電卓なんて必要ないのと同じです」


 やっぱりあの2人はそういうことができるから……


「まぁとは言え……僕自身の意地もあるにはありますが、あの2名のような選手しか頂点に立てないということは絶対にないと思ってます。正直な話、同じプロによく"天才"ともてはやされる選手が通算成績だと意外とそこまで傑出してるわけじゃないのと同じように、ピッチングやバッティングの方法に独自性(オリジナリティ)があろうがなかろうが、機材をなぞるように定型的にプレーしようが、選手の優劣というのは結局、より良い結果が出せるかどうかで決まるものだと思いますから」

「……ボクもそう思います」

(と言うかそう思いたい。風刃に勝つためにも……)

(ファン目線では純粋に尊敬しかないんですけどねぇ、あの2人の天才ぶりは……でもワタクシメだって同じいちプロ野球選手ですから……)

「それに、世の中の大体の機材は『人間ができないことをやるもの』じゃなく、あくまで『人間ができなくはないことを簡略化したり時短するためのもの』です。皆さんがこうやって機材を使って方法を見つけ出して結果を出せたということは、機材を使わなくてもその結果を出せる方法に辿り着けた可能性が絶対にあったという証明でもあるんです」


 ……確かにそう。おれが一軍で結果を出せるようになったのは、こうやって梨木さんに分析してもらったからってのは確実にあるけど、それはあくまで『今の自分の一番良い状態をなるべく長く多く再現できるようにする』ためのもの。2年前、伊達(だて)さんに最後に捕ってもらったあの1球みたいに、何か直接的な進化をもたらしたわけじゃない。


「僕はあくまで裏方。小説家は魔王を倒す勇者を(えが)くことはできますが、魔王を直接倒すことはできません。方法はわかっても、方法の実現はできない。チームを勝たせる主体はあくまで選手で、その上で皆さんは優勝したんです。つまりそれに相応しいだけの力を持ってるということ。明日からの帝国シリーズも絶対に勝てると信じてます。頑張ってください!」

「……ありがとうございます!」

(こうやって手柄を立てていずれは球団社長に、と企んでるのは事実だけどね。だけど、いちバニーズファンとして、選手へのリスペクトを欠いて勘違いするつもりはない。僕自身は選手としては二流以下だったのも事実なんだし)


 まだまだ風刃さんには敵わないけど、期待に応えることに関しちゃ誰にも負けない自信がある。

 ……帝都主催のおかげで、お父さんも観に来てくれるらしいし、明後日は尚更絶対に負けられない。


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