第百三十五話 犠牲の代償の代償(2/?)
「ストライク!バッターアウト!」
「三振ッ!これでスリーアウトチェンジ!しかしアルバトロス、初回から一気に3点を先制!」
ようやく終わったっすね……でも……
「おいィ!?いきなり何やっとんねん!!?」
「最後の直接対決やぞ!?」
「今日勝ったら優勝一気に近づくのに……」
(((わかってるよ、そんなの……)))
あの後、単純に烏丸さんが長打を連続で浴びたのが直接の原因っすけど、守備の連携ミスもあった。あれがなければ取られても2点で済んでたはず。
初回からいきなり守備のミス2つ。こんなの、ほんのちょっと前まではなかった。でもみんな別に手を抜いてるとか気が緩んでるとか、そんな感じじゃない。むしろ試合前の練習から張り切りすぎてるくらい。3日前にぶつけられた自分にとっちゃあんまり言いたくない言葉っすけど、『攻めた結果』っていう印象。
「1回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号25」
もちろん、勝負はまだ終わったわけじゃない。逢さんが打席に立つ。それだけでも点が取れる気がするっす。
でも今日は……
「今日のアルバトロスの先発は久々の登板となります、プロ4年目の鹿籠。下半身のコンディション不良からファームで調整を続けておりましたが、バニーズとのシーズン最終戦に何とか間に合わせてきました」
「バニーズは一昨日の段階でAクラス……CS進出は確定。アルバトロスもほぼ間違いなく枠に入ってくるでしょうから、計算できる先発が1枚戻ってきたのは大きいでしょうね」
(月出里さん……今日も絶対打たせやしない……!)
「うげ……葵姉貴かよ……」
「こりゃちょうちょ今日もブレーキか……?」
"逢さんキラー"としてすっかり定着した鹿籠さん。自分にとってもあのまっすぐはかなり打ちづらいっす……!?
「引っ張った!三遊間、抜けましたレフト前!打球速度179km/hの非常に鋭い当たりでした!」
「「「「「おおおおおッッッ!!!」」」」」
(こんなにあっさり……!?)
(フン……いつまでも打ち取られてばっかじゃいられないよ。たとえ偶然でも一発打てて、その後も何回か勝負して、何となく打つコツが掴めてきたし)
「いける!いけるで!」
「ちょうちょが打てるんなら巻き返せるで!」
「続け続け!」
「しかし葵姉貴相手にちょうちょ1番のままでいきなり上手くいったな」
「伊達、有能」
(ただでさえ十握くんがいなくて他に選択肢があんまりなかったから一か八かくらいの気持ちだったんだけどね……)
「2番セカンド、徳田。背番号36」
逢さんが打てるのならいける。いけるっすよ……!
「ボール!」
「チェンジアップ!これは大きく外れました!」
「ボール!」
「高めまっすぐ!これもはっきり外れました!」
(くっ……!)
(落ち着いて下さい!3点あって鹿籠さんならいつも通りにやれば凌げるはずです!)
いきなり打たれたのが結構効いてるみたいっすね。火織さんの選球眼ならこのままチャンスを広げられそうっすね。
「ストライーク!」
「これは真ん中!決まってストライク!」
(なめてくれるね。確かに入れなきゃいけないとこだけど)
(とりあえずストライクに入りさえすれば大丈夫です。その調子でゾーンで勝負しましょう)
(今日は球自体もそんなに走ってる感じじゃない。流石に見逃してばっかりで三振じゃ洒落にならないから、次に甘いとこに来たら……)
!!甘いとこ……!
(よっし!いける……!?)
「引っ張ってこれも痛烈!しかしセカンド正面!」
「「「「「ほげえええええ!!!??」」」」」
「アウト!」
「二塁アウト!」
「アウト!」
「一塁もアウト!ゲッツー!!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!」」」」」
火織さんは脚自体も速くて、走り出しも速い左打者。まさにここしかないってとこへのゲッツー……よりによってこの状況で……
(くっそ〜……!ドンピシャだったのに……!!)
「3番ライト、松村。背番号4」
(月出里さんも徳田さんもちゃんと捉えられてはいる。ランナーなしなら思い切って長打……!?)
「これは高く打ち上げた!ファースト見上げて……」
「アウト!」
「捕りましたスリーアウトチェンジ!」
「「「「「…………」」」」」
絶好の滑り出しだったのに、こんな幕切れ……
・
・
・
・
・
・




