第十五話 速いけど、まだ早い(4/8)
9回表 紅3-4白 攻撃開始
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 雨田司記[右右](残り投球回:1回1/3)
[控え]
夏樹神楽[左左]](残り投球回:1回2/3)
氷室篤斗[右右](残り投球回:0)
山口恵人[左左]](残り投球回:0)
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7二 ■■■■[右右]
8三 財前明[右右]
9捕 土生和真[右右]
投 花城綾香[左左]
[降板]
三波水面[右右]
早乙女千代里[左左]
桜井鞠[右右]
相模畔[右左]
牛山克幸[右右]
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******視点:柳道風******
……ふむ。早乙女と相模に関してはまだ己を省みる余地はありそうじゃの。財前と桜井もへこたれとらんのは評価してやれるが、同じ己を省みるにしてもえらい違いじゃの。
(さぁ、どっからでも来やがれ……!)
(打ち気ありあり……そんで前の打席では山口さんのチェンジアップを見逃し三振。となると、入りはこれやな)
さぁて、せっかくの泣きの1回を活かせるかのう?
(チェンジアップ!あのガキのじゃねぇが、今度こそ打って……)
「ストライーク!」
(し、しまった……!)
初球ボール球チェンジアップ。あんなつまらん手に引っかかるとはのう。
「ストライーク!」
「今度は高めボール球ストレートに引っ掛かってやがる……こりゃ完全に冬島に弄ばれてるな」
「未だに白組連中を舐めてる証拠……いや、これも他人事じゃないっすね。今回の試合の3点のハンデにしたって、監督の性格からしたら『3点あれば向こうも勝てる可能性がある』ってことでしょうし」
その通り。まぁここまで綺麗にハマるとは思っとらんかったがな。正直半分は適当じゃ。
(……大した人だな、冬島さん。ここまでタイプの違う4人のピッチャーを的確にリードしてる。ボク自身は細かい制球より球威だからリードに左右されないタイプだと強がってたけど、この打席じゃボール球2つで投手完全有利のカウント。全く楽をさせてくれる……いや、楽をさせてくれてるのは冬島さんだけじゃないな。特に有川さんには助けられた。あの人のおかげで、氷室さんにわがまま言ったくせに自分は同点打を許すなんて醜態を晒さずに済んだ。信頼できるバックがいる状況で投げられるのなんて本当に久しぶりだね)
先週の試合と比べれば今日の試合はずっとじゃが、先程の回よりさらに強張りなく楽に投げてる印象があるのう。その理由は単に上位打線の脅威からほぼ逃れられたからか……
(信頼……そうか。そもそも、チームメイトを頼りにしようと思ったこと自体が久しぶりだな。昨日まではせいぜい『頑張ってくれれば儲けもの』程度だった。投球の邪魔さえしなければそれで良いってくらいだった。何せ高校の頃は本当にチームメイトの意識が低くて、弱小高相手でも神経をすり減らして投げてたからね。『絶対三振を奪る』、なんて考えながら。今だって三振をなるべく奪りたいとは思ってるけど、そうじゃなくても構わないくらいには気が休まってる。他の余計なプレッシャーがないから、『チームの勝敗を背負ってる』というのが程良いプレッシャーとして認識できる。先週の試合もこういう気分で投げれてれば、もうちょっとマシな結果になってたのかもしれないな)
「!!……しまっ……」
「ストライーク!バッターアウト!!」
最後はベタベタの外スラ……はっきり言ってガッカリじゃな。
「三球三振!流石は雨田だぜ!!」
「あと2人!あと2人!!」
「いけるでー白組ー!!!」
「くそッ!くそッ!くそォォォォォッッッ!」
「そんな……財前さんが……」
((……やっぱこうなったか))
一軍相当の打力を備え、はっきりとした攻略法のある雷小僧が相手。冷静に立ち回れば勝機も十分あった。故に情け以上に下位打線の補強のために残したと言うのに、未だに個人の功名心にばかり走りおって……
己を疑って顔を上げた早乙女と相模。己を信じて俯いたままの財前と桜井。可能性があるだけで似たり寄ったりの有象無象じゃったが、ここに来て差が付き始めとるのかもしれんな。