第百三十九話 命が輝く瞬間(1/?)
******視点:赤猫閑******
9月25日。今日から一軍昇格。久々にサンジョーフィールドで試合前練習。
「あ、赤猫さん。お疲れ様です」
この時期に野手陣で一番のベテランが顔を出したってのに、逢ちゃんは特に疑問に思ってる感じもなく。
「お疲れ。今年も盗塁王いけそうね」
「ですねぇ。去年の半分くらいしか走ってないんですけど、他の人があんまり走ってないんですよね。赤猫さんがいたら多分無理でしたよ」
「あたしだって多分そんなに走れないわよ。最近はHIVEだか何だかってののせいかやたらクイック上手いピッチャー多いし、二軍でもそんな感じだったわ」
「あー、確かにそうですね。去年までと比べて隙があんまりないんですよね……」
……逢ちゃんが『歳での衰え』に触れずにいてくれるから、あたしも調子を合わせてるけど……
「「「「「…………」」」」」
みんながみんな、そうとは限らないわよね。
今日からホーム3連戦……と言っても、いつもみたいに同じ相手とだけってわけじゃなく、1戦目2戦目はウッドペッカーズ、3戦目はビリオンズ。つまりは日程の消化に近い形。そしてそこから3日空けてウッドペッカーズともう1試合やってペナントレース終了の予定。
例年だったらこの時期はもうとっくにBクラス確定して、若手のお試しとかベテランの引退試合とかを呑気にやれてたけど、今年はおそらく最後の最後まで優勝を争うことになるから、捨てられる試合はもうない。しかもウッドペッカーズはウッドペッカーズで今3位。ヴァルチャーズがまだギリギリAクラス入りの可能性を残してるから、残りの3試合は向こうもお遊びなしの全力でくるはず。
そんな状況だから、流石の図太いあたしでも、肩身の狭さを感じずにはいられないわね。せっかく前の試合で連敗脱出して、優勝まであと一息ってとこで水を差してしまわないか……
「赤猫くん、ちょっと良いかな?」
「あ、はい」
伊達さんに手招きされて、いったんグラウンドから離れる。
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これまた久しぶりの、サンジョーフィールドの監督室。
「赤猫くん、今日は2番センターでスタメンをお願いするよ」
「……本当に良いんですか?」
「そのために相模くんに降りてもらったからね。秋崎くんは最近疲れてるみたいだからしばらくベンチスタートにしたいし」
まぁそうなるわよね。ベンチ要員としてなら、サード守れて純粋な脚や肩はあたしより上の相模くんの方が良いはずだし。
「思いっきりましたね。この時期に」
「CSだけはもう確定してるし、十握くんがいない今、外野陣の最適解を模索するって意味でもね。打つ方でも、徳田くんが今年も3割狙えそうだから、1番の月出里くんのサポートもありえる2番よりも、十握くんの代わりの3番をやってもらいたいし……」
「……『一緒に負け続けてきたあたしや金剛くん達にも見せ場を作りたい』……ってのもありますよね?」
「…………」
「傍目から見てると、『優しい』って言うよりは『甘い』ですよ、伊達さん」
「……月出里くんにも同じようなこと言われたよ」
「あの子らしいですね」
「ははは……」
伊達さんが現役の頃に優勝できなかったのも、もしかしたらそういう『甘さ』が敗因の一つかもしれない。でも、少なくとも今は……
「まぁでも、使われるからには正解にしてみせますよ。分の悪い賭けであったとしても」
「……月出里くんにも同じようなこと言われたよ」
「あの子らしいですね」
「全くだよ。月出里くんも君も、本当に頼りになる」
あたし自身のためにも、そういう『甘さ』を勝因にするしかない。本当は『甘さ』じゃなく、『実力』で選ばれたんだってことを後付けするためにも。
『思い出作り』なんかじゃ終わらない。"優勝受取人"に甘んじるつもりもない。今からでも信頼を取り戻してみせる……!
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