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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百四十話 今宵も月が輝いてる(3/?)

******視点:三条菫子(さんじょうすみれこ)******


 10月1日、仙台。今日はいよいよペナントレース最終戦。相手は3位確定のウッドペッカーズ。VIP席を確保して、ポップコーンの特大カップとビールをテーブルに置いて、観戦準備完了。


「1回の表、バニーズの攻撃。1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


「バニーズは今日この試合で2021年ペナントレース143試合を消化します。『強いバニーズ』をスローガンに掲げて挑んだ今シーズンのバニーズはここまで75勝61敗6分、アルバトロスと同率首位。2年連続最下位、6年連続Bクラスから一気に躍動の年となりました。若手の台頭が目立つ中、特に活躍が目覚ましいのはこの月出里と、今日の先発の風刃(かざと)。昨シーズンまでプロ通算本塁打0本から一転、今シーズンは現在、打撃主要タイトル全部門で2位以上、シーズン四球数でも歴代2位。今日の結果次第ではJPB史上初の六冠王、ホームラン2本でトリプルスリーも達成可能です」


 ほんと育ったわね、(あい)。これでもまだまだ明確な弱点を抱えたまま。それを克服して、あの『奇跡』を起こすことができたら、きっと今の数字すら(かす)むくらいの大記録を叩き出すはず。

 ただ、今日の向こうの先発投手はその弱点を抱えたままだと少し苦しい相手。


「ストライーク!」

「初球まっすぐ!低め146km/h見送ってストライク!今日のウッドペッカーズの先発はプロ15年目のベテラン。メジャーの舞台で7年間プレーし、今シーズンから古巣に復帰しました琴吹(ことぶき)よね。今シーズン23試合目の登板。4勝8敗と勝ち星にこそ恵まれていませんが、防御率は3.11。赤坂(あかさか)光橋(みつはし)らと共に先発陣の柱として、チームのAクラス入りに貢献しております」


「よね!そろそろ揺り戻しは終わりだぞ!」

「今日こそ勝てや!」


 琴吹(ことぶき)よね。プロ入り前から綿木祐美(わたきゆみ)と共に"嚆矢園(こうしえん)のスター"として名を馳せ、プロ入り後も2度の沢村賞を始めとする数々のタイトルを獲得。特に2013年は24勝0敗、前人未到の勝率10割での最多勝で、ウッドペッカーズを球団創設以来初のリーグ優勝と帝国一へ導いた。そしてメジャーでも6年連続2桁勝利。名選手を数多く抱える88年世代の中でもトップクラスのスターター。


「ファール!」

「これは一塁線切れました!」

(……一応当てられはするね、やっぱり)


 プロとしての長いキャリア、そして日本に戻ってきたことからもわかる通り、流石に今は全盛期ほどの力はない。


「ファール!」

「これもレフト、スタンドに入りました!」

「ファールボールにご注意ください」

(しつこく低めに……)


 でも、あの制球力は健在。

 琴吹は若い頃からまっすぐの平均球速は上澄みだったけど、ホップ成分だったり球威とかの面では特別飛び抜けてるわけじゃなかった。そのまっすぐと強力な縦スラで力押しするスタイルから、制球と手元で変化する球を駆使する投球を身に付けたことでその才能を開花させた。


「スイングは……」

「ボール!」

「止まってます!」

(チッ、今日はちょっと辛いわね……)


 全盛期に主な武器だったスプリッター。これも見極められたけど、キッチリ低めに投げられてる。

 どんな状況でも当たり前のように理想的なコースに投げ続けられる高い再現性。どんな投手も試合中にいくらかは投げてしまうことになる『打てる球』が、他の投手と比べてずっと少ない。もちろん、無駄な四球も出さない。だから、決して全く打てないわけじゃないけど、出塁を重ねることが難しく、点を失うことも負けることも少ない。『勝利数や勝率は投手の個人的な能力との相関性が小さい』とよく言われるけど、全く無関係じゃない。無敗にも相応の確かな理由は存在する。


「打ち上げた!しかしこれはライト方向、平凡なフライ……」

「アウト!」

「捕りましたワンナウト!」

(ツーシームでゴロを打たせるつもりだったのに、ちゃんとボールの下を叩いてきた……このコースなら比較的安全だってわかってるけど、嫌な感じね)

(やっぱり低めが飛ばない……!)


 逢は今年、ここまで30本近いホームランを放ってるけど、その全てが真ん中から高めの球を打ったもの。低めの球はいまだに1本もホームランにできてない。それが現状の逢の明確な弱点。

 逢としてはあと2本、何とか今日中に打ちたいはず。あのフライ打ちが良い証拠。でも、あの琴吹相手に果たしてそれが叶うか……


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