第百三十五話 犠牲の代償の代償(3/?)
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「これでスリーアウトチェンジ!しかしこの回、柿原のタイムリーでさらに1点追加!5-0、アルバトロスのリードが続きます!」
(アカン)
悪い流れは中盤に入っても変わらず……
「6回の裏、バニーズの攻撃。9番ショート、宇井。背番号24」
この点差だから、向こうのピッチャーは鹿籠さんのまま。怪我明け早々に活躍を許してる形。
「この回の先頭打者は宇井。先日のヴァルチャーズ戦で途中交代になってから2試合空けてのスタメン出場となりましたが、今日はここまでヒットがありません」
「ええかげん点取れや!」
「優勝かかってるんやぞ!」
……わかってるっすよ。もちろんわかってるんすよ。
「ストライーク!」
「まずは外のスライダーから入ってきました!」
球の走りはそこまで……でも、こういうゲーム展開だから、初回と比べて悠々とストライクを取ってくる。
あんまりなめないでほしいっす……!
「叩きつけた!高いバウンド!」
ミスショット……でもこれなら!
「一塁、頭から滑り込んだ!」
「セーフ!」
「間に合いました!内野安打でノーアウト一塁!」
「「「「「あけみん!あけみん!」」」」」
「あんま無理すんなや!」
「あけみんまで離脱はマジでアカン!」
無理するに決まってるっすよ。
「1番サード、月出里。背番号25」
次はこの人なんすから。
「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」
「ここで打席には月出里。今日はここまで2打数2安打、レフト前にライト前としっかりと捉えています!」
(……朱美ちゃんはまだよくやってくれてるね)
向こうのバッテリーは……
(もちろん、勝負で良いですよね?)
(まぁこの点差ですしね。グコランのホームラン王争いに水を差すかもしれないですが……)
ベンチも動きはなし。当然、勝負っすね。
「ファール!」
「初球から振ってきました!今日最速の150km/hまっすぐ!」
(露骨にやる気出してきたね……スピードだけじゃなく浮き上がり加減も離脱前のそれに近い……)
(月出里さんはもちろんだけど、大神くんにだって負けられないんだから……!)
鹿籠さんお得意の、浮き上がるカットボールのように見えるまっすぐ。中盤であのスピードなら、まだまだ余裕ありそうっすね。
「ボール!」
「ファール!」
「ファール!」
「ここもストレート!ライト方向切れました!」
一進一退、バチバチっすね。
(ギアが上がったのに、なかなか打ち損じてくれない……!)
(確かにさっきまでより良いまっすぐだけど、ここまで2打席勝負した分も込みで、十分修正できる範囲)
「ボール!」
「外スライダー見送りました!ツーボールツーストライク!」
(振ってくれませんか……)
(変化球も変わりなし。今日の球審は昨日と比べたら外をちゃんとジャッジしてくれるし、いつも通りの感覚で見極められる。そして、変化球はこうやって割り切れるから……)
!!!
(まっすぐに絞り切れる……!)
「左中間!長打コース!!」
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
「二塁ランナー三塁を回った!」
三塁コーチャーもGOサイン。当然っすね。ノーアウトで5点差だから慎重に行くのも手ではあるっすけど……
(まずはとにかく1点……今の閉塞した流れを変えるためにも……!)
「セェェェェェフ!!!」
「二塁ランナーホームイン!5-1!バニーズ、ようやく1点目!月出里、今日は3安打猛打賞!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」
「ちょうちょマジ主人公」
「もはや葵姉貴は恐るるに足らずやな(恍惚)」
……またしても、長い脚に感謝っすね。そして逢さんにも……
「2番セカンド、徳田。背番号36」
「なおもノーアウト二塁で打席には徳田!」
「まだまだ上位打線。ここでもう1点2点挙げれば全然ありますよ」
いける。まだまだやれるっす。今日勝てば2位相手にカード勝ち越し。優勝も近づいて……!?
「アウト!」
「ああっ!ショート正面のライナー!」
(ッ……!)
「セーフ!」
「二塁はセーフ!」
「あっぶねぇぇぇ……」
「今日かおりんついてねーな……」
(くそッ、何で……!)
……火織さんに限った話じゃないっす。今日はほとんどの人達があんな感じ。
「ライト前進!」
「アウト!」
「引っ張った!しかしファーストグコラン、飛びついて捕った!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「そのまま一塁ベースタッチでスリーアウトチェンジ!」
「「「「「ほげぇぇぇぇぇ!!!」」」」」
何もかもが紙一重。どれもあとほんの少しズレてたら、きっと向こうと同じくらいに点が取れてるはずなのに……
(まぁこれも野球ですよね)
(……ツキが回ってきた。いや、来るべくして来たか……)
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