第百四十三話 勝ち切れる強さ(3/?)
******視点:伊達郁雄******
「打ち上げた!しかしこれはセンター前進して……」
「アウト!」
「捕りました!これでスリーアウトチェンジ!バニーズ、この回も無得点!」
「淡白すぎる……」
「これもう(どうやって点取るか)わかんねぇな」
5回まで得点ならず……覚悟はしてたけどね。
一応得点圏まで進んだ回もあったけど、不運な当たりもあってなかなかホームまでが遠い。
「6回の表、アルバトロスの攻撃。8番サード、柿原。背番号7」
まぁそんな中でも、百々(どど)くんは頑張ってくれてる。
「三遊間!これは抜けましたレフト前!」
もちろん、ここまでパーフェクトってわけじゃないけど……
「バントした!しかしこれはキャッチャー捕って……二塁送球!」
「アウト!」
「一塁は……」
「セーフ!」
「一塁はセーフ!しかしバント失敗!ランナー入れ替わる形でワンナウト一塁!」
「ええぞ幸貴!」
「攻撃捨ててるんやから防御くらいはな……」
「1番センター、高座。背番号4」
月出里くん以外で守備重視の編成にしたから、この辺は想定通り。
「引っ張ってこれは鋭い当たり!……いや、サード跳んで……!」
「アウト!」
「サードライナー!宇井、捕りましたファインプレー!」
「「「「「おおおおおおおおおお!!!」」」」」
「今のよう届いたな……」
「ちょうちょもジャンプ力エグいけど、そもそもあけみん身体がクソデカいからな」
(このくらい捕れなきゃ、リリィさんや相模さんより優先してもらったのに申し訳ないっすよね)
今年はほぼほぼショートでの起用だったけど、宇井くんもしっかりサードを守ってくれてる。
ただやっぱり高座くんは要警戒だね。今年初めてフル出場したみたいだけど、この時期になってもパフォーマンスがあまり落ちてるようには見えない。本当に怪我ばっかりするだけで、体力自体は十分ということか……
「ストライク!バッターアウト!」
「見逃し三振ッ!外いっぱい、手が出ませんでした!これでスリーアウトチェンジ!0-0、両軍無得点のまま6回の裏に入ります!」
ちょうどのこの回は赤猫くんから。
もちろん、選手達を信じてはいるし、守りではちゃんと実力を発揮できてる。ここは……
「タイム!」
「ここでバニーズナイン、ベンチ前で円陣を組みます」
「みんな、ここまでよく守ってくれてるね。これで向こうはこのCSファイナルステージで15イニング連続無得点。風刃くんや百々くんの好投ももちろんあるけど、バックの支えもあってこそだと思ってる。今日もとにかく1点、1点だけでも取りにいこう!」
「「「「「……ハイ!!!」」」」」
……ちょっと打線を暗に責めてるようにも聞こえるか。
「今日の向こうの先発の駒形くんはかなり調子が良いけど、フォークの制球だけはあまり上手くいってないように見える。追い込まれてもまだ粘れるから、狙い球を絞って自信を持ってスイングしていこう!」
「「「「「ハイ!!!」」」」」
「よし、それじゃあ「あ、あたしからも良いですか?」
「!?月出里くん……?」
(((((え……?)))))
珍しい。こういうので月出里くんが自分から出張ってくるなんて。いつもこういう団体行動は無難に乗り切るタイプなのに。選手達もその珍しさからか、逆に僕の時以上に、続く言葉を待っているように見える。
「んー、まぁ何というか……無理そうだったらあたしが打ちますんで大丈夫ですよ」
「「「「「……!!!」」」」」
えぇ……
(コイツ……!)
(今のは酷いっすよ……)
(流石の逢ちゃんでも、ちょっと聞き捨てならないわね……)
(『私達じゃどうせ打てっこない』、『怪我してる自分の方がマシ』とでも言いたんでしょうか……?)
(同じ振旗コーチに教えてもらった者同士だから、逢ちゃんがすごいバッターになったのは素直に嬉しいと思ってるけど、そういうのはちょっと違うんじゃないかな……?)
月出里くんの冷めた態度も相まって、実に攻撃的な一言。せっかくさっきその辺気を遣って発言したのに……
ウチのチームは2年前に色々不祥事があったけど、逆にそのおかげで問題のある選手が減って、主力の子達も全体的におとなしい子揃いになった。でも流石に今のは……
いくらおとなしい子揃いと言ってもプロ野球選手なんだから、プロに入るまではほとんどの子がチームの4番だったりエースだったりした野球エリート。月出里くんが今年、ほとんどの打撃タイトルを独占して、そのおかげで優勝できた部分はあるにしても、選手個人としては色々思う部分もあって、そういうのをチームの協調とかを優先してここまで抑えてきたんだと思う。自分達もここまで打ててないことに負い目があるせいか余計に後ろ向きにその言葉を受け止めて、明らかにみんな怒気を放ってる。




