第百三十三話 いつだって頼れるもの(2/?)
9月15日。2連休を挟んで、今度はビジターでヴァルチャーズとの2連戦。
結局、休み直前に負けて、連勝は10でストップ。良くない形で休みを挟んで、勢いが削がれるかと思ってたけど……
「レフト下がって……入りましたホームラン!オクスプリング、今シーズン17号!先制ツーランホームラン!」
「「「「「いよっしゃあああああ!!!」」」」」
「まだ346のこと許してへんからな!」
「今日も勝てや!」
何てこともなく、今日も先制。地味にみんな打球が上がってるね……
(あたしなんてまだ今月1本しか打ててないのに……)
まぁあんなことがあったヴァルチャーズが相手っていうのが、選手達にとってもきっと大きいんだろうね。
「これはボテボテの当たり!サード正面!」
「アウト!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!ヴァルチャーズ、この回先頭打者を出しましたが得点ならず!」
「「「「「風刃くーん!!!」」」」」
「うーんこの"ウルトラエース"……」
「もう今年いっぱいハゲタカには負ける気せぇへん」
しかも今日の先発は風刃くん。先週の完封の勢いそのままに、今日も4回まで無失点。
(まずいな、完全にカモにされてしまってる……)
とにかく、先週までの10連勝のおかげで、最優先目標の『首位奪還』はもう果たした。無駄に肩肘張らず、それぞれ持ち味を発揮してくれたら、きっと逃げ切れるはず。
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「6回の裏、ヴァルチャーズの攻撃。1番セカンド、■■。背番号■■」
「3-1、バニーズのリードが続きます。この回のヴァルチャーズは1番からの攻撃。この回も風刃が続投。すでに今シーズン15勝目の権利を手にしています」
「今の時代に15勝はなかなかできないですよ。良いピッチャーになりましたよほんと」
(うーん、前の回に田所さんに一発打たれちゃったんだよなぁ。さっき向こうがバッテリーエラーしてくれたおかげでその分はチャラになったけど、ちょっと気合い入れなきゃダメだよなぁ。"ウルトラエース"として)
安心するにはまだ早い点差だけど、風刃くんがいて、リリーフも計算できる。上位打線からのこの回を凌げば勝ちはグッと近づく。
「ストライク!バッターアウト!!」
「ストライク!バッターアウト!!」
「三振ッ!2者連続!!これで今日奪三振10個目!!!」
「この場面で流れを絶対に変えないという姿勢。ほんと頼りになりますねぇ」
(先週完封でそれなりに球数を消耗して、今日ももうすぐ100球だから、今日はこの回までって話。なら出せるもんを出し切らなきゃなぁ)
……前の回までと比べて、スピードがほんの少し上がってる。この回のまっすぐは全て153km/h以上。今年の風刃くんの最高球速は確か157km/h。最大出力よりも、出力の安定感が風刃くんの持ち味。
でもそれにしたってだいぶ速い……
「3番ライト、友枝。背番号9」
「ツーアウトランナーなしで、打席には友枝。今日はここまで三振2つと完全に抑えられています」
「今日もウサギにかませにされるんか……」
「クッソォ、こんな怪我人だらけになってんかったら……!」
「ボール!」
「初球は落としました!146km/hフォークボール!!」
(『ランナーなしだから意気揚々とファーストストライクを取る』ってオレが読むのを見越しての落ちる球……たまたま読みが当たったからどうにかなったけど、ほんとこんなん読まなきゃどうにもならねーわ。マジやべー……)
「風刃と友枝は今シーズンここまで24打席対戦しておりますが、打ったのはシングルヒットわずか1本、四球4つ、三振が10。ほぼ完璧に抑え込んでます」
友枝くんは3番に入ることが多い分、ツーアウトランナーなしの場面が多く、しかもヴァルチャーズは今年投打共に離脱者が多い。そのため、積極的に勝負する必要性が薄く、決して四球の多くない風刃くんが四球4つを友枝くん1人に献上してる、という点も考慮に入れる必要はあるだろうけど、それでも相性は全体的に見て良いと言って良いだろうね。
「ファール!」
「ボール!」
「ボール!」
「ストライーク!」
(くそっ、ここで落とすのかよ……!)
「空振り!これでフルカウントとなりました!」
(友枝さんは読みで及び腰になっとる。膝下まっすぐ思いっきり叩き込むで)
(うっす!……ッ!?)
……!!!
「ボール!フォアボール!」
「ああっと!ストレート叩きつけてしまいました!ツーアウトからランナーが出ます!」
風刃くんがあの要所であれだけの制球ミス……珍しいね。
「タイム!」
「ここで■■投手コーチがマウンドへ向かいます!」
一応念のため。何事もなければ良いけど……
「大丈夫か風刃?何かあるんだったら早めに降りても大丈夫だぞ?」
「あ、いえ、心配ないっす。ちょっと手元が狂っただけっす」
「そうか……お前はもはやウチに必要不可欠な存在だ。無理はするなよ?」
「あざっす!監督に言われた通り、この回までは投げ切りますんで!」
「プレイ!」
「単なるコントロールミスって話です」
「そうか……ありがとう」
心配しすぎ……だったかな?
(……痛くはねーけど、リリースの瞬間、背中の辺りに変な張り。ルーキーイヤーに肘を痛めた時と似たような感覚)
「4番指名打者、ローウェン。背番号54」
(でも、ここで引き下がれねーよな。せっかく先週完封してチームの士気を上げたのに、ここでおれが途中降板なんかしたら台無し。月出里さんがああやって"影の主役"をやってくれてるんだから……)
「ストライク!バッターアウト!」
「三振ッ!何とこの回3つ目!」
「「「「「風刃くーん!!!」」」」」
やっぱり心配しすぎだったみたいだね。この時期にそんなポンポン主力が抜けるなんて……
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