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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第四章 黄金時代
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第百三十三話 いつだって頼れるもの(4/?)

 死球の宇井(うい)には相沢(あいざわ)が代走として送られて途中交代。


「8回の表、ヴァルチャーズの攻撃。9番キャッチャー、冬島(ふゆしま)。背番号8」


「3-1、ようやくヴァルチャーズが勝ち越しました。この回はラストバッターの冬島から始まります」


 氷室(ひむろ)は6回で降りて、7回から出てきた三波(みなみ)からツーランを打って勝ち越し。お(きく)はあの死球があったものの、2イニングスで5奪三振。むしろ尻上がりに調子を上げてる。やはりリリーフに余裕がないからこの回までは投げ抜いて欲しいところ。


(『優勝する』って初音と約束したのに、レギュラーレフトとショート潰しやがって……!)

「三遊間!これは抜けましたレフト前!」

「っし!」


「ええぞ正捕手!」

「死ぬ気で追いつけや!」

「今日の試合だけは絶対負けられへんぞ!」


「バニーズ、選手の交代をお知らせします。一塁ランナー、冬島に代わりまして、有川(ありかわ)。9番代走、有川。背番号0」


 ……先頭を出したか。しかも……


「1番サード、月出里。背番号25」


 よりによってここで一番厄介な奴か……


(2点ある。次以降も徳田(とくだ)とかが続くし、月出里は上手くやれば併殺も狙える)

(勝負、だよねぇ〜普通に考えたら。でも、この前の試合の月出里さんのアレ、まさかね〜……?)






 ……!!!


「ストレート打って、ピッチャー正面!跳ねて転々と転がるボールをショートが拾いますが……」

「セーフ!」

「オールセーフ!ノーアウト一塁二塁!」


「お菊!大丈夫か!?」

「う、うん……身体には直接当たってないし、平気だよ〜……」


 咄嗟(とっさ)に身体を逸らしつつグラブを差し出して、どうにか直撃は避けられたようだが……


(チッ……避けてんじゃねぇよボケが)

(やっぱり『去年同じ帝国代表のよしみ』……とかはないよねぇ〜……たはは……)


「おいィ!?(なん)ばしよっとか!!?」

「お菊ようやく一軍戻ってこれたんやぞ!?」

小結(こむすび)ん時と言い、やっぱわざとやりよったとか!?」


「アホ!それこそ事故や事故!」

「そんなピッチャー正面ポンポン狙えるわけないやろが!」

「ちょうちょは身も心も綺麗な女の子、やろ?」

「って言うかさっき『避けれん方が悪いわ』とか言ってたのはどこの誰だよ?」

「どっちにしてもようやったでちょうちょ!」

「あけみんの仇や!」


 ……わざとかどうかはわからないが、この回で代えておくのが正解だったかもしれんな。いや、それだと代えの投手に背負わすことになってたのかもしれんか……


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******視点:月出里逢(すだちあい)******


「放送席ー、放送席ー、そしてヴァルチャーズファンの皆様、お待たせしました!ヒーローインタビューの時間です!」


 向こうが盛り上がってる間に、さっさと引き上げ準備。

 あの後、結局追いつけずに負け。クソッタレが。明日からホームゲームだし、さっさと大阪に帰って優輝(ゆうき)とたっぷりスケベして今日のことは忘れたい。


「あ、あの月出里選手。今お時間よろしいですか……?」

「……はい」


 ロッカーに向かう途中で、記者の人に捕まる。

 ほんと、人気者はめんどくさい。だから目立つところは風刃(かざと)くん辺りに押し付け……(ゆず)って、ストレス発散も兼ねて汚れ役をやってるんだけど……


「本日もお疲れ様でした」

「どうも」

「先週の十握(とつか)選手に続いて宇井選手も今日途中交代となってしまいましたが、月出里選手としてはここ最近のヴァルチャーズ投手陣についてどうお考えでしょうか?」

「…………」


 逆に、汚れ役をやったから声をかけられたっぽいね。


「さぁ?単に必死なだけなんじゃないですか?あたしだって2度もぶつけちゃいましたし」

「そ、そうですね……ですがバッターがわざとピッチャーを狙うなんて現実的じゃないですよね?逆ならともかく……」

「…………」

「それに、バニーズはCS進出が後少しで確定、ヴァルチャーズは余裕のない状況。やっぱりヴァルチャーズとしては勝つために何が何でも……という気持ちをプレーに出してしまうこともあるかと思いますが……」


 記者の腕章を見てみると、桐凰(とうおう)新聞の人。そう言えばジェネラルズって、去年と一昨年、ヴァルチャーズに帝国シリーズで2年連続4連敗とかしてたっけ?で、今年はヴァルチャーズと同じくAクラスに入れるか微妙なとこって立場……

 多分そういう背景があるのと、あたしをもっとテレビで売り込みたくて言ってるんだろうね。"卑怯な球団に図らずも(バチ)を与えた清廉潔白(せいれんけっぱく)なスター"みたいな感じで。ヴァルチャーズって、悪者に仕立て上げやすいところがあるし。


「まぁ、向こうがわざとやったかなんてのはあたしにはわかりようがないですけど……アウト取るのが最優先でバッターの安全を度外視してでも内角を攻めるのが『攻めた結果』として肯定されるのなら、ヒット打つのが最優先でピッチャーの安全を度外視してセンター返しに徹するのも『攻めた結果』として肯定されるべき……ですよね?」

「は、ははは……確かに……」


 わざとらしく笑ってやる。試合中は必死で隠してた悪い笑み。

 テレビ屋としてはあたしに『そんなつもりはなかったんですぅ〜』とか、『ヴァルチャーズってほんと酷いですよね〜』みたいな感じで、100%の被害者として振る舞って欲しかったんだろうけど、誰がそんなことするかよバーカ。

 ……別にヴァルチャーズを(かば)うつもりなんてない。十握さんと朱美(あけみ)ちゃんのことをまだ根に持ってるのも事実だし。テレビ屋の思う通りに動くのが嫌なだけ。単にあたしの意地の問題。


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