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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
912/1150

第百四十話 今宵も月が輝いてる(6/?)

******視点:三条菫子(さんじょうすみれこ)******


 ゲームはお互いに無得点のまま中盤に進行。


「4回の裏、ウッドペッカーズの攻撃。3番セカンド、琴張(ことはり)。背番号3」


 ウッドペッカーズ打線の中で特に厄介なのはこの琴張と、次の鳴海(なるみ)。どちらも今年は打率こそ2割中盤に留まってるけど、四球の数はどちらも90以上で、(あい)に次ぐリーグ2位と3位。そしてどちらも20本前後のホームランを打ってて、鳴海の方は現状打点王でもある。

 ただ、この2人の打線の中での傑出度はウチの逢と十握(とつか)ほどじゃない。上位打線と下位打線で打者の格差が大きめなウチの打線とは対照的に、ウッドペッカーズ打線は1番から9番まで、そこまで大きな格差はない。

 投手目線だと、どちらかと言うとそういう切れ目のない打線の方が面倒。強打者は最悪歩かせ、下位打線はギア抑えてイニング消化、みたいな感じのペース配分がしづらいし、失投のリスクも考えるとね。


「ストライク!バッターアウト!」

「ストライク!バッターアウト!」

「これはセカンド追いついて……」

「アウト!」

「一塁アウト!スリーアウトチェンジ!風刃、この回も無失点!」


「「「「「風刃くんマジエース!!!」」」」」


「サンキュー!」


 山場をあっさり乗り越えて、黄色い歓声に応えながら意気揚々とベンチに戻る風刃。

 まぁ風刃レベルにもなれば、よほどの相手や状況でもない限り、打者との駆け引きとか抜きに大体が自分との勝負でしょうね。相手打線が最初から最後まで平均的に打てるから、とりあえず失投はしないようにって。


 ……バッティングというのは、『打者側が純粋に打者としてどれだけ優れているか』とか、『投手と打者の相性』とかよりも、『その打席で投手の失投が上手く巡ってくるか』の方が結果に差を生み出しやすい。たとえ同じ投手を相手にしても、リーグでも指折りのスラッガーが凡退したのに、下位打線の無名の打者がホームラン、なんてことも普通に起こる。投手の視点に立てば、打者は自分の打者としての序列(レベル)に関係なく、投手から安打の機会を恵んでもらってると言えなくもない。

 ただもちろん、そういう巡り合わせの差が如実に(あらわ)れるのは短期決戦。試合を多く重ねていけば、統計的に失投の機会は大体平等と考えられる。一応、投手は強打者と勝負する際にギアを上げたりもするから、その辺はある程度考慮に入れる必要はあるけど、『ギアを急に上げることでリズムが狂って失投』というのもあり得る。どんな工夫をしたって、結局は人間同士の勝負なんだから、ラッキーとアンラッキーは大なり小なり誰にでもある。


 そう考えると、打者同士の実力の優劣を決める要素というのは、単純に『スイングスピード』だったり『選球眼』だったり『コンタクト能力』だったり、そういうわかりやすいステータスももちろんあるんだろうけど、『失投に対するアプローチ』というのもその1つになるはず。失投はいつ来るか全くわからないものだから、理想的なスイングをいつでも再現できるように準備できてるかとか、逆にコーナーに張ってる時に急にど真ん中に来てもミスショットしないかとかね。

 打線が山あり谷ありよりも切れ目のない方が面倒なのはこれも理由の1つ。例えば前者なら、仮に失投しても下位打線なら大怪我は避けやすいけど、後者だと常に一定以上のリスクが付きまとうわけだから。

 最近のメジャーは低打率ながらもホームランを量産できる奴がズラリと並んでることが多いけど、あれも同じく厄介。投手からすると、失投したら即失点するトラップを満遍なく敷き詰められてるようなもの。『シングルだからまぁ良いや』じゃ済ませられない。


「5回の表、バニーズの攻撃。8番キャッチャー、冬島(ふゆしま)。背番号8」

(さっきは上手いことスライダーに合わせられちゃったけど……)

「これは打ち上げた!キャッチャー仁田(にた)、ファールゾーンで見上げて……」

「アウト!」

「捕りました!今日最速の150km/hのまっすぐでまずはワンナウト!」

(()された……!)

(読みを当てられてもせいぜいシングルかツーベース。"キツツキキラー"だか何だか知らないけど、臆することなんかないわ)


 下位打線でペース重視かと思いきや、ここぞのところで全力ストレート。この辺の嗅覚も流石は百戦錬磨の投手だわ。


「9番ショート、宇井(うい)。背番号24」

(風刃さんがあんな感じだし、とにかく逢さんにチャンスメイクさえできれば勝ち目はあるはずっすけど……下手の考え何とやら。これだけ試合に出してもらえたのに四球が10個くらいしか稼げてない自分があんなビタビタのピッチャーから歩くのなんてキツイし、ここはやっぱり積極的に……)

(打ちたいんでしょ?)

(!!しまった……!)

「初球打ち!しかしこれは三遊間、ボテボテのゴロ……」


 これもおそらくツーシーム。手玉に取られてるわね。


(ちょっと打球が弱すぎる……左でそこそこ脚があるし、ちょっと急いで投げないと……!?)

「ああっと!ショートお手玉!」

「セーフ!」

「一塁間に合いません!記録はショートのエラー!」


 あらま……


「「「「「(アラレ)ェ……」」」」」


(た、助かったっす……一応狙い通り……)


 ……投手にとって想定外の出塁は何も自分の失投だけじゃない。こういうミスも打順に関係なくいつでもいくらでも起こり得ること。でも……


「1番サード、月出里(すだち)。背番号25」

(よりによってここで……!)


 思わず言いたくなるわね。『持ってる』って。

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