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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
883/1137

第百三十七話 やっぱお前にゃ敵わねぇ(1/?)

******視点:伊達郁雄(だていくお)******


「ストライク!バッターアウト!!」

「三振ッ!最後は高め、今日最速の150km/hでスリーアウトチェンジ!氷室(ひむろ)、この回も打者3人、毎回の奪三振!5回の裏の攻撃終了、0-0、投手戦のまま6回の攻防に入ります!」


 うーん、今日の氷室くんはほんとに良いね……何より良いのはあの腕の振り。

 腕の振りは単に球威を上げるだけではなく、どの球種もその強い腕の振りで投げることで、打者側の球種の判別を困難にする効果もある。ただでさえまっすぐとスプリットの組み合わせは見分けるのが難しいのに、さらに一部の情報を隠蔽(マスク)することで、その効果をより高められる。

 もちろん、腕の振りは強くするよう意識すればするほど、細かい制球は難しくなる。その辺のメリット・デメリットはトレードオフ。ただ、氷室くん自身は元々制球に関してはコマンドはともかく、ストライクゾーンに通すのにはあまり苦労しないタイプ。氷室くんが一軍に定着してからは冬島(ふゆしま)くんがメインで受けるようになったけど、その前は主に僕が捕ってたから、その辺は保証できる。


 ストライクゾーンの高低内外の4分割を捨てて、高低の2分割でまっすぐとスプリットを投げ分けるのを優先する。無駄なランナーを極力出さぬよう、そしてボールゾーンに落ちるスプリットの試行回数を増やすために、それ以外ではストライクを積極的に取りにいって、仮に甘いところにいけば、フォーシームの球威で誤魔化す。内外の投げ分けが大事なスライダーやツーシームを今日ほとんど投げてないのもきっとそれと、まっすぐとスプリットの再現性の維持のため。今の氷室くんにとっては、おそらくこれが最も期待値の高い投球だろうね。


「6回の表、バニーズの攻撃。1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


 ただ、この投球スタイルは『期待値』こそ高いけど、突然の被弾による失点の『確率』はどうしても付きまとう。実際、今日は三振もかなり()れてるけど、他はフライアウトが多い。結果だけ見るとほぼ完璧に見えるけど、実際はかなり綱渡りなところがある。ロクに点が取れない今のウチにとっては噛み合ってない部分もある。三振の多さでエラーの確率を減らせてるとこはあるけどね。

 でも、逆にまとまった点さえ取れれば、勝てる確率はグッと高くなる。月出里くんから始まるこの回はきっと今日の勝負所。


「この回からはマリスがマウンドに上がります。今シーズン40試合以上に登板し、クローザーも代理で務めるなど、エペタムズの投手リレーを支えております」


 今日の月出里くんはツキがややないとは言え、流石に3巡目。勝ちにいくならそりゃ代えるよね。


「ストライーク!」

「低め!見送ってストライク!149km/h出ました!」

「ちょっと沈んでますね」

(マリスの持ち味は150後半まで出せるツーシーム。あまり三振は期待できないけど、安定感の高いグラウンドボールピッチャー。最初から三振がほぼ期待できない、比較的低めを苦手としてる月出里相手ならうってつけねェ)

(…………)


 一見すると相性が悪そうな相手。けど……


(見え見えなんだよ……!)

「!!!右中間!長打コース!!」


「「「「「おおおおお!!!」」」」」


「セーフ!」

「打ったバッターは二塁へ!月出里、ツーベース!」


 流石の月出里くん。投手が代わったけど、さっきのわずかな打ち損じを修正して外狙い。浮いたスライダーを逃さなかったね。

 ……月出里くんがこういう正念場に強いのは、去年のオリンピック以前に、入団当初からよく知ってる。氷室くんもローテの都合で今日登板になったから狙ったわけじゃないけど、嚆矢園(こうしえん)優勝投手。


「2番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」


 今日の試合はきっとバニーズにとって、優勝するための、そして『黄金時代』を迎えるための大きな試練。月出里くんや氷室くん以外も"頂点に立ち向かえる者"、"頂点を知る者"になれるかどうか。

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