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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百三十九話 命が輝く瞬間(1/?)

******視点:赤猫閑(あかねこしずか)******


 9月25日。今日から一軍昇格。久々にサンジョーフィールドで試合前練習。


「あ、赤猫(あかねこ)さん。お疲れ様です」


 この時期に野手陣で一番のベテランが顔を出したってのに、(あい)ちゃんは特に疑問に思ってる感じもなく。


「お疲れ。今年も盗塁王いけそうね」

「ですねぇ。去年の半分くらいしか走ってないんですけど、他の人があんまり走ってないんですよね。赤猫さんがいたら多分無理でしたよ」

「あたしだって多分そんなに走れないわよ。最近はHIVE(ハイブ)だか何だかってののせいかやたらクイック上手いピッチャー多いし、二軍でもそんな感じだったわ」

「あー、確かにそうですね。去年までと比べて隙があんまりないんですよね……」


 ……逢ちゃんが『歳での衰え』に触れずにいてくれるから、あたしも調子を合わせてるけど……


「「「「「…………」」」」」


 みんながみんな、そうとは限らないわよね。


 今日からホーム3連戦……と言っても、いつもみたいに同じ相手とだけってわけじゃなく、1戦目2戦目はウッドペッカーズ、3戦目はビリオンズ。つまりは日程の消化に近い形。そしてそこから3日空けてウッドペッカーズともう1試合やってペナントレース終了の予定。

 例年だったらこの時期はもうとっくにBクラス確定して、若手のお試しとかベテランの引退試合とかを呑気にやれてたけど、今年はおそらく最後の最後まで優勝を争うことになるから、捨てられる試合はもうない。しかもウッドペッカーズはウッドペッカーズで今3位。ヴァルチャーズがまだギリギリAクラス入りの可能性を残してるから、残りの3試合は向こうもお遊びなしの全力でくるはず。

 そんな状況だから、流石の図太いあたしでも、肩身の狭さを感じずにはいられないわね。せっかく前の試合で連敗脱出して、優勝まであと一息ってとこで水を差してしまわないか……


「赤猫くん、ちょっと良いかな?」

「あ、はい」


 伊達(だて)さんに手招きされて、いったんグラウンドから離れる。


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 これまた久しぶりの、サンジョーフィールドの監督室。


「赤猫くん、今日は2番センターでスタメンをお願いするよ」

「……本当に良いんですか?」

「そのために相模(さがみ)くんに降りてもらったからね。秋崎(あきざき)くんは最近疲れてるみたいだからしばらくベンチスタートにしたいし」


 まぁそうなるわよね。ベンチ要員としてなら、サード守れて純粋な脚や肩はあたしより上の相模(チャラオ)くんの方が良いはずだし。


「思いっきりましたね。この時期に」

「CSだけはもう確定してるし、十握(とつか)くんがいない今、外野陣の最適解を模索するって意味でもね。打つ方でも、徳田(とくだ)くんが今年も3割狙えそうだから、1番の月出里(すだち)くんのサポートもありえる2番よりも、十握(とつか)くんの代わりの3番をやってもらいたいし……」

「……『一緒に負け続けてきたあたしや金剛(こんごう)くん達にも見せ場を作りたい』……ってのもありますよね?」

「…………」

「傍目から見てると、『優しい』って言うよりは『甘い』ですよ、伊達さん」

「……月出里くんにも同じようなこと言われたよ」

「あの子らしいですね」

「ははは……」


 伊達さんが現役の頃に優勝できなかったのも、もしかしたらそういう『甘さ』が敗因の一つかもしれない。でも、少なくとも今は……


「まぁでも、使われるからには正解にしてみせますよ。分の悪い賭けであったとしても」

「……月出里くんにも同じようなこと言われたよ」

「あの子らしいですね」

「全くだよ。月出里くんも君も、本当に頼りになる」


 あたし自身のためにも、そういう『甘さ』を勝因にするしかない。本当は『甘さ』じゃなく、『実力』で選ばれたんだってことを後付けするためにも。

 『思い出作り』なんかじゃ終わらない。"優勝受取人"に甘んじるつもりもない。今からでも信頼を取り戻してみせる……!


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