第百三十九話 命が輝く瞬間(5/?)
「7回の裏、バニーズの攻撃。2番センター、赤猫。背番号53」
「5-3、バニーズのリードのまま7回の裏に入ります。この回の先頭打者は赤猫。シーズン残り4試合で一軍昇格となった最年長野手ですが、ここまで3打数3安打、初回には守備でも魅せております」
後の試合をどうするのかはわからないけど、このまま2番なら、逢ちゃんの出塁率を考えたら多分こんなふうに先頭打者になる機会も少ないと思う。少なくとも初回は絶対そうならないし。
ずっと脚を売りにしてきたから、やっぱり1番……というか先頭打者には愛着がある。前にランナーがいたりするとショートゴロなんかがただの内野ゴロになっちゃうけど、先頭打者なら内野安打に化けることもあり得る。相手としても必然的にランナーなしだからバッターとの勝負だけに集中できる場面だし、先頭打者を出さないようにするのが基本だから球威も配球も本気ってくることが多いけど、それらを含めてもグラウンドを広々と使えて自由な方法で一塁を目指せるっていう点が魅力的。『50cm先に転がしたヒットと、50m先に飛ばしたヒット。この両方が同じヒット一本として扱われることは、野球のルールの最も素晴らしい部分である』って、大昔の偉い人が言ってたようにね。
こんなふうに……!
「!!バントの構え……」
「ストライーク!」
「バットを引きましたが入りましたストライク!」
まぁもちろん、相手だってプロになれるくらいには野球が上手な人達。こんなところでチャージを抜かったりすることはないわよね。
でも、それで十分。あたしとしてもとりあえず相手の動きを見るのが一番の目的だったし、久しぶりに一軍の先頭打者としてこういう駆け引きができるのもなかなか楽しいし。
「ボール!」
「ボール!」
「ナイセンナイセン!」
「昔は出塁率4割近く稼いでたからなぁ閑たそ」
「ホームランほぼ0で盗塁しまくるのにな」
「おいィ!?しっかり入れろや!」
「アヘ単相手にビビってるんじゃねーぞ!」
向こうが言ってるように、このボール先行はあたしが選球眼で稼いだっていうより、勝手に向こうが外したっていうのが大きい。このまま待ってタダで出塁できるならそれがあたしの役割的にも一番良いだろうし、色々と衰えてるあたし個人にとってもありがたい話でもある。
けど……
「!!!外の球打って……三遊間、抜けましたレフト前!!」
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
「これで赤猫は今日4打数4安打!」
「外のスライダー、多分見逃せばボールだったと思いますが、上手く流しましたねぇ。バッティングカウントだったからこそ思い切れた部分もあるかもしれませんが……」
「10割打者とはたまげたなぁ」
「うーん。でもアヘ単なのに今の無理せんでもなぁ……」
「内野ゴロのリスクあってのシングルより見逃して四球の方が安全だったよなぁ」
投球がどの辺りに来るかが何となくわかって、こういう打ち方がたとえボール球でも再現できる今のコンディション。この感覚を失わないためにもできるだけ打ちにいく。シングルばっかりなら尚更、制球がある程度以上の投手はボール球なんて今後なかなか投げてくれないだろうし。それに、いくら上手い流し打ちやカットの再現がバッチリできると言っても、スタミナの消耗で1打席の間にそれを維持し続けられる保証がないから、10球とかそれくらい粘れる自信もないし。
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