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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
86/1129

第十五話 速いけど、まだ早い(2/8)

8回裏 紅3-4白 1アウトランナーなし


○白組


[先発]

1二 徳田火織(とくだかおり)[右左]

2中 有川理世(ありかわりせ)[右左]

3右 松村桐生(まつむらきりお)[左左]

4一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

5三 リリィ・オクスプリング[右両]

6捕 冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

7指 伊達郁雄(だていくお)[右右]

8左 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

9遊 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 雨田司記(あまたしき)[右右](残り投球回:1回1/3)


[控え]

夏樹神楽(なつきかぐら)[左左]](残り投球回:1回2/3)

氷室篤斗(ひむろあつと)[右右](残り投球回:0)

山口恵人(やまぐちけいと)[左左]](残り投球回:0)



●紅組

[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2遊 相沢涼(あいざわりょう)[右右]

3右 森本勝治(もりもとかつじ)[右左]

4左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

5一 グレッグ[右右]

6指 イースター[右左]

7二 ■■■■[右右]

8三 財前明(ざいぜんあきら)[右右]

9捕 土生和真(はぶかずま)[右右]


投 花城綾香(はなしろあやか)[左左]


[降板]

三波水面(みなみみなも)[右右]

早乙女千代里(さおとめちより)[左左]

桜井鞠(さくらいまり)[右右]

相模畔(さがみくろ)[右左]

牛山克幸(うしやまかつゆき)[右右]

******視点:相模畔(さがみくろ)******


「1番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」

(徳田さん……左対左なれど、本日の白組では一番警戒すべき相手ですわね)


 向こうが1点リードで、打席には今日3の3で長打込み、盗塁も決めてる徳田。確かに守備でやらかしたが、最低でも俺の二軍での1番の地位を脅かすくらいにはアピールできてると思う。


「くそッ……くそッ……!」

「あんのクソアマぁ……ビ■チのくせにモクやめて真面目ちゃん気取りかよ……!」


 財前(ざいぜん)さんはあの監督の話以降俯いたまま、ただ悔しさを漏らし続けてる。(まり)は本性剥き出しで徳田を睨んでる。普段の男子ウケする女子感がまるでない。財前さんは名指しで批判されて、鞠は徳田と同じ二遊間でしかも1つ年上。特に危うさを覚えてるんだろうな。


「…………」


 千代里(ちより)は比較的マシな感じだけど、疲れ切ったような顔で何も言わずにただ試合を見つめてる。普段からこの4人の中でクールな方を気取ってる俺も、多分はたからみりゃ様子がおかしいんだろうな。


「ボール!」

「ストライーク!」

(よし、このストレートなら……ッ!?)

「ファール!」

(フフフ、カウント1つ儲けさせていただきましたわよ)

(追い込まれる前にアタシにボール球振らせるなんて、さすがは綾香(あやか)さんだね……)


 花城(はなしろ)さんは左のサイドスローで、まっすぐのスピードはない。代わりにそのまっすぐに近いスピードでキレッキレのスライダーとシュートを駆使して芯を外すのが持ち味。


「ファール!」

(本当、外スラから逃げられるようになってますわね……大したものですわ)

(確かに曲がりは鋭いけど、根本的なスピードがあるわけじゃない。ギリギリまで見てれば当てるくらいはできる……!)

「ボール!」

(続けたが今度は見られたか……まぁ良い。花城さんはスピードこそないがまっすぐのキレもある。いざとなれば三振だって()れるピッチャーなんだ。外まっすぐでいきましょう!)

(よろしくてよ)


 千代里(ちより)に勝ったのはまぐれじゃねぇな……元々あのスイングの速さで目が良い上に、外を無理に引っ張らなくなったから、生半可なスピードの外変化球なら簡単に対処しやがる。くそッ……!


(……!まずいですわ!!)

(もらった!!!)

「うおっ!いったぞ!!」


 真ん中寄りに抜けたストレートを迷わず振り抜き、ライト方向への大飛球。まじか……!?


「さっきより角度あるぞ!」

「これもしかして入るか!!?」




「アウト!」


 かなり勢いよく飛んだ打球だったが、思ったほど伸びずにライトの森本さんがフェンス際で捕球。


「うーん、今のでも入らないかぁ……」


 徳田は二軍でも確かホームランは1本か2本しか打ったことがなかったはず。少し悔しがってるが、それでもどこか手応えを実感してるような、そんな表情。なんせ結果はともかく内容は上々、花城さん相手でも対等以上に渡り合ってみせたんだからな。

 そう、あの徳田が……


「アウト!スリーアウトチェンジ!」


 まぁ流石に有川(ありかわ)は簡単に料理できるわな。内角からの外スラに届ききらずサードファールフライ。


「お疲れさん。予定通り花城は8回で上がりや。9回はカリウスに任せる」

「イエス、ボス」


 降板が確定した花城さんはピンとした背筋でベンチに座って水分補給。タオルで汗を拭くというよりは汗にタオルをあてがってる姿は本当に同じ体育会の仕事をしてるとは思えないくらい上品。その振る舞いは二軍以下で燻ってた頃は分不相応でファンからも物笑いの種にされてたのに、文句なしの一軍戦力になった今じゃ逆に一流選手らしいとしか言えない。


「あら、どうされました?」


 つい花城さんを見つめてたのは俺だけでなく千代里もだった。俺自身も燻ってた頃の花城さんを陰ながら嗤ってた側だったから答えに迷ってたけど、千代里が代わりに答えてくれた。


「いや……同じ状況で投げても、あーしと花城さんじゃこんなに違うんだなって……」

「お、俺もまぁ……似たようなこと考えてて……」

「……なるほど。先ほどの監督のお話を気にされていらっしゃるのですね?」


 まぁ、とどのつまりはそういうことだな……


「俺ら何年も燻ったままですから……正直、これからやっていけるか不安で……」

「失礼ですが、お二人はおいくつでしたか?」

「え?えっと……どっちも今年23っす。高卒の5年目っす」

「わたくしより一回り下ですか。ならばまだまだこれからですよ。社会人出身で育成指名のわたくしと比べれば、ずっと期待されてるじゃないですか」

「期待と実力は別物っすよ……あーし、自慢でもなんでもないっすけどドラ1でこんなんっすから……」


 元々千代里は自信家だけどあくまでその根拠は今の実力で、実績とかドラフトの順位とかを鼻にかけるような奴じゃない。そんなんだから、過去の栄光なんてのは今となっちゃ足枷でしかない。逆に俺なんかは本指名の最下位だから、まだ千代里達と比べたら冷静でいられてるんだと思う。

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