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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
887/1133

第百三十七話 やっぱお前にゃ敵わねぇ(5/?)

******視点:氷室篤斗(ひむろあつと)******


「8回の裏、エペタムズの攻撃。1番センター、小太刀(こだち)。背番号26」

氷室(ひむろ)、このまま8回のマウンドにも上がります。ここまで7回無失点、10奪三振1四球で被安打2、球数84球。熾烈を極める優勝争いの中、素晴らしいピッチングを続けております」


「よっしゃ!このまま完封や!!」

「氷室くん、頑張って!」

「やっぱり"エース"は氷室くんやで!」


 ……今年の俺だと、いつもなら大体お役御免の頃。やっぱりここまで来ると、あの夏の決勝みたいに最後までマウンドにいたい。


(3点差、とにかくランナーは溜めて……いや、今日の氷室殿は無駄球を投げてこないはず……!?)

「ストライーク!」

「真ん中空振り!まずはカーブから入ってきました!」

(しまった……!)


 少々リスキーながら、早めにカウントを稼げるこういう配球。終盤でも気兼ねなくできるのは、やっぱりさっきの月出里(すだち)の一発がデケェ。


「ストライク!バッターアウト!!」

「落とした!空振り三振!!」


「何やってんだ恵深(めぐみ)ィ!?」

「ほとんどボール球だべ!?」

「何でもかんでも振ってんじゃねぇ!」


 単純に数字的にも優位に立ったが、それ以上に焦りと迷い。まっすぐと落ちる球の配球なんて、割り切るのが一番シンプルな攻略法だってのに、それができなくなっちまってる。


「打ち上げた!セカンド見上げて……」

「アウト!」

「これも打ち上げた!キャッチャーファールグラウンド……」

「アウト!」

「捕りましたスリーアウトチェンジ!氷室、この回はわずか7球で三者凡退に切って取りました!」


「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」

「マジ完封あるで!」

「っていうか連敗脱出や!」


 おかげで楽なもの。疲れが出て、その分感覚も狂いやすいタイミングだから、その辺にだけ気を遣えるのはマジで助かる。


「9回の表、バニーズの攻撃。5番レフト、金剛(こんごう)。背番号55」


 そしてそれはきっと、野手陣も同じはず。


「センターの前、クリーンヒット!」


「ええでええで!」

「さっき打てやそれ!」


「逆方向!これもライトの前!天野(あまの)、ようやく1本が出ました!2連打でノーアウト一塁二塁!」

「7番センター、秋崎(あきざき)。背番号45」


 連敗中なのに絶対に負けられない状況、いつも通りやってるはずなのに焦りと迷いで微妙に狂う感覚。そういうのがなくなりつつある。


「ここはバントの構え……」

「ファール!」

「ボール!」

「ファール!」

「これもファールゾーンへ!」

(……送れないとなると、仕方ないか……)

「打ち上げた!これはレフト方向、平凡なフライ……」

「アウト!」


「うーんこの」

「ゲロ甘やん今の……」

「このおっぱい全然ぷるんぷるんしてへんねんけど……」


 まぁ流石に、ほぼ1年戦い続けた疲れはどうしようもねぇわな。

 秋崎も今年ここまでよくやってるが、ここ最近は明らかにスイングが鈍ってる。元々多かった空振りがますます増えて、今みたいにせっかく捉えてもイマイチ飛ばねぇ。バントも別にそこまで下手じゃねぇはずなのに、自信が出ないのか失敗続き。

 純粋に試合の数もそうだが、アイツは良い奴だからファンサも手を抜かねぇんだよな。


「ドンマイドンマイ!」

「もうちょっとでシーズン終わりや!」

「CSまでの間にしっかり身体休めーや!」


 まぁ逆にそのおかげで、こうやって擁護する声も多い。単純に実力もあるんだし、来年に生かせば良い。


「!!左中間、長打コース!」


「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」


「セーフ!」

「二塁ランナーホームイン!4-0!バニーズ、さらに追加点!」


 昨日までの残塁祭りが嘘のように繋がる打線。これもまたきっと、アイツの力。


「ショート見上げて……」

「アウト!」

「!!センター下がって……!」

「アウトォォォ!!!」

「フェンス際、捕りましたスリーアウトチェンジ!」

(くそっ、ほんの少しこすった……!)


「ああっ、惜しい……」

「ドンマイドンマイちょうちょ!」


 当の本人も、あともう一伸びで2打席連続……全く、大したもんだぜ月出里。やっぱお前にゃ敵わねぇ。ほんと、何でお前みたいなのが、プロに入るまで全く音沙汰がなかったんだか……

 こんなにすげぇんだから、どうやったって『お前のせい』にはできそうもないが、お前がいればいつだって『お前のおかげ』で勝てそうな気がする。


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