第百三十七話 やっぱお前にゃ敵わねぇ(2/?)
******視点:徳田火織******
すごいよあっくん。やっぱりあっくんはすごいよ。
「ボール!」
「まずは低め!外れました!」
『樹神さんがメジャーで稼ぎまくってるのを観たから』とかそんな理由で野球始めて、『才能あるから嚆矢園云々にこだわらなくったってプロになれる』って気持ちで本当にプロになって、余計に自惚れてプロでも練習サボりまくって。
「ファール!」
そんな感じだったから、アタシは選手個人として大成することばっかり考えてて、『チームを勝たせる』って意識がロクにないままここまで来ちゃった。ぶっちゃけ去年までのバニーズ見てたらそんなことできそうもなかったし、それでも稼げるのならそれで良かったし。
今はもちろん優勝を目指しちゃいるけど、それもある種の義務感とか義理とか、そんなのがどうしても先にくる。去年色々やらかして、それでも球団はアタシのことを見離さずにいてくれて、今年もこうやって大体スタメンで使ってくれてるからっていうのが。
「打ち上げた!ファースト、ファールゾーンで見上げましたが……」
「ファール!」
「力むなかおりん!」
「ノーアウト二塁やぞ!繋げ繋げ!」
「旦那勝たせたれや人妻!」
……アタシなんて、どこまでいったってただの1人の野手。"恩返しのためにチームを優勝に導いたヒーロー"とか、そんな柄にもないもの、目指すもんじゃないよね。せっかくあっくんが投げてるんだから、今まで通りで良いじゃん。
「!!!これも右中間!!」
『チームが優勝しようがすまいが、あっくんを勝たせてみっくんのミルク代を稼ぐ』。それだけで良いじゃん。何で今までガチガチになってたんだか。
「うおおおおお!!!」
「センター飛びついて……捕れません!これも長打コース!!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」
「セーフ!」
「二塁ランナーホームイン!」
でも、だからこそ今日ばっかりは"逢ちゃんの次くらいに役に立つ奴"で終わる気はないよ。
「!徳田、二塁蹴って三塁へ!!」
(なめんな……!)
「セエェェェフ!!!」
「三塁セーフ!徳田、先制タイムリースリーベースヒット!!1-0、ようやく試合が動き始めました!!!」
「「「「「かおりん!かおりん!」」」」」
「ぐぬぬ……よりによってアイツが……」
「で、でも流石に今日は勝たなきいけないし……」
『逢ちゃんがこのチームの主役』。積み上げた数字から言ってもそれを否定する気はないけど、今日ばっかりはね。
「3番ライト、松村。背番号4」
(ヒーローに……なり損ねてしまいましたね。でも、逆に肩の荷が降りた)
「ファール!」
(せっかく徳田さんが三塁まで突っ込んでくれたんですから、"十握さんの代わり"に徹する必要はない。私にできることを……!)
「引っ掛けた!これは一二塁間、高いバウンドのゴロ……」
それで十分だよ、桐生くん。
「セーフ!」
「三塁ランナーホームイン!2-0!!」
「アウト!」
「一塁はアウト!」
「ナイス最低限!」
「こういうので良いんだよこういうので」
「残塁祭り終了や!」
「ナイバッチ!」
「すげーぞ火織!サンキュー!!」
「えへへ……」
アウトになった桐生くんと一緒にベンチへ戻る。ここ最近、みんなアタシと同じでガッチガチだったけど、ようやく雰囲気が勝ちまくってた頃みたいになってきた。
いつも真面目に責任を背負いながらチームを勝たせてるあっくんと違って個人的な都合ばっかりのアタシだけど、そんな自分勝手がこうやってチームを元に戻せたんだから、それで良いよね?




