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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百四十三話 勝ち切れる強さ(4/?)

******視点:金剛丁一(こんごうていいち)******


「6回の裏、バニーズの攻撃。1番センター、赤猫(あかねこ)。背番号53」


「赤猫さん!頼んますよ!」

「この回畳みかけましょう!」


「ボール!」


「ナイセンナイセン!」

「向こう疲れてきてんぞ!」


 月出里(すだち)のあの一言が引き金になったのか、ベンチメンバー含めて選手の多くが前までの回より熱心に声出ししてる。


「はーい、がんばれがんばれド〇〇ン♪」


 それに対して、当の本人はわざとらしくベンチにもたれかかるように座って、かまぼこをひっくり返したような冷めた目のまま適当な応援。もちろん、この賑々しい球場の中じゃ赤猫さんには届いてないだろうが、ベンチにいる面々は当然認識してる。


「ファール!」


「惜しい惜しい!」

「さすが赤猫さん!」

「OPS、(あい)さん以上は伊達じゃないっす!」


 だからこそ、こういう引き合いに出しつつ、より熱心に。『チームへの貢献具合じゃコイツにだけは負けない』と言わんばかりに。

 ……確かにあの発言は俺にとってもトサカにきたが、結果としてチームの雰囲気が変わったのは確かだな。月出里のこの態度も、あえて『勝負への真剣さ』とかそういうとこでわざと負けにいってるような、そんな気さえもする。


「引っ張って!しかしこれはセカンド捕って一塁へ……」

「アウト!」

「間に合いました!まずはワンナウト!」


「「「「「あああああ……」」」」」


 今日のウチがなかなか点を取れてないのは、月出里がいないのももちろんあるはずだが、赤猫さんが今日全体的に不運なのが大きい。球審の怪しいジャッジに、ギリギリ守備範囲への打球。そのせいで今日は3タコ。今までの揺り戻しと考えれば納得できなくもないが、よりによって今日の試合。


(まぁ今のはそもそもあたしがもうちょっと若かったら内野安打にできてたはずなんだけどね……ほんのわずかな差だけど、それでも得意なことの衰えを実感するのはやっぱり凹むわ)

(俺達だって無抵抗なわけじゃない。ここ最近の赤猫は打球が左方向に偏ってるのは当然把握してるし、パワーそのものは弱いままだから引っ張っても打球のスピードは大したことない。打ち分けを自在にしてくるからシフトで完全にシャットアウトとまではいかんが、期待値を落とすことは十分できる。今日赤猫がノーヒットなのは単なる不運だけではなく、ウチのナインの努力の賜物でもある)


「2番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」


 メンバーの中では比較的冷静な徳田。付き合いの長い分、アイツも月出里の行動に対して察してる部分があるのか……


(逢ちゃんってルーキーの頃もアタシがミスったせいであっくんが打たれてしばらく凹んでた時に、『チームの主力がアタシだから』ってのを露骨にしながらアタシを立ち直らせようとしてたし、良くも悪くも根が悪どいというか、すんごい負けず嫌いなのはわかってる。アレもきっとそういうのが目的。別にアタシ達を見下すのが目的じゃないはず。黒いところも確かにあるけど、優しい子でもあるしね)


 ただ、徳田も今日はまだノーヒット。


(これは外れる……!)

「ストライク!バッターアウト!」

「うぇっ!!?」

「徳田、一塁へ歩きかけましたが見逃し三振ッ!」


「おいィ!?外れとるやろうが!」

「意地んなってとっちゃダメだよ意地んなってとっちゃ!」

「CS伸ばすために勝手なことやってんじゃねーぞ!」


 今日の球審のいい加減さのせいでもあるがな……


「3番指名打者、十握(とつか)。背番号34」

「ツーアウトランナーなし。打席には十握。今日もDHとしてスタメン出場となりましたがここまでノーヒット……!?」


 !!?


「セーフティバント!ピッチャー慌ててチャージしますが……」

「セーフ!」

「一塁セーフ!内野安打です!」

「いやぁ、これは予想してませんでしたねぇ。チームでも特に飛ばす十握ですから、むしろバックは下がり気味……」


「やるやんけ346!」

「いやぁでも一発狙うべきやろ346なら……」

「唯一まともに打てそうな奴やのになぁ……」


(打てる人は俺の後ろにもいる……そうですよね?)


 いつも澄ました顔の十握が俺に向かって一瞬微笑みかける。粋なことをしてくれる。


「4番レフト、金剛(こんごう)。背番号55」


 応えてやらんとな。十握のためにも、そして月出里のためにも。

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