第百三十四話 新たなる怪物(3/?)
「1回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号25」
「初回は素晴らしい立ち上がりを見せました、今日の先発の山口。そして今日もバニーズの先頭打者は月出里。今月に入っても好調を維持。打率.351、27本塁打、89打点。主要打撃タイトルのほとんどがTOP3入りという素晴らしい活躍を魅せています!」
「今日も頼んだでちょうちょ!」
「畜生行為はせんでええぞ!」
「まだ疑惑程度やから(震え声)」
流石にあの人ほどバニーズを勝たせてるとは思ってない。ほんとすごい人。
「そして、今日のアルバトロスの先発はプロ2年目。2019年ドラフトで4球団競合1位指名となりました、大神小次郎!今日が10試合目の登板、バニーズ戦での登板は今日が初となります!」
……けど、果たしてあの人でもアイツの球を打てるかどうか……
(でっかいなぁ……あの変態と同じくらい?)
(打席に立ってるとほんとちっちゃいなぁ……アレが今のリプの最強打者かぁ)
「プレイ!」
長身で、長い手足。その長い脚を、つま先が顔の高さに届くほど挙げる大げさな体重移動。あそこまで挙げる必要性はないように思えるけど……
「!!?」
「ストライーク!」
「高めまっすぐ空振り!いきなり出ました154km/h!」
結果としてあんな球を投げるんなら、『不正解』にはならないよね。
(何このノビ……?)
(何やってるんですか……?サインは低めですよ低め!浮いただけですか!?)
(確か高めが得意なんだよなぁ、お姉さん?)
「ファール!」
「これも高めまっすぐ!しかしこれはバックネットへ!」
「ファールボールにご注意ください」
(これでも上っ面……!?)
「さぁ2球で追い込みました、マウンド上の大神。高校史上最速の163km/hをマークしたストレート、流石の月出里でもまだ前に飛ばせません!」
「「「「「良いぞ良いぞコジロー!」」」」」
高めが得意な月出里さんが2球連続で仕留め損なった。確かにあのスピードも脅威。けど、それ以上に……
「ファール!」
「外高めまっすぐ!これはどうにか当てました!」
(やっぱりわざとやってますね……月出里さん相手にあえて高め勝負……!)
(良いじゃないっすか。打たれてないんだし。今のだってコースは外してましたし)
アイツのまっすぐはとにかくノビが尋常じゃない。
ほとんどのピッチャーはストレートを投げる時に人差し指と中指を少し広げて投げるものだけど、アイツはあえてくっつけて投げてる。くっつけて投げると、ボールに指が這いにくくなってリリースが不安定になる恐れがあるけど、指先からボールにパワーを集中して送ることができる。
(あの変態もノビがパないし、スピードももっと上だけど、左右の違いもあるのかな?でもまぁそれは良いとして……)
「!!!ライト線……」
「ファール!」
「切れましたファール!しかしこのまっすぐも156km/h!!」
「ああっ、惜しい……!」
「合わせてきたぞ!」
「流石やちょうちょ!」
(あたしに4球続けて高めまっすぐ。あんま調子こいてんじゃねぇぞクソガキ)
(おー、怖ぇ……こりゃちょっと続けられねーかな?)
流石にあんなに続けたらね。でも、こうなってくると……
(次は仕留める……!)
(今度こそちゃんと『コレ』頼みますよ!)
(へいへい)
「!!?」
「ストライク!バッターアウト!」
「落とした!最後はフォークボール空振り三振!!」
「「「「「あああああ……」」」」」
「何や今の……」
「むっちゃ落ちたで……?」
(んー、やっぱ外で野球やるのは良いよなぁ)
高めから真ん中。フォーク系は浮くほど落差が小さくなるものだけど、あの落差とあのまっすぐと組み合わせという前提であれば、雑に使っても強力。あの月出里さんからも三振が奪れるほどに。
「ストライク!バッターアウト!」
「外まっすぐ!振ってしまいました空振り三振!!」
「これはサード、ファールグラウンドで見上げて……」
「アウト!」
「捕りましたスリーアウトチェンジ!最後は157km/hまっすぐでねじ伏せました!!」
「「「「「やべぇよ、やべぇよ……」」」」」
……アイツのまっすぐを見てると、2年前のアレを思い出す。伊達さんに捕ってもらった、あの最後の1球。アレで良いまっすぐの感覚を掴めたけど、そのまっすぐだけじゃ通用しなくて、今のスタイルに行き着いた。
おれだって本当はあんなふうにやりたかった。伝説の筋書きを予め書こうなんて傲慢だと分かってるけど、それでも伊達さんが腰痛を押してでも受けて生まれたあの1球だけで勝負できるようになりたかった。無念のまま引退した伊達さんにとっても報いになると思うから。
『これからずっと』……とまでは言わない。せめて『この試合だけでも』……!




