第百三十六話 頂点を知る者(3/?)
「ピッチャー返し!弾いたがセカンド捕った!」
「「「「「おおっ!!!」」」」」
「一塁送球!」
「アウト!」
「一塁アウト!徳田、好プレー!これでスリーアウトチェンジ!」
2回も打者3人……
「サンキュー火織!」
「あっくんも今日良い感じじゃん!」
「安心安全の人妻」
「「「「「ぐぬぬ……」」」」」
「っていうか打線があんなんじゃ1点も許せへんわな」
ただ、氷室だって決して無敵というわけじゃない。この回、少なくともコース的には打てる球がいくらかあった。さっきのがアウトになったのも徳田の手柄。打球方向をセンター方向と想定した一歩目を踏み出しても、セカンド方向に弾かれた打球を上手くカバーした。大した名手っぷりだわァ。あれも愛の形かしらねェ?
……何にせよ、ダムにはひび割れがある。決壊を気長に、気長に待つまで。
「3回の表、バニーズの攻撃。8番キャッチャー、冬島。背番号8」
氷室登板時はほぼほぼスタメンマスクの冬島。単純にキャッチャーとしての総合力も向こうじゃ一番だし、バッティングもキャッチャーとしてなら及第点。超鈍足ではあるけど、ポジション的にそこは大した弱点ではない。
「ストライク!バッターアウト!」
「外入りました見逃し三振!」
(くそっ、遠いやろが……!)
あの見逃しも、打率の割に高い出塁率を象徴するもの。持ち味を生かした結果だから、これも大した弱点でもない。
冬島の明確な弱点は、対戦相手によって打撃成績のムラが大きいこと。ウッドペッカーズ相手にはやたら打つけど、それ以外は大体平均以下。バッテリーを組むピッチャーを軸にスタメンマスクを任せる上ではどうしてもどこかで『捨て打順』みたいなものが生まれてしまう。だからリスクを承知で歩くのを狙ってたんでしょうけど、そこは綺麗に裏目。
「9番ショート、宇井。背番号24」
高卒2年目でレギュラーショート。それもホームラン2桁というオマケ付き。5年前の帝国一メンバーが続々と台頭してきた頃を思い出すわねェ。
「ボール!フォアボール!」
「これも外れました!ストレートのフォアボール!」
「ナイセンナイセン!」
「今年のあけみん、三振90個以上で四球これで12個目か……」
「えぇ……(困惑)」
「ちょうちょで感覚狂っとるけど、普通はこんなもんやろ」
「一軍に慣れてったら変わってくるやろ」
……どんな好投手でも、こういうことは起こりうる。
「1番サード、月出里。背番号25」
でも、よりによってここでとはねェ。万全に万全を重ねても、危険は必ず訪れる。
「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」
「チャンスやぞ!」
「30号まであと3本!」
もちろん、一発は絶対にNG。
「ストライーク!」
「低めスライダー!決まってストライク!」
それが入るのなら、さっきのはやっぱり単なる事故。もうワンナウトは取ってるから、最悪歩かせても構わない。くれぐれも慎重にねェ?
(あんまり露骨なことしてると……)
!!!
「三塁線痛烈!」
(痛い目に遭う……!?)
「サード飛びついて捕った!」
「アウト!」
「二塁アウト!」
「アウト!」
「一塁もアウト!ゲッツー!!」
「「「「「ぎゃあああああ!!!」」」」」
「こんな時にアイゲ……」
「ちょうちょまでこの流れに……」
「ウ……フフッ」
思わず笑みが溢れる。何という怪我の功名。低めを狙い打たれたっぽいけど、ローボールでのフライ率の低さは健在。起こるべくして起こった不運。
(…………)
あの併殺打は色んな意味でこっちにとって追い風。もはや月出里逢ですらなかなか機能しない。この状況でも氷室はまだ『自分との勝負』に勝ち続けられるのかしらねェ?
「ストライク!バッターアウト!!」
……!!!
「三振ッ!氷室、なおもパーフェクトピッチング!3回も三者凡退に切って取りました!」
「毎回の奪三振。冬島の構えてるところにしっかり投げ込めてますねぇ。それにあの堂々とした腕の振り。去年までの氷室が完全に戻ってきましたね」
「「「「「氷室くぅぅぅん!!!」」」」」
「やるやんけパンダ!」
「連勝だけやなくて連敗もストップしろや!」
意外……と言っては何だけど、とんだ伏兵……かもしれないわねェ。まさかバニーズに、この状況でこういうピッチングができるピッチャーがいるなんて……




