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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
869/1132

第百三十四話 新たなる怪物(3/?)

「1回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


「初回は素晴らしい立ち上がりを見せました、今日の先発の山口(やまぐち)。そして今日もバニーズの先頭打者は月出里。今月に入っても好調を維持。打率.351、27本塁打、89打点。主要打撃タイトルのほとんどがTOP3入りという素晴らしい活躍を魅せています!」


「今日も頼んだでちょうちょ!」

「畜生行為はせんでええぞ!」

「まだ疑惑程度やから(震え声)」


 流石にあの人ほどバニーズを勝たせてるとは思ってない。ほんとすごい人。


「そして、今日のアルバトロスの先発はプロ2年目。2019年ドラフトで4球団競合1位指名となりました、大神小次郎(おおがみこじろう)!今日が10試合目の登板、バニーズ戦での登板は今日が初となります!」


 ……けど、果たしてあの人でもアイツの球を打てるかどうか……


(でっかいなぁ……あの変態と同じくらい?)

(打席に立ってるとほんとちっちゃいなぁ……アレが今のリプの最強打者かぁ)

「プレイ!」


 長身で、長い手足。その長い脚を、つま先が顔の高さに届くほど挙げる大げさな体重移動。あそこまで挙げる必要性はないように思えるけど……


「!!?」

「ストライーク!」

「高めまっすぐ空振り!いきなり出ました154km/h!」


 結果としてあんな球を投げるんなら、『不正解』にはならないよね。


(何このノビ……?)

(何やってるんですか……?サインは低めですよ低め!浮いただけですか!?)

(確か高めが得意なんだよなぁ、お姉さん?)

「ファール!」

「これも高めまっすぐ!しかしこれはバックネットへ!」

「ファールボールにご注意ください」

(これでも上っ面……!?)

「さぁ2球で追い込みました、マウンド上の大神(おおがみ)。高校史上最速の163km/hをマークしたストレート、流石の月出里でもまだ前に飛ばせません!」


「「「「「良いぞ良いぞコジロー!」」」」」


 高めが得意な月出里さんが2球連続で仕留め損なった。確かにあのスピードも脅威。けど、それ以上に……


「ファール!」

「外高めまっすぐ!これはどうにか当てました!」

(やっぱりわざとやってますね……月出里さん相手にあえて高め勝負……!)

(良いじゃないっすか。打たれてないんだし。今のだってコースは外してましたし)


 アイツのまっすぐはとにかくノビが尋常じゃない。

 ほとんどのピッチャーはストレートを投げる時に人差し指と中指を少し広げて投げるものだけど、アイツはあえてくっつけて投げてる。くっつけて投げると、ボールに指が這いにくくなってリリースが不安定になる恐れがあるけど、指先からボールにパワーを集中して送ることができる。


(あの変態もノビがパないし、スピードももっと上だけど、左右の違いもあるのかな?でもまぁそれは良いとして……)

「!!!ライト線……」

「ファール!」

「切れましたファール!しかしこのまっすぐも156km/h!!」


「ああっ、惜しい……!」

「合わせてきたぞ!」

「流石やちょうちょ!」


(あたしに4球続けて高めまっすぐ。あんま調子こいてんじゃねぇぞクソガキ)

(おー、(こえ)ぇ……こりゃちょっと続けられねーかな?)


 流石にあんなに続けたらね。でも、こうなってくると……


(次は仕留める……!)

(今度こそちゃんと『コレ』頼みますよ!)

(へいへい)

「!!?」

「ストライク!バッターアウト!」

「落とした!最後はフォークボール空振り三振!!」


「「「「「あああああ……」」」」」

「何や今の……」

「むっちゃ落ちたで……?」


(んー、やっぱ外で野球やるのは良いよなぁ)


 高めから真ん中。フォーク系は浮くほど落差が小さくなるものだけど、あの落差とあのまっすぐと組み合わせという前提であれば、雑に使っても強力。あの月出里さんからも三振が()れるほどに。


「ストライク!バッターアウト!」

「外まっすぐ!振ってしまいました空振り三振!!」

「これはサード、ファールグラウンドで見上げて……」

「アウト!」

「捕りましたスリーアウトチェンジ!最後は157km/hまっすぐでねじ伏せました!!」


「「「「「やべぇよ、やべぇよ……」」」」」


 ……アイツのまっすぐを見てると、2年前のアレを思い出す。伊達(だて)さんに捕ってもらった、あの最後の1球。アレで良いまっすぐの感覚を掴めたけど、そのまっすぐだけじゃ通用しなくて、今のスタイルに行き着いた。

 おれだって本当はあんなふうにやりたかった。伝説の筋書きを予め書こうなんて傲慢だと分かってるけど、それでも伊達さんが腰痛を押してでも受けて生まれたあの1球だけで勝負できるようになりたかった。無念のまま引退した伊達さんにとっても報いになると思うから。

 『これからずっと』……とまでは言わない。せめて『この試合だけでも』……!

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