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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百三十六話 頂点を知る者(3/?)

「ピッチャー返し!弾いたがセカンド捕った!」


「「「「「おおっ!!!」」」」」


「一塁送球!」

「アウト!」

「一塁アウト!徳田(とくだ)、好プレー!これでスリーアウトチェンジ!」


 2回も打者3人……


「サンキュー火織(かおり)!」

「あっくんも今日良い感じじゃん!」


「安心安全の人妻」

「「「「「ぐぬぬ……」」」」」

「っていうか打線があんなんじゃ1点も許せへんわな」


 ただ、氷室(ひむろ)だって決して無敵というわけじゃない。この回、少なくともコース的には打てる球がいくらかあった。さっきのがアウトになったのも徳田の手柄。打球方向をセンター方向と想定した一歩目を踏み出しても、セカンド方向に弾かれた打球を上手くカバーした。大した名手っぷりだわァ。あれも愛の形かしらねェ?

 ……何にせよ、ダムにはひび割れがある。決壊を気長に、気長に待つまで。


「3回の表、バニーズの攻撃。8番キャッチャー、冬島(ふゆしま)。背番号8」


 氷室登板時はほぼほぼスタメンマスクの冬島。単純にキャッチャーとしての総合力も向こうじゃ一番だし、バッティングもキャッチャーとしてなら及第点。超鈍足ではあるけど、ポジション的にそこは大した弱点ではない。


「ストライク!バッターアウト!」

「外入りました見逃し三振!」

(くそっ、遠いやろが……!)


 あの見逃しも、打率の割に高い出塁率を象徴するもの。持ち味を生かした結果だから、これも大した弱点でもない。

 冬島の明確な弱点は、対戦相手によって打撃成績のムラが大きいこと。ウッドペッカーズ相手にはやたら打つけど、それ以外は大体平均以下。バッテリーを組むピッチャーを軸にスタメンマスクを任せる上ではどうしてもどこかで『捨て打順』みたいなものが生まれてしまう。だからリスクを承知で歩くのを狙ってたんでしょうけど、そこは綺麗に裏目。


「9番ショート、宇井(うい)。背番号24」


 高卒2年目でレギュラーショート。それもホームラン2桁というオマケ付き。5年前の帝国一メンバーが続々と台頭してきた頃を思い出すわねェ。


「ボール!フォアボール!」

「これも外れました!ストレートのフォアボール!」


「ナイセンナイセン!」

「今年のあけみん、三振90個以上で四球これで12個目か……」

「えぇ……(困惑)」

「ちょうちょで感覚狂っとるけど、普通はこんなもんやろ」

「一軍に慣れてったら変わってくるやろ」


 ……どんな好投手でも、こういうことは起こりうる。


「1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


 でも、よりによってここでとはねェ。万全に万全を重ねても、危険は必ず訪れる。


「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」

「チャンスやぞ!」

「30号まであと3本!」


 もちろん、一発は絶対にNG。


「ストライーク!」

「低めスライダー!決まってストライク!」


 それが入るのなら、さっきのはやっぱり単なる事故。もうワンナウトは取ってるから、最悪歩かせても構わない。くれぐれも慎重にねェ?


(あんまり露骨なことしてると……)


 !!!


「三塁線痛烈!」

(痛い目に遭う……!?)

「サード飛びついて捕った!」

「アウト!」

「二塁アウト!」

「アウト!」

「一塁もアウト!ゲッツー!!」


「「「「「ぎゃあああああ!!!」」」」」

「こんな時にアイゲ……」

「ちょうちょまでこの流れに……」


「ウ……フフッ」


 思わず笑みが溢れる。何という怪我の功名。低めを狙い打たれたっぽいけど、ローボールでのフライ率の低さは健在。起こるべくして起こった不運。


(…………)


 あの併殺打は色んな意味でこっちにとって追い風。もはや月出里逢(すだちあい)ですらなかなか機能しない。この状況でも氷室(ひむろ)はまだ『自分との勝負』に勝ち続けられるのかしらねェ?


「ストライク!バッターアウト!!」


 ……!!!


「三振ッ!氷室、なおもパーフェクトピッチング!3回も三者凡退に切って取りました!」

「毎回の奪三振。冬島(ふゆしま)の構えてるところにしっかり投げ込めてますねぇ。それにあの堂々とした腕の振り。去年までの氷室が完全に戻ってきましたね」


「「「「「氷室くぅぅぅん!!!」」」」」

「やるやんけパンダ!」

「連勝だけやなくて連敗もストップしろや!」


 意外……と言っては何だけど、とんだ伏兵……かもしれないわねェ。まさかバニーズに、この状況でこういうピッチングができるピッチャーがいるなんて……

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